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 階層内を巡回していた監視型のマシナリー系クリーチャー。

 発見されると即座に周辺の仲間を呼び集めるそいつを、リゼが『飛斬』で両断する。


「あーあー可哀想に。チクるしか能のねぇ下っ端なんだ、パシリの役目くらい果たさせてやれよ」

「馬鹿言わないで。避けられる戦闘は避けるべき――ッ!」


 呟く最中、弾かれたようにチドリを抜くリゼ。

 振り返る際の捻りを乗せて放った刺突は虚空を翔け、廃ビルの壁に張り付いていた小型マシナリーを貫く。


 ……が。少しだけ遅かった模様。


「チッ」

「あーらら」


 耳に刺さる警報音。

 わざとらしく肩をすくめると、リゼに半眼で睨まれた。


「アンタ気付いてたでしょ」

「ハハッハァ! 怒るなよ、ほんの悪戯心さね!」


 樹鉄刀に手を伸ばし――思い留まる。

 先程、無茶な使い方をしたばかり。暫く休ませるべきだろう。


「詫びだ。お前は手ぇ出さないで構わんぜ」

「そ」


 短く返したリゼが素早く姿を隠すと同時、入れ替わりで押し寄せるクリーチャー達。

 数は二十ばかり。ちょいと少ないが、まあ食前の運動には程良い塩梅か。


「豪血」


 動脈に赤光奔らせ、フードを被った。

 センサー相手でも認識の狂いは有効らしく、機械ゆえの迷いも淀みも無かった動きが僅かに鈍る。


 その隙を突き、四足獣が如く飛び込んだ。


「ひと噛み」


 先頭の一体の装甲を籠手の鋭利な指先で貫き、動力部を破壊。

 肘まで刺さった左腕を引き抜きつつ、右腕で掌底を繰り出し、突き飛ばす。


「ふた噛み」


 スクラップと化した仲間との衝突で、別の一体の動きが止まる。

 そいつを蹴り砕く。否、踏み砕く。


 具足の跡がクッキリと残るストンピング。

 余った勢いを踏み込みに利用し、跳ぶ。


「三、四、五、六の、七、八、九、十――」


 この四十番台階層で、馬鹿みたいな物量と何度も戦った経験を踏まえ、対集団に於けるスタイルを少し切り替えた。


 足を止めず、勢いを殺さず、あらゆる動作を次の動作へと繋ぎ、敵を確実に一撃で屠る。

 要は『双血』の節制を、今まで以上に強く意識がけた戦い方。


 何せフロアボスやダンジョンボス以外にも強敵はゴマンと居る。

 そして、そういう奴等との戦闘は、往々に突発的だ。

 前菜の雑魚相手に長引かせて貧血を起こし、メインディッシュが疎かとなるなど、あまりにも口惜しい話。

 故に素早く正確に、余力を残し、蹴散らすよう努める。


 ――なんて考えてるうちに、終わってしまった。


「二十三体。討伐所要時間、八秒フラット」


 籠手同士擦り合わせ、火花を散らす。


「まあまあ、だな」




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