2.孵らずに朽ちた雛鳥

015 テキトーなノリ



 「血のつながりなんかなくても、信じ合える人々はそれだけで家族になれるよ」と誰かが言った。

 でもそれは所詮、つながりが人の言い分だと思うんだ。

 どれだけの時間を一緒に過ごしても、どれだけの危機を共に乗り越えても、どれだけの秘密を共有しても。

 おれたちは家族になれない。……なりたくもないけど。


 そうだとしても、

 おれには、二人の妹がいる。





「おはよう、兄さん」


 目が覚める。見知った、薄汚い天井。そこに張り付く蛍光灯の光は、遮られている。寝ているおれを覆い被さるよう見下ろす人影があった。

 やつはだいたいどこでも冒涜者ブラスフェミアと名乗っていた。冒涜を意味するblasphemyという単語を人名風にもじって、ブラスフェミア。

 そいつはおれの主だった。おれは人間ではない。正確に言えば、元は人間だったけど今はそうではない。

 何年前かに死んで、こいつの手によって蘇ったから……ゾンビかフランケンシュタインって呼ばれるモンに近いのかな。そーいう感じの、バケモンに成り果てている。


「体の具合はどう? 新しくよさそうな部品パーツが見つかったから、いつもみたいに混ぜといたけど」


 パッと見、人間にしか見えないんだからバケモンなんて言い過ぎじゃないかって思われるカナ?

 でも、違うのだ。実はいろいろと弄くり回されていて、はとうに人間とはかけ離れた構造になっている。

 おれに与えられた役目は、用心棒とか護衛とか、そーいう荒事の対応だから……それなりに戦えちゃうよう作り替えられてるのだ。とはいえ腕から刃物が生えるようにしてーとか、脚はブースター内蔵で音速機動できるようにーとか。そーいう設計は成されていない。

 おれの体は、冒涜者こいつの手慰みに弄られることが多い。ゆえにどこにどんなモノが埋め込まれて、どのように動作するかとか、細かく決められていないのだ。

 なんとなく強そうな爪とか、牙とか、ツノとか。そーいうのを見かけるたびにこいつは面白がって買ってきて、おれの中に。一応おれの好きなように出したり引っ込めたりはできるけど、それでもメチャクチャだ。

 だから多分おれにはゾンビとかフランケンシュタインとかいう呼び名も相応しくなくて、正しくは、合成獣キメラとか混ざり物クリーチャーとか。そう呼ばれるのが、正解なんだと思う。

 だとしてそう呼ばれるのは少し悲しいという、人間っぽい心も残っている。だからおれは、他人に「オムレツ」と名乗っている。遅く起きた日曜日の昼、とりあえずなんか食いたくて作るみたいな。冷蔵庫に残ってる切れっぱしとかカケラとか寄せ集めて、卵で綴じて完成させるアレみたいな存在。おれに似ているから、もう誰に名乗る必要もない名前の代わりに使ってる。さすがに名前にしてはヘンな語だから、ひとにはビックリされるけどさ。

 おれは気に入っている、というか、このくらいのテキトーな名前がおれにふさわしいと思ってる。仰々しく呼び合うのって苦手なんだ、だから遅起きした休日のテキトーなメシみたいなノリで扱ってほしいワケ、わかる?


「よかった。問題なさそうだね、兄さん。今回のは……」


 ……だというのにわかってくれないヤツがここに居るワケなんだよなあ。

 こいつは、おれの妹だった。詳しいことはもう少し後に教えてあげよっカナって思ってるけど……とにかく、血は繋がってないけど、妹。主にして妹。生きてた頃から、妹。


 二重の意味で逆らえないヤツ。どーしよーもねーヤツ。おれの人生メチャメチャにしてくれやがったヤツ。殺してやりたいヤツ。だけど、いつまでも見守っててやんないとダメだなってわかるヤツ。

 そーいう、マーブル模様みたいにグチャグチャした気持ちでいつも接してるのが、冒涜者いもうと

 こいつとおれとの長きに渡る因縁の話、辛気臭くてつまんねーだろうけどしていきたいから……ま、テキトーなノリで聞いててくれると幸いだよ。なあ? あんた。


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