2.孵らずに朽ちた雛鳥
015 テキトーなノリ
「血のつながりなんかなくても、信じ合える人々はそれだけで家族になれるよ」と誰かが言った。
でもそれは所詮、つながりがある人の言い分だと思うんだ。
どれだけの時間を一緒に過ごしても、どれだけの危機を共に乗り越えても、どれだけの秘密を共有しても。
おれたちは家族になれない。……なりたくもないけど。
そうだとしても、
おれには、二人の妹がいる。
◆
「おはよう、兄さん」
目が覚める。見知った、薄汚い天井。そこに張り付く蛍光灯の光は、遮られている。寝ているおれを覆い被さるよう見下ろす人影があった。
やつはだいたいどこでも
そいつはおれの主だった。おれは人間ではない。正確に言えば、元は人間だったけど今はそうではない。
何年前かに死んで、こいつの手によって蘇ったから……ゾンビかフランケンシュタインって呼ばれるモンに近いのかな。そーいう感じの、バケモンに成り果てている。
「体の具合はどう? 新しくよさそうな
パッと見、人間にしか見えないんだからバケモンなんて言い過ぎじゃないかって思われるカナ?
でも、違うのだ。実はいろいろと弄くり回されていて、中身はとうに人間とはかけ離れた構造になっている。
おれに与えられた役目は、用心棒とか護衛とか、そーいう荒事の対応だから……それなりに戦えちゃうよう作り替えられてるのだ。とはいえ腕から刃物が生えるようにしてーとか、脚はブースター内蔵で音速機動できるようにーとか。そーいうきちんとした設計は成されていない。
おれの体は、
なんとなく強そうな爪とか、牙とか、ツノとか。そーいうのを見かけるたびにこいつは面白がって買ってきて、おれの中にまぜる。一応おれの好きなように出したり引っ込めたりはできるけど、それでもメチャクチャだ。
だから多分おれにはゾンビとかフランケンシュタインとかいう呼び名も相応しくなくて、正しくは、
だとしてそう呼ばれるのは少し悲しいという、人間っぽい心も残っている。だからおれは、他人に「オムレツ」と名乗っている。遅く起きた日曜日の昼、とりあえずなんか食いたくて作るみたいな。冷蔵庫に残ってる切れっぱしとかカケラとか寄せ集めて、卵で綴じて完成させるアレみたいな存在。おれに似ているから、もう誰に名乗る必要もない名前の代わりに使ってる。さすがに名前にしてはヘンな語だから、ひとにはビックリされるけどさ。
おれは気に入っている、というか、このくらいのテキトーな名前がおれにふさわしいと思ってる。仰々しく呼び合うのって苦手なんだ、だから遅起きした休日のテキトーなメシみたいなノリで扱ってほしいワケ、わかる?
「よかった。問題なさそうだね、兄さん。今回のは……」
……だというのにわかってくれないヤツがここに居るワケなんだよなあ。
こいつは、おれの妹だった。詳しいことはもう少し後に教えてあげよっカナって思ってるけど……とにかく、血は繋がってないけど、妹。主にして妹。生きてた頃から、妹。
二重の意味で逆らえないヤツ。どーしよーもねーヤツ。おれの人生メチャメチャにしてくれやがったヤツ。殺してやりたいヤツ。だけど、いつまでも見守っててやんないとダメだなってわかるヤツ。
そーいう、マーブル模様みたいにグチャグチャした気持ちでいつも接してるのが、
こいつとおれとの長きに渡る因縁の話、辛気臭くてつまんねーだろうけどしていきたいから……ま、テキトーなノリで聞いててくれると幸いだよ。なあ? あんた。
.
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます