第81話 強行突破

「それでは、せめて、装備を家に……」

 所長、往生際が悪い。


「今は一刻を争う場面です。そのような余裕はありませんわ。代わりに身体強化を極限までかけて差し上げます。あと剣はこちらをお使い下さい。間に合わせですがそう悪い剣ではありません」


 身体強化をきつめに起動してかけた後、かつて実家から送って貰った片手剣と盾を渡す。大人の男用にはやや軽めだが偵察という性質上これで十分だ。


 もとよりガレウス所長の腕になんて期待していない。こいつの根性をたたき直すと同時に私の目的の為に連れて行くだけだ。

 だから実際は剣も盾もいらない。でもまあそこは気休めという奴だ。私ではなく所長の気休め。


「おお、何と体が軽い。剣が軽い」

 所長、感動している。そりゃ身体強化をここまでかければどんな剣でも軽くなる。反動で身体強化が切れた後の数日は筋肉痛で苦しむだろうけれど。奴にそこまで教えてやる義理はない。


「それでは強行偵察、参りますわ。今のガレウス殿なら私の足に余裕でついてこられる筈です。誓いの水晶玉に宣言した事を忘れず、ついてきて下さい」


 私自身にもそこそこの身体強化をかけ、走り出す。北門で衛士に偵察第2弾である事を告げるとあっさり通してくれた。


 門を抜け。街を囲む壁の外へ。

 ゼンガンジー山方向をさっと魔法走査する。予想以上の魔物反応だ。とても数え切れる数じゃない。


 確かにこれなら2種魔物災害は確実だろう。どこの部隊が出る出ないの問題ではない。出せる戦力全て出して早急に片づけなければならない事案だ。


 更に詳細に走査を行う。センガンジー山へとのびる作業道の1つ、山の中腹にさしかかる地点で活発な反応。魔力の数と反応からして、どうやら戦闘中の様子だ。


 これがおそらく偵察隊だ。相手はゴブリン、ただしかなり統制がとれている模様。上位種が指揮をとっているのだろうか。


 さっさと兵力を出す為には偵察隊に報告して貰うのが正しいだろう。所長を使って会議している馬鹿共より更に上へと報告させればいい。それなら私自身も目立たない。


 偵察隊の戦況は宜しくない。今のところ被害は出ていないが相手の数が多すぎる。そう長くは持たないと思っていいだろう。


 よし、行くべき目標はわかった。急ごう。


「偵察隊が苦戦しているようです。回収しますわ」

「おう、こうなったら仕方ない。何でもやってやろうじゃないか」


 所長は身体強化で気が大きくなっているようだ。でなければやけになっているか。


「それでは突っ込みます。私に遅れない程度の速度でついていらして下さい」

 

 私は走り出す。私の身体強化は勿論、後に筋肉痛にならない程度。だから補助として風魔法で背後から風を出し、移動の助けにする。何せ行先は山だ。坂道をのぼる助けは多い方がいい。


 ガレウス所長がちゃんとついてきているか、背後の気配を確認しつつ走る。よしよし、その調子で頑張ってくれ。

 ゴブリンの反応が多くなる。この道にも何匹か出てきているようだ。


「雑魚は無視します。先行する偵察隊と合流が第一目的です」


 私は小型ドローンファイアフライ魔法を5個起動。走りながら狙いをつけるのは面倒だ。こいつでとにかく邪魔を吹っ飛ばして行こう。


 小型ドローンファイアフライは前へと飛んでいき、ゴブリンの頭部を破壊する。でもまだまだ数がいる。だから更に5個起動。これもまたあっさり先行して邪魔なゴブリンを吹っ飛ばす。


 山に近づいたので坂がきつくなる。風魔法を更に強くして対処。魔力はまだ大丈夫、まだMPにして200も使っていない。

 平均的な生徒なら既に魔力不足で気絶寸前だろう。でも私の魔力は4桁を誇る。


 今日は補給担当のリュネットがいない。でも代わりに魔力ポーションが上中下それぞれ90本以上自在袋に入っている。

 だからまだまだ大丈夫だ。


 坂がきつくなったせいか所長が遅れ始めた。この根性無しめ。


「遅れるとゴブリンの集団に襲われますわ。必死でついてきなさい」


 脅しでないとわかるのだろう。所長が速度をあげる。どうやら疲れたので楽をしたようだ。この根性無しめ。


 更に道の前方、今度は少し大きいのを発見。


自爆型ドローンハロップ! 自爆型ドローンハロップ! 自爆型ドローンハロップ! 自爆型ドローンハロップ! 自爆型ドローンハロップ!』


 オーク程度では私の足は止められない。でもこの辺りでもうオークが出てくるとは正直かなりヤバい。


 リリアとか殿下、ナージャやナタリアならオーク数匹程度は瞬殺できる。でも普通の兵士だとオーク1匹に兵士3人というのが定石だ。


 よく偵察隊、この先までたどり着けたなと思い、そして気づく。先程偵察隊が戦っていたのはゴブリンだった筈だと。


 その手前なのにもうオークがいる。つまり魔物が偵察隊が出た当時より増えているし強いのが出てきているという事だ。


 これは早く偵察隊に追いつかないとヤバいかも。仕方ない。筋肉痛覚悟で私の身体強化を更に上げる。


「魔物が増えているようです。更に速度を上げます。遅れたらどうなるかはわかっていますね」


「これ以上、ですかあ……」

 頼りない返答。


「オークを1人で倒せるならゆっくりで結構ですわ」

 よし黙った。これで少しは冒険者の苦労も理解しただろう。


 オークもゴブリンもかなり多くなってきた。結果、常時自爆型ドローンハロップ小型ドローンファイアフライを起動させながらという感じになってしまう。


 これら魔法1発ずつの必要魔力は小さい。でも連続して出していると魔力の減りも馬鹿にならない。


 仕方ない。300ほどMPを消費した時点で魔力ポーション中を自在袋から取り出す。走りながらぐいっと一杯。

 MPが200回復した。でも不味い。口直しが欲しいところだ。飲んでいる暇はないけれど。


 やっと正面に偵察隊が見えた。ちょうど岩場がオーバーハング状になっている部分の下にいる。パーティは5人しかいないが狭隘になっている地形を使って何とか戦っているようだ。


 既に相手はゴブリンだけでない。オークも混じっている。かなり善戦していると言ってもいい。

 

 私は自爆型ドローンハロップ小型ドローンファイアフライを大量起動する。一気にMPが200近く減ったが仕方ない。


『援護します。敵が倒れたと同時に後方へ逃げて下さい!』

 伝達魔法で偵察隊全員にそう伝える。同時にドローン魔法が飛んでいった。

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