普通のとはまた別の……

結局二人が店で防具を買うことはなかったが、前回の戦いで手に入れたリザードマンジェネラルとスカーレットリザードマンの鱗を素材として腕利きの職人に皮鎧を造ってもらうことに決めた。


アポなしで職人の鍛冶場に訪れ、自分たちの力で手に入れた素材を見せ……是非造ってほしいと頼み込んだ。

職人は実力を見極める目を持っており、金さえ用意できるのであれば問題無いと答えた。


ただ、素材が素材ということもあり、一週間待ってほしいと伝えられた。


一週間待つぐらい、特に問題無い。

ティールは二つ返事で了承。


お金に関しても少々お高い値段ではあるが、大量のリザードマン……そしてオークやコボルトの素材を売ったお陰で現在もそれなりに余裕があり、悩むことなく即決。


ティールやラストの実力の高さには驚くことはなかった職人が、制作費の値段に付いて即決したことに関してはほんの少しではあるが驚いた。


(若くて実力がある奴は大事なところで惜しまないんだな……いや、DランクでありながらBランクのモンスターをソロで倒す様な奴らだ。自分たちの勝率や生存率を上げる道具に金を掛けない訳がないか)


職人の耳にもまだ冒険者になって一年にも満たないルーキーが、ベテラン達を差し置いてBランクのモンスターを倒したという話が入っていた。


そしてそれなりに冒険者や傭兵、兵士や騎士たちを視てきた職人は確かに感じた。

ラストという竜人の青年は他者に力強さを感じさせる存在感を持つ。


だが、ティールという名の少年から弱さは感じない。

雰囲気だけであれば、ベテランと似た様なものを感じさせる。

ただ……それらよりも、強い違和感を感じさせる……防具造りの職人の年齢は三十を越えており、そういった雰囲気を持つ者たちとは何度か出会ったことがある。


出会った回数は少ないが、少ないからこそ覚えてる感覚というものがある。


(……いや、あまり深く考えるのはよそう。あのような本当の強者たちに防具を造れる。この機会に感謝し、全力で皮鎧を造らせてもらおう)


既に制作に必要な体の幅などは測り終えているので、必ず一週間いないに終わらせられる自信がある。


職人が二人の皮鎧制作に燃えているとも知らず、二人は宿に戻ってスカーレットリザードマンの魔石を取り出して緊張した顔色を浮かべていた。


「すぅーーー……はぁーーーーーーー…………よし、やるぞ」


ラストは何も行うことはないが、それでもこれから目の前で行われることが成功するのか否か……非常に緊張させられる。


「奪取≪スナッチ≫」


ティールはスカーレットリザードマンの魔石に手を向け、破格の効果を持つギフト……奪取≪スナッチ≫を発動。


「ど、どうなった」


ラストは思わずティールに問うた。

いったい倒したモンスターの魔石からスキルを奪うことは可能なのか……それとも失敗してしまったのか。


顔をグイっと前に出して問うラストに対し、ティールはニヤッと笑いながら答えた。


「成功したよ」


「ッ!!!!」


死体からではなく、倒してから時間が経ったモンスターの魔石からスキルを奪うことに成功。

この事実に、ラストはまるで我が事のように喜んだ。


「そうか……それは良かった。して、いったいどんなスキルを手に入れたのだ?」


「ちょっと待てよ」


スカーレットリザードマンの魔石から確かにスキルを奪ったという感覚はある。

だが、実際にどんなスキルを奪ったかまでは分からない。


「……赤竜鱗。スカーレットリザードマンだけが持つ特別なスキル、か?」


竜鱗というスキルはドラゴン系統に属するモンスターであれば、大抵の個体は持っているスキル。

だが、ティールのそれは通常の個体が持つ竜鱗とは違った。


「赤竜鱗……確か、火の属性を持つ竜種が持つスキルだった筈だ」


「へぇ~~~~。それは確かにスカーレットリザードマンに当てはまるな」


ラストの説明に納得しながら早速赤竜鱗を発動。

すると、腕の部分に赤い鱗が出現。


「こういう感じは変わらないんだな」


既にリザードマンの死体から竜鱗を奪っているので、自身の体に鱗が出現することに驚きは感じない。

ただ、魔力を纏った瞬間に火が噴出したことに関しては驚かされた。

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