まだ時間はあるので軽く運動
「よし、これぐらいにしておくか。どうだ、鈍った体は元に戻ったか?」
「あぁ、お陰様で随分とほぐれた」
合計で一時間ほど体を動かし続け、ラストの体は対人戦の感覚を完全に思い出した。
「今日はこれからどうするのだ、ティールさん」
「……今日は特に何かしようとは考えてなかったからなぁ……でも、時間はまだありそうだから森の中に行くか」
ラストが実戦の勘を取り戻していないので、まだ遺跡には潜らない。
しかし時間は昼過ぎ程度なので、走って移動すれば夕方までには街に戻れる。
「分かった。それでは何か依頼を受けるのか?」
「いや、依頼は受けない。ただ遭遇したモンスターをどんどん倒していく感じだな」
「なるほど、了解した」
目的のモンスターや薬草などを探さず、出会ったモンスターを片っ端から倒す。
とても単純で解りやすい。
ギルドから出た二人は早速森へと向かう……前に、露店で昼飯代わりに色々と食べていた。
「……ティールさん、少々量が多い気がするのだが」
「お前、結構食べるタイプだろ。立場は奴隷だけど、ラストは俺の仲間なんだ。だから気にせず食べろ。あっ、そういう訳だから店で飯食べる時も床に座ったりしなくて良いからな」
「……あぁ、分かった」
あまり表情には出ていないが、ラストの胸はティールに対する感謝の気持ちで一杯だった。
「それにしても、本当に遠慮なく金を使うんだな」
「これぐらいの食費はどうということはない。俺は空間収納を持ってるから、他の冒険者よりも多くの素材や魔石を持ち帰れるからな」
「そういえばそうだったな……他の冒険者からすれば心底欲しいスキルだな」
空間収納を持っていれば、モンスターの素材や魔石を多く持って帰られるだけではなく、戦闘には不必要な荷物を亜空間に入れて身軽に動けるようになる。
だが、空間収納のスキルを習得出来る者は殆どおらず、読めばスキルを習得出来るスキル書も中々手に入らない。
仮に空間収納のスキル書がダンジョンの宝箱から見つかったとしても、売るかそのまま使うかでまず悩む。
冒険者としては空間収納のスキルがあれば大いに助かる。
しかし売ればとんでもない金額が懐に入ってくる。
故に、目先の利益を考えて売ってしまう冒険者の方が多い。
売られた空間収納のスキル書は大抵オークションに出品されるので、一般人では絶対に手の届かない金額になる。
冒険者でも高ランクの物でなければ絶対に手が届かない。
手が届いたとしても、懐に大ダメージなのは間違いない。
(あのギフトによって手に入れたのか? もしかしたら元々才があったのかもしれないが……なにはともあれ、ティールさんは恐ろしいギフトを持っているな)
殺した相手からスキルを奪うギフト、奪取≪スナッチ≫。
それは相手がモンスターだけではなく、人であってもスキルを奪うことができる。
最近ではその奪取≪スナッチ≫も成長しており、殺す以外の方法でもスキルが奪えるようになった。
殺した相手のスキルを奪える。
それがどれだけ凶悪な能力なのか……スキルの面だけでいえば、ティールは才能という壁に阻まれず成長することができる。
「それじゃ、行くぞ」
「了解」
街を出た二人は走りながら森の中に入り、手頃なモンスターを探し始めた。
二人が走って探せばすぐにモンスターと遭遇でき……早速本日初のモンスターと遭遇。
「コボルトランサーとナイト、ファイター、メイジ……随分と珍しい組み合わせだな」
四体とも全て違う方向に進化している。
その光景は珍しい……珍しいが、二人にとってはただの獲物でしかない。
「ラスト、一人でいけるか?」
「あぁ、あれぐらいなら問題無い」
鞘から大剣を引き抜き、上位種の群れに突撃。
匂いで二人の気配に気付いていたコボルトたちはそれぞれの役割を果たすため、ナイトとファイターがラストの突撃を止めようと前に出る。
そしてランサーはメイジが狙われないように集中力全開で構え、メイジは自分が使える中で一番火力が高い魔法の詠唱を始めた。
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