先に治療してもらいたい

ジファーから教会の場所を教えてもらい、早速教会へと向かった。

当たり前だが、道中での会話はない。


ラストはただただティールの後をついて行った。

まさか自分より歳下の者に買われるとは思っていなかった。


だが、不思議とティールが弱いとは感じなかった。

どうせ奴隷として主に仕えるなら、自分より強い人物が良いと思っていたラストにしては、もしかしたら望みが叶った形かもしれない。


「ここが教会か……当たり前だけど、随分と綺麗なところだな」


普段から整備と掃除がされている教会へと入る。

中には神に祈りを捧げている者もいたが、そういったことに興味がないティールは立ち止まらずシスターの元へ向かった。


「すいません、こいつの喉の治療をお願いしたいんですけど」


「……かしこまりました。こちらへどうぞ」


シスターに案内されて場所を移すと、そこにはもう一人のシスターが椅子に座っていた。


(……こういう人が、絵になるっていうのか?)


医療室に座っていたシスターの美しさに思わず見惚れたが、直ぐに気を取り直す。


「こいつの喉を治してください」


「分かりました。まず診察させてもらいますね」


椅子に座ったラストの喉に手を当て、シスターは目を閉じる。

そして数秒後に眼を開けると、少々難しい顔になっていた。


「治せます……ですが、この傷ですと白金貨一枚が治療費として必要になってしまいますが」


「えぇ、問題ありません」


シスターとしてはさすがに高過ぎる値段だと思っているが、値段の設定は教会の本部が決めているので、勝手に変えることは出来ない。


目の前の少年では白金貨一枚を払うことは難しいと思っていたが、少年はあっさりと白金貨を懐から取り出した。


「これがあれば治せるんですよね」


「え、えぇ。確実に治せます」


「そうですか……それでは先に治してもらってもいいですか。さすがに支払う額が額なので」


ティールは目の前のシスターに鑑定を使うのは失礼だと思っているので、シスターがどのようなステータスを持っているのかは知らない。


ジファーの話を信じない訳ではないが、仮に騙されたら……怒りで教会を襲撃してしまうかもしれない。

そういった事態は避けたいので、先にラストの喉が完治したのを確認してから白金貨を渡したい。


これに関しては色々と過去に事件があり、場所によっては先に金を払わないと治さないという者もいる。

ただ、傷を治してもらったのにもかかわらず、無謀にもその場から逃げた者もいる。


そういった者を取り押さえる為に、医療室にはそれ相応の腕を持つ教会専属の兵士がいる。

しかしその兵士が目の前の少年を視て、ラストと同じく違和感を感じた。


長年の経験から、決して見た目通りの実力ではないことは解る。

だが、その実力がどれほどのものなのか……その底が解らない。


「……解りました。それでは、少々お待ちください」


シスターも同じ事を考えていたが、目の前の少年……ティールは金を払わず逃げるような者ではないと信じ、ラストの治療を始めた。


そして数十秒後、シスターはラストの喉から手を離した。


「治療は終わりました。以前通り喋れる筈です」


「……あ、あぁ……本当に、喋れる、ようだな」


思った通りの渋めのイケメンボイスが漏れた。

鑑定で確認すると完全に喉の傷は治っていた。


「こいつの傷を治してくれて有難うございます」


感謝の言葉と同時にティールは約束通り白金貨一枚を渡した。


「いいえ、それが仕事ですから」


用事が終わったのでティールとラストはシスターに頭を下げ、医療室から出て行った。


大きな仕事が終わり、一息つくと自分の身を守ってくれる兵士の顔から汗が流れていた。


「えっと……あ、暑いですか?」


「いえ、そういう訳ではありません……少年が治療が終わってからお金を払うといった時、もし少年が竜人の青年と一緒に逃げたらと思うと……捕まえられるか少々不安がありました」


「そ、そうなのですか?」


いつも自分を守ってくれている兵士の腕は知っているので、まさかその様な言葉が零れるとは思っていなかった。


「竜人族の青年はそれなりの腕を持っているでしょう。ですが、彼一人なら対処出来ます。ただ……青年の主である少年からは……言葉にするのが難しいですね。異質な強さを感じた、というべきでしょうか」


「異質な強さ、ですか」


「はい。なにはともあれ、少年の性格が一般的なものであって助かりました」


護衛としては情けないセリフかもしれないが、紛れもない本心だった。

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