天秤にかけるまでもない

「こいつら意外と美味いんだよな」


「……もしや綺麗に毒袋を抜き取れるのか?」


「あぁ、一応。何度も失敗してきたけど」


ティールたちの前に現れたポイズンスネークは,二人によって瞬殺された。

時間を掛けるつもりはなく、頭の直ぐ近くを斬られて終了。


倒し終えたら即座に解体。

ティールは臆することなく毒袋を綺麗に抜き取り、ポイズンスネークを食べられる状態に捌いた。


「こいつは捨てとくか」


「投げたりしないのか? 弱かったがDランクの毒だ。それなりに使い道はあると思うぞ」


「……毒も薬になるし、一応持って帰ってギルドに売るか」


武器としては使わない。

万が一、毒で素材が駄目になったら嫌なので、そっと亜空間にしまった。


「ティールさんは錬金術のスキルを持っているのだろ。なら、自分で使わないのか?」


「確かに錬金術を習得してるけど、まだまだ素人に毛が生えた程度だ。ブラッディ―タイガーを倒した時に手に入れた血もギルドに売った。俺がこういった素材を使うのはまだ早い」


自分の力量を正確に把握しているので、無駄に素材を使はない。


本人がそう言うならばまだ早いのだろうと思い、それ以上は何も言わなかった。


「それにしても、本当に不思議な場所だな。遺跡ってことは、かなり前に人が住んでたんだよな」


「そうだな。遺跡は文明が滅びた跡とも言われている。滅びたが故になくなった技術が残されている……なんて話を年寄りから聞いたことがある」


現代の技術では決して手に入らない物が手に入る。

その価値はダンジョンよりもあると考える者もいるが、二人にとってそんなことはどうでも良い。


ここが冒険者である自分たちがワクワクする場所……それが分かれば他のこと気にする余裕はない。


「……もしかしたらさ、学者の中には遺跡を探索するなって言う人がいそうだな」


「どうしてだ?」


「なんかこう……神秘的な空間って言えば良いのか? 学者たちってそういうのを崩されたり壊されるのを嫌いそうだろ。自分たちの研究対象を破壊されたって思う人がいそうな気がするんだよ」


「な、なるほど? 分かったような分からないような……」


実際のところ、一部の学者が冒険者に対して遺跡を探索するなと抗議したことがある。

冒険者が直接遺跡を壊すことは滅多にないが、モンスターとの戦闘が影響で罅が入ったり壊れることは日常茶飯事。


今二人が歩いている場所にも冒険者とモンスターが戦ったであろう戦闘の跡がチラホラとある。


確かに学者にとって遺跡は研究対象。

だが、遺跡には絶対と言っていいほどモンスターが住み着いている。

そしてモンスター同士が争うことも珍しくないので、結局冒険者が探索しなくても罅や亀裂が入るのは止められない。


加えて、冒険者が遺跡内部の調査に貢献しているというのも事実。

最後に……ぶっちゃけ過ぎる話だが、有名な学者の一部が抗議したところで、冒険者ギルドが持つ権力には敵わない。


よっぽど優れた功績を残した者の意見であれば、国もなんとかしようと動くかもしれないが、冒険者ギルドと学者の一部を天秤にかけたところで、どちらを取るのか決まっている。


「まっ、こうやって俺たちが自由に遺跡を探索できていることを考えれば、そんな人たちの叫びは掻き消されてるんだろうけど」


「組織の力を考えれば当然の結果か……ティールさん、このまま行けば同業者と遭遇するがどうする? 引き返すか」


「このまま行くぞ。そいつらから殺気や敵意は感じないだろ」


「それはそうだが……まぁ、ティールさんがそう言うなら」


ルーキー狩りをするような屑でなければ、わざわざ引き返す必要はない。


そして二人の実力なら、相手がCランク程度の冒険者であれば逆に狩り返せる。


(……ティールさんがどこまで耐えるのか。それとも険悪な雰囲気になれば即座に俺が前に出た方が良いのか……一先ず今回は様子見するか)


嫌な予感が頭に浮かんでいた。

予感通りの流れにならなければ良いと思っていたが、人生というのはあまり思い通りにならないものだと、ラストは思い知らされることになる。

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