016 楽しかったよ
……とはいえ何をどこからどんな風に語ればいいのかイマイチよくわかんないんだよナア。何せおれたちの歴史は二十年以上もあるんだ。そんなに!? って思ったでしょ、そんなにでーす。さてそれをどーいう風に要約して喋ろうか、悩もうと思えば無限に悩めちゃうし……いいや、最初っからぜーんぶ喋っちゃお。どうせだしネ。
じゃあまず……おれの生い立ちの話から。おれの親ってけっこー人格破綻者で、なんて言うんだろーね、戦闘狂? そーいう人種だったの。んで、そーいう人種に一番適した職業ってなぁにって言われたら……まあ、軍人とか用心棒とか、そんなんだよネ。ンでも国とか、上司になる人に対して尊敬の念を抱けるタイプかって言われたらそーでもないから、お金で雇われるフリーの兵隊さん……傭兵ってゆーのかな、そーいうのをずっとやってた。誰かの味方をしたいとか勝たせたいとかそーいうんじゃないから。より多くの報酬をくれる人の方について、とりあえず戦えればなんでもよくって。ずっとそれの繰り返しだったから、おれとおれの親はあちこちいろんな国を転々としてて、故郷とか祖国とかそーいうのがないの。
だいぶ話ズレちゃった、あはは。まあそんな感じの根無草生活を続けて、親が二人とも戦争に行ってる間におれは何してたかっていうと、その時その時で住んでた国の適当な孤児院に預けられてた。いろんな国のいろんなトコに行ったよ、きっとすごく昔に建てられたお城がまだ残ってる地方とか、マイナーな神様を信じてる村とか、本当にいろいろ。戦争が始まるごとに移動して、いくつめだったカナー……それはもう忘れちゃったんだけど、とにかくある時突然ね。
すっごく寒い、ずっと冬ばっかりの国に行った時。そこの孤児院で両親どっちも迎えに来てくれなくなった。死んだの。二人とも。自分から巻き込まれに行った戦争で。……まーこんな生き方してたらこんな風になっちゃう日も来るんだろうなーってわかってたし、ぶっちゃけ「やっとか」って思ったよ。あんまり悲しくなかった……と思う、正直あんま覚えてないんだよネ……。
で、そっから先ね、おれはどこへも行けなくなったってゆーか、行きたくなかったからそこに留まることを選んだ。もー疲れちゃったんだもん! せっかく慣れてきたカナーって頃合いに、次行くよーって腕引っ張られて知らないトコへ連れてかれるの、マジでイヤになってたから、その頃には。だからおれは常冬の国を終の住処として、本格的にそこで生きていくためにいろいろやり始めたワケね。
名実ともに孤児になったおれだけど、それでもタダで孤児院に住まわせてもらうってのはプライドが許さなかったっつーか、申し訳なく思ったの。だから、そこでいろんな仕事をさせてもらってた──仕事っつっても家事と、その延長線上にあるちょっとした力仕事くらいだけど。教会だったんだ、その孤児院があるの。だからそこそこ広くて、人の出入りも多くて、掃除したり客の応対してたらけっこー重労働だったよ? あと、そこに住んでた孤児ってのは勿論おれ一人だけじゃなかったから、その子たちのお世話も。おれその頃には結構歳食ってたから、年長さんだったの。大変だったナー、チビっ子たちの相手するの……
……でも、全然イヤじゃなかったヨ。教会の仕事するのも、チビどもの相手するのも。神父様やシスターたちはおれが大きくなるにつれてどんどん頼ってくれるようになったし、チビたちはおれのことオニイチャンって呼んでくれて……。楽しかった……。
……楽しかったよ、確実に。少なくともおれがそこで生きてた間は、ずっと──。……、……ああ、違うかもしれない。最後の日だけは、たぶん、楽しくなかった。おれが死んだ日、殺された日──。
いま
──たくさん居た中のひとり、おれの妹、同じ十字架の下で暮らしてた女。
……今日はここまでにしとこっか。もう帰ってもイイヨ。じゃーね。
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