第23話「モンスター討伐班」
「今日は新人のユーグを入れた八人で出発する」
と侯爵家のお屋敷の門の前に集まった面子の前で言ったのは班長のボネだった。
何も聞かされていなかったけど、彼が今回の班のリーダーなのは気が楽である。
いくら前世の知識があるからって、いちから人間関係を築くのが大変なことに変わりはないもんな。
他にもファシュがいるのは偶然ばかりとは思えない。
戦闘での連携を考えればいきなりメンツを変更するのはリスクだろう。
ボネ班のメンバーが俺と接点を作ったと考えるべきだろうか。
「よろしくね」
ファシュが右隣に来て微笑んだので、笑顔でうなずく。
「知り合いがいるのはありがたいですね」
「軍官殿の配慮だと思うよ」
とファシュは小声で言った。
「戦いやすさとかどうしてもあるしね」
なるほど、新人がなじめるように配慮してくれるわけだ。
「新人の指導役はファシュに任せ、他の者はいつも通りでいい」
とボネは言うと踵を返して出発する。
まあひとりのために時間を割けないよな。
「今日は領都から日帰りで行ける場所の巡回をするんだ。それから何日か時間をかけて、各地を回っていくんだよ」
とファシュは歩きながら説明してくれる。
「それだと俺が会ったことない武官、けっこういそうですよね」
侯爵家なんだから大所帯なのは想像できたが、会ったことがあるのは全体の何割くらいなんだろう。
「君が会ったことがあるのは、たぶんだけど全体の二割にも満たないだろうね」
とファシュが笑みを消して言った。
そうだろうと納得する。
アガット侯爵家は税収だけで推定三千億ゼンという規模なんだから、領地を維持して運営していくために人手は必要だろう。
「維持するのが大変なんでしょうね、大貴族の家って」
「そこに目がいくなんて、期待されているだけはあるね」
率直に感想を言うとファシュがいきなり褒めてくれる。
「たいていの人間は華やかさにしか目がいかないものだけど。僕も前はそうだったよ」
そして彼は反省を込めて言った。
「たしかに君は他の人と違うと感じるね」
さらに彼はひとりで何やら納得している。
「そうでしょうか? まあわりと変わってるかもしれないですね」
と俺は答えておいた。
何しろ前世の知識があるってだけで、他の人とは違うだろう。
平凡だった俺がいるんだから、他にも転生者はいるんじゃないかと時々思ったりする。
でも、今のところそんな気配はまったくない。
もちろん俺が行けるかぎられた範囲での話なんだが。
「ところでユーグ、警戒は得意かい?」
「あんまり得意じゃないです」
正直に言う。
前世で警戒は他の職業の仕事だったし、俺は警戒用の魔法を覚えるだけの余裕もなかったのだ。
今の俺なら練習したら覚えられるかもしれないので、タイミングを見て練習してみよう。
「そっか、まあ君くらい強ければ仕方ないよね。そのための班だから気にしないで」
ファシュは笑顔で言うが、戦闘特化型な俺へのフォローだろうか。
「ありがとうございます。頼りにしています」
お礼を兼ねて答えると彼はくすっと笑う。
「もっとも僕は防御型で、敵を探知するのは他の人の仕事なんだけどね」
「そのための役割分担ですね」
と彼の教えを反復する。
「そうそう」
前世だってひとりで何でもできる規格外のバケモノはすくなかった。
たいていは攻撃、防御、回復の三人一組で、例外としてふたり一組がまれにいたくらいだった。
「ユーグはボネ班長と並ぶアタッカーとして期待させてもらうよ」
「頑張ります」
俺はひかえめに答える。
単純な一対一なら俺に分があったかもしれないが、モンスターとの戦闘については彼のほうが一日の長があるんじゃないだろうか。
この体になってから未経験だからな。
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