笑う理由はない
「なるほどねぇ……良い目標じゃん」
「……笑わないのか?」
「なんでだ? 別に笑う理由はないだろ。隣に立つのに四歳差なんて関係無い。それに、オルアットがBランクに上がれないって可能性はゼロじゃない……だろ」
「そ、そうか……ありがとな」
自分はまだまだ駆け出しの冒険者。
それに対して、憧れていて……惚れている人は歳上で遥か高みにいる冒険者。
自分でも無謀な挑戦だと思っているが……自分の命を助けてくれた恩人はバカな挑戦だとは言わなかった。
それが本当に嬉しかった。
可能性がゼロではないという言葉が胸に染みた。
「でも、それだけ冒険者として優秀なら、その分良い男が寄ってくるだろうから、早めに良いところを見せた方がいいかもしれないな」
「うっ!! や、やっぱりそうだよな」
オルアットが惚れている先輩冒険者、ニーナはティールと違ってパーティーを組んで活動している。
パーティーメンバーは女子が三人と男子が二人。
珍しい構成ではあるが、男二人はタイプが違うイケメンに分類される。
他にもパーティーを組んではいないが、交流がある冒険者は多い。
それに加えって、ニーナよりも後輩冒険者の中で惚れているのはオルアットだけではない。
誰にでもフレンドリーに対応するニーナの優しさに触れ、一目惚れしてしまったルーキーは決して少なくない。
「俺としてはあまり急ぎ過ぎれば命を落とす確率があるから、お前らに無茶はしてほしくないんだけど……ちょっと言ってることが矛盾してるな」
「いや、ティールが言いたい事は解かる。死んだら元も子もない……けど、急がないと誰かに取られてしまうのも事実だからな」
オルアットはパーティーのリーダー。
私情を挟んで行動する訳にはいかない。
だが、心の中に残る焦りが消えない。
「なぁ、ティール……どうやったら、強くなれる」
「……さっきも似た様な質問を聞いたな」
しかし今のオルアットの表情は興味本位ではなく、マジな顔だった。
少しでも強くなれる情報が欲しい。
そんな必死な思いがティールに伝わった。
「基本的には訓練と実戦を繰り返すしかない……強いて言えば、魔力操作の練度を中心的に上げる。それが強くなる近道かもしれないな」
「魔力操作の練度ってのは、体や武器に魔力を纏うことだよな」
「そうだな。体に魔力を纏えば身体能力や強度が強化される。武器に纏えば切れ味が上がる」
冒険者にとっては基本的な能力だが、この練度によって状況が変わってくる。
「ただ、纏う魔力の質によって色々と変化がある……どっちの方が斬れそうだ?」
人差し指にはただ魔力を纏わせ、中指には豹雷の切れ味をイメージした魔力を纏わせる。
「中指だな」
「だな」
「そうだね。中指の方が断然斬れそうだ」
全員が同じことを思った。
だが、スーラだけが中指に纏われた魔力の質に驚き固まっていた。
(あ、あの一瞬で……こんなにも綺麗な魔力の刃を……強いのは解っていましたが、細かなコントロールもずば抜けてるのですね)
風の魔力を刃に纏い、細剣で戦うスーラはパーティーの中でも一番魔力操作に優れていた。
だが、イメージ通りの綺麗な刃を纏うにはそれ相応の集中力が必要になる。
その通りなのだが、目の前のティールは手遊びをするかのように鋭い魔力の刃を纏った。
しかも、もう一つの指には質が全く違う魔力を纏っている。
(いったいどれだけの時間を魔力操作の訓練に費やしてきたのでしょうか……私など全く足元にも及びませんね)
改めてティールと自分との差を痛感させられた。
「これを、なるべく使う時だけ纏う。そうすれば魔力の節約にもなるからな」
「……またサラッと高難易度なことを言うな。でも、練習あるのみだよな」
「そういうことだな。お前らのパーティー方針に口を出す気はないが、技術を磨くのであれば一日を訓練に使って次の一日は実戦に使う。それを交互に繰り返せば自ずと良い戦いが出来るようになると思うぞ……どっかで休憩は必要だけどな」
「訓練と実戦を交互にか……ありといえばありか」
今までは毎日その日の内に達成出来る依頼ばかりを受けていたが、ティールが残してくれたオークとオークソルジャーの素材や魔石のお陰で、少々余裕がある。
ティールから教えられた過ごし方を実践する価値はあると思えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます