第84話 思わぬ救援
膠着状態だ。
元枢機卿からはあれ以降攻撃は無い。それはそれで楽なのだが、奴のMPがジワジワと増えてきているのが嫌だ。時間と共に回復しているという事だろう。
あの最強攻撃魔法を撃ってこられると私でも対処できない。MP的にまだまだ撃ってこないとは思うけれど。
今のところ魔物の群れは街へは行っていない。元枢機卿は街より私を倒す方を重視しているようだ。そういう意味ではリリア達や街は安心だ。
でもそれは全ての魔物が私の方へと向かっているという事でもある。今回初射撃、いや起動の曲射用疑似榴弾発射魔法、通称ハンマーで広範囲に叩いているのだがきりがない。
しかも集まっては仲間を踏み越え、土壁を乗り越えてこようとする。そのたびに魔法で周囲の魔物をぶっ飛ばさなければならない。だからちっとも休まらない。あと魔力ポーションまずい。
あたりはすっかり暗くなった。まだ空間は乱れたままだ。戦況も変化なし。自在袋に入れておいた非常用のサンドイッチをぱくつく。魔力ポーションのおかげでもはや味がわからない、
どれ位耐えれば状況は変化するだろうか。サクラエ教官とかA級冒険者とか、まっとうな連中が助けに来てくれるだろうか。
そんな事を思いつつ作業のように敵を倒してはポーションを飲みを繰り返している時だった。
やばい魔法の気配がした。魔力の方向的に元枢機卿ではない。でも明らかにヤバい魔力だ。とっさに
すぐに衝撃はやってきた。空から叩きつける大小の隕石群。間違いない。この魔法は
これを使うのはこの国では1人しかいない。血統的に受け継いでいる筈のインバラ侯爵家でも現在ただ1人だけ。
周囲の魔物の気配が急減する。ここを脱出できるか。一瞬そう思ったが無理そうだ。安全圏が遠すぎるし、魔物の後続がまだまだ続いている。
それにしても何故マリアンネ様の超級魔法が……
そう思った時だった。
『アン、聞こえるか。大丈夫か』
やな奴から伝達魔法が入った。でも涙が出る程ありがたい。孤軍奮闘といえば聞こえがいいが実情は雪隠詰めだ。涙が出てくる。
『聞こえますわ』
『遅くなってすまない。今、そっちに向かっている』
無茶苦茶ありがたい。有難すぎて涙がとまらない。でもちょっと待って欲しい。ここは魔獣がわんさかいる戦場だ。
『まずいですわ。殿下がこんな危険な場所に来ては』
『僕だけではない。リリア、ナタリア、リュネット、ナージャ、それにマリアンネとアニーもいる』
やばい、涙が駄々洩れ状態だ。でも何でこうなったのだ。マリアンネ様がいるのは魔法でわかっている。でも状況がわからない。
『あと
それくらいなら大丈夫、耐えられる。そう思って、そして少し冷静になる。
助けに来てくれたのは本当に嬉しい。でも嬉しいばかり思っていてはいけない。奴らは私にとって大切な連中なのだ。背後にあるカーワモトの街よりも、いや私にとってはこの世界で一番に。
だからあえて期待とは逆の事を伝達する。
『危険ですわ。敵はかなり強力な遠隔攻撃魔法を撃ってきます。私1人でも耐えるのがやっとの威力です。狙われないうちに急いで撤退して下さい。私は当分大丈夫ですから』
私1人ならあのやたら強い攻撃以外は耐えられる。でも皆の魔力だと危険だ。私1人ぎりぎりの範囲で
大人数で食らったらMPも倍以上は必要。リリアの魔力が完全でもMPが足りない。
『心配ない。僕の魔力をリリアに完全連結している。この状態でリリアが
そうか、その手があったかと思う。確かにリリアと殿下を足せば私に近い魔力量になるな。そう思った時だ。
『お姉さま1人で無茶しないで下さい!』
リリアが割り込んできた。
『襲撃してくる魔物を1人で抑えるなんて、いくらお姉さまでも無茶です。無茶過ぎます!』
確かに自分でも無茶していると思っている。おかげで手詰まり状態だ。だから正直ありがたい。涙が止まらないほどだ。
こんな姿、リリアには見せられないなと思う。清拭魔法を起動してさっと涙と汚れを落とす。私は侯爵家令嬢、アンフィ―サなのだ。
『単に成り行きでこうなっただけですわ。それより街の方はどうなりまして』
『冒険者ギルド支所での事は聞いた。戻ってきた偵察担当冒険者やギルド支所長の報告も既に上がっている』
あの
『だが近衛騎士団も第一騎士団も動こうとしない。堪らず
結果、衛士隊と冒険者の有志で街の北側を防衛するのがやっとという状態だ。ここまで腐っていたとは僕も思わなかった』
予想以上に酷いな、うちの無能貴族共。さしずめうちの実家なんかも真っ先に逃走したクチだろう。
『そんな状態なのによく、来てくれましたわね』
やばい。また涙が出てくる。でも泣いてなんかいられない。
『その辺の礼は後でリリア達に言ってくれ。ここまで来れるのはリリアの作戦のおかげだ。僕とリリアの魔力で防御魔法を展開し、マリアンネの攻撃魔法で敵を薄くして、ナージャの
何だその脅威の戦闘システムは。確かにそれならこの敵密度がやたら濃い中でも進めるだろう。私1人と比べると圧倒的に手数と攻撃力が大きい。
それにしてもだ。
『まさかマリアンネ様とアニーまで来ていただけるとは思いませんでしたわ』
『逆ですわお姉さま』
おっと、何だリリア。
『どういう事ですの』
『マリアンネ様が言ったのですわ。行かないのなら、私達だけで出ますわよって。アンフィ―サ様なら戦力さえある程度揃えば絶対何とかする筈ですわって』
うわっ、そう来たか。まさかマリアンネ様が……
おかげで私はまた涙が止まらなくなる。
こうなったら逃げるだけではない。期待に応えて勝ちを取りに行くとしよう。私の頭脳がフル回転を開始した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます