第63話 マリアンネ様達の第一試合
「そろそろ第一試合が始まるようですわ」
思わぬ展開に飛びそうになった意識が戻る。本戦第一試合はマリアンネ様達の試合だ。しっかり観察する必要がある。
結果そのものはどうせマリアンネ様達の圧勝だろう。でも新しい魔法を披露する可能性もある。愚直な努力家を甘く見てはいけない。マリアンネ様は往々にして誤解されるが間違いなく努力家だ。しかも努力だけで無く魔法の才能も持っている。
会場が整えられ、第一試合のパーティが出てくる。マリアンネ様の相手は3年生、ただしあまり目立たない男子生徒2名のパーティだ。さてどうなるだろうか。
なお攻撃目標のダミー人形は被ダメージを計測可能という高価な魔法人形だ。これが2体、両パーティの側方
「どうせ圧勝にゃ」
ナージャはそう言いつつも試合場から目を離さない。他の皆も同じだ。
「展開は今までの試合と同じかな」
「それで勝てるのは間違いないけれどマリアンネだからな。何か新しい事をやってくる可能性はある」
試合開始。同時にマリアンネ様のパーティは
「アニー様が起動したね、
リュネットの言う通りだ。今回
でも確かアニーはあまり魔法を得意としていなかった筈なのだが……そう思って私はステータスを確認する。おっと、最大MPが110か。今のうちのパーティの皆に比べると低いが全体で見ると決して低い値では無い。むしろ平均より高い方だ。
レベルも25、殿下のチートを使って増やしたうちのパーティと比べても遜色無い。更に称号に『守護騎士:身体強化魔法及び防護障壁魔法に必要な魔力が半分、防御力5割増し』なんてつけている。称号は違うがナタリアとほぼ対等だと思っていい。
「相当鍛えたなあれは」
「ええ、
マリアンネ様はゆっくりと呪文を唱えている。予選と同じくわざと時間をかけているようだ。
「うちと同じだね」
いや違うんだ、リュネット。
「実は正反対なのですわ。他がそもそも比較の対象に至らないだけで」
「攻撃に重点を置くか防御に重点を置くか。アンはそういう意味で正反対だと言いたいのだろう」
くそエンリコ殿下め、よくわかっていやがる。
「その通りです。防御系の呪文はつまるところ攻撃の威力との力比べです。ですのでうちのエースであるリリアにあえて防御系の魔法を担当していただいたのですわ」
「攻撃魔法を得意とする者は防御系の魔法をあまり得意ではないのが普通だ。アンのように両方とも使いこなす者はごくわずか。そして攻撃魔法を得意とする者の方が概して魔力は高い。だから結果的にはマリアンネ達のような攻撃重視型で防御魔法はサブという形になるのが普通だ。
アンの非凡なところは、攻撃魔法を得意とする者が使いやすい防御系魔法を作り出して使用させた処だ。本来は攻撃重視より防御重視であるべきだからな。攻撃が通らなくても防御できていれば撤退という選択肢が残る。でも万が一防御が破られてしまえば次は無い」
くそ殿下め。お前のこういうところが大嫌いなのだ。まさにその通り、誰よりも私の意図をよく理解してしまっている。この件に限らず殿下、あらゆる面で出来が良すぎる。ゲームと違って。私は中身がおっさんだからお前に惹かれる訳にはいかないんだ。だから少しはモブに徹してくれ。
「そろそろ決まるにゃ」
ナージャの台詞で試合場に注意が戻る。ちょうど3年生のチームが攻撃魔法を完成・起動させるところだった。内容は少しだけお飾りがついた中級の
「……粛正せよ!
マリアンネ様の超級魔法が起動した。相変わらず見事だ。広範囲殲滅型魔法なのにきっちりダミー人形の部分だけを攻撃している。ダミー人形は跡形も無いどころか、その部分に小降りのクレーターが出来てしまってはいるけれども。
「決勝戦はこの魔法とリリアの魔法の力比べになる訳か」
「でも今見た魔法、かなり力を抜いていますわ」
「そうですね。風魔法で砂埃を防いだりする余裕もあるようですから」
本当に全力で来た場合、リリアの
「勝負を決めるのはリリアとマリアンネ様では無く、ナタリアとアニー様になるかもしれませんね」
こっちは7対3くらいでナタリアの方が有利だ。ナタリアの方が最大MPが高い。
「いずれにせよ勝負は明日だな」
エンリコ殿下がそう言ったところで、
「でもとりあえずは今日の第四試合だにゃ」
とナージャが茶化すように言った。
確かに決勝まではあと2戦ある。だからナージャが言う事は正しい。
ただ正直、マリアンネ様達以外のパーティはどうにも危機感を感じない。予選で見た限りでは何処も大した魔法を使っていなかったし。
「一応緊張感は持っておきましょう。何が起きるかわかりませんから」
リリア自身もそう感じているようだ。台詞と雰囲気からして。
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