第76話 余計なフラグ
「次に再発防止についてだ。
まず本件事案の公表及び公表妨害阻止の徹底だ。中央教会傘下の全ての教会、及び大陸内各国に対し本事件の一部始終を文章で公表して貰おう。無論誓いの水晶玉による内容証明を付けてだ。もちろん事実に反する噂を流布する等、妨害措置は禁止させて貰う」
つまり教会側が悪かったと認めさせるのが第一という訳か。確かにそれは必要だろうと私も思う。
「次に事案内容の徹底的な解明だ。この為に本件についての重要な参考人である、教団の責任者を自認した枢機卿のイ・ワミ王国への出頭を要求する。我が国の審判院で誓いの水晶玉を使用し、本件について知っている事を全て証言して貰おう。勿論参考人としても教団責任者としても不足ない扱いを約束しよう。参考人としての間はな。ただし逃亡防止措置は当然させていただく」
つまりあの悪そうで強そうな枢機卿を引き渡せという事か。処罰では無くあくまで参考人として。
「更には中央教会の組織改革だ。教会は本来、神の教えを人々に伝える組織であった筈。それが他国に黒き司祭団のような犯罪組織を持っているというのはそもそもおかしい。そういった事を含め、中央教会組織の徹底的な組織改革を要求する。勿論その成果と実効性は常に誓いの水晶玉を使用して各国が監査する事とする」
つまり中央教会の徹底的な骨抜き作業だ。これらが実行されれば中央教会の各国に対する影響力は一気に落ちる。中央教会としてはかなり厳しい内容だ。
それだけに中央教会側としては抵抗するだろう。当然素直に全部を飲むとは思えない。そうなると、落としどころはどうなるのだろう。
また誓いの水晶玉の事も忘れてはいけない。あれがどういう効果を起こすのだろうか。普通の人間が誓いに背いた場合だと最悪死亡だけれども
「わかりました。妥当なところでしょう」
そう言って教官は誓いの水晶玉を懐に仕舞う。
「さて、誓いの水晶玉は自在袋に仕舞いました。それでその後はどうなると思われますか。これはアンフィ―サ君の安心の為にも聞いておきたいところですが」
「取り敢えずアカツカ枢機卿を内部で始末した上で、全てを彼のせいとして中央教会としての罪を逃れようとするだろう。だが誓いの水晶玉の前に出て無実を証言する事は出来ない。かといって教団の罪を認める事も出来ない。
態度を決められないまま組織は弱体化する。中央教会だけでなくアキ教国全体が内部分裂する可能性が高いだろう。我が国としてはそれまで向こうが忘れない程度にこちらの意志を勧告しつづける事としよう」
サクラエ教官は頷いた。
「それで宜しいでしょう。こちらからは誓いの水晶玉の証言があります。故にあえて当方が動かなくとも教会の方は動かざるを得ません。おそらく動けないまま神罰を受ける可能性が高いでしょうけれども」
神罰とはどんな内容なのだろう。国王陛下もそう思ったようだ。
「参考までにどのような神罰が下ると思うかね」
「前例からすれば、最初はイツ・クーシマ中央教会の本部建物が落雷被害で損傷するでしょう。次には各国王都に置かれた中央教会の国総本部が同じ目に遭うかと。それでも変化がなければ今度は高位の者から病気になると思われます」
うーむ。なかなか強烈な事になりそうだ。だが同情する気にはならない。だいたい向こうが私を狙ってきたのが悪いのだ。
それにそもそもが真っ黒な組織なのだろう。私の件なんて氷山の一角ってところだろうし。
なんて思ったらサクラエ教官が私の方へ向き直る。
「アンフィ―サ君、そんな状況だ。おかげでこの大陸の癌であるイツ・クーシマ中央教会を正す事が出来るだろう」
おい待て教官、それは私の功績などではない!
「あくまでこれはサクラエ教官のおかげです。私はただ被害に遭っただけで、その上エンリコ殿下も巻き込みかけてしまいました。至らなさを反省するばかりです」
「だがエンリコの身に何もなかったのも、更には教会が行動に出ざるを得なかったのも元はと言えばアンフィ―サのおかげだろう。そこは間違いない」
こら陛下、それは断固として違う。そう言いたいのだが言えない。国王陛下と侯爵令嬢とは言え一国民という権力関係故である。
「これから私はしばらくこの件にかかりきりになる。だが研究室は好きに使ってくれ。手順込み魔法作成講習会の方は私がいない間はチガネ君に手伝ってもらうよう要請した。だから心配いらない」
「あの講習会は
陛下そんな事を言わないでくれ。それが毎回心の重荷になっているのだ。もちろん小心者の私はそんな事を言わないし言えないけれど。
「それでは陛下、アンフィ―サ君を学校へと送って参ります。中央教会についての続きと各国への本件伝達についてはその後に」
「あいわかった」
それにしてもサクラエ教官、本職は何なんだ全く。
確かに有能なのは認める。でもこの様子だと国王陛下の部下としてもかなり働いているようだ。それともこの辺は特級冒険者に対する依頼としての働きなのだろうか。
いずれにせよとんでもない奴なのは間違いない。私の手に負えない。確かに有能だし技術的に魔法的に勉強になる存在ではあるのだけれど……ううむ。
「それではアンフィ―サ君、もう一度遠隔移動をゆっくり起動するからよく観察しておけ。今のところこの魔法を使えられそうなのは君しかいない。私の代で消すには惜しい魔法だ。だから確実に覚えるように」
おいそれ国王陛下の前で言うか。これ以上私を重要人物にしてどうする。
そう思った時には既に遅かった。
私が訂正する間もなく、移動魔法が発動する。
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