俺だけの力じゃない

宴会が終わった翌日、ティールはバースの店にやって来ていた。


「どうも、バースさん」


「おう、ティールじゃねぇか!! 街の英雄が何の用だ?」


「その英雄ってのは止めてくださいよ。俺はそんな器じゃ無いんで」


「バカ言うな。お前はお前のエゴでブラッディ―タイガーを倒した。英雄ってのはな……自分のエゴを貫き通した奴が、結果そう呼ばれるんだ」


エゴを貫き通した結果、英雄と呼ばれる存在となる。


その言葉はティールの頭にすぅーーーっと入ってきた。


確かに納得出来るかもしれない。

だが、それはそれ。

英雄と呼ばれることが恥ずかしく感じることに変わりない。


「……それでも、恥ずかしいんで英雄と呼ぶのは止めてください」


「分かったよ。ったく、謙虚な奴だな」


「自分の力を表に出し過ぎるのも良くありませんからね。それと……俺は、こいつが無かったらブラッディ―タイガーは倒せませんでしたよ」


そう言いながらティールは亜空間から豹雷を取り出した。


「こいつは豹雷じゃねぇか……なら、雷雲が役に立ったってことだな」


「はい。それが無かったら、勝てませんでした」


「……そんなに強かったのか」


「鑑定を使えるんで、相手のレベルと所有しているスキルは大体解るんですよ」


「お前……本当に多才だな」


鑑定のスキルを持っている冒険者がいない訳ではないが、そう多くない。

基本的に珍しいのだが……ティールの口ぶりから、並みの眼ではないとバースは解かった。


「正直……久しぶりに恐ろしいと感じましたよ」


「ティールが恐ろしいと感じる、か。やっぱりBランクモンスターの強さは並じゃねぇんだな」


「所有しているスキルを視て驚きましたけど、ただただその外見を見ただけでも……圧倒的な強者のオーラを感じました」


今でも鮮明に思い出せる。


蛇に睨まれた蛙……対面した当初はまさにその言葉が相応しい状態だった。


(今まで戦ってきたモンスターが全て雑魚に思える程に……格が違った)


立っているステージが違う。

無意識にそう思わせるだけの迫力をブラッディ―タイガーは持っていた。


「特に再生というスキルが個人的に厄介でしたね」


「再生っていうと……あれか、自分を治癒するスキルに関しちゃ最強のやつだよな」


「極めれば最強でしょうね。自分が与えた斬り傷や、衝撃を内部に叩きこんでも数秒も経てば治ってしまいますから」


「魔力を消費してるつっても……そりゃ気が遠くなるな」


「ブラッディ―タイガーは魔力量がかなり多かったんで、実際の戦闘時間はそんなに長くないと思いますけど、個人的には一時間以上戦ってるような気分でした」


実際には十分以上戦っており、いつ疲労でぶっ倒れてもおかしくない状況だった。

だが、そんな極限状態でもティールは戦い続け……乗り越えた。


「なるほどなぁ……まっ、そんな化け物に勝ったお前は……前よりも一回り大きくなった様に見えるぞ」


「そ、そうですか? 確かにレベルは上がりましたけど」


「そういうことじゃねぇ。お前の存在感ってのが一回り大きくなった……その戦いを乗り越えて、お前は確実に成長したよ」


「……ありがとうございます」


「ばか、なんでお前が礼を言うんだよ。それはこっちのセリフだ。この街を守ってくれてありがとな、ティール」


「…………街を救ったのは、俺だけじゃないですよ」


改めて思った。

今回の戦いで街を救えたのは……ブラッディ―タイガーという強者に勝てたのは、自分だけの力じゃない。


「バースが俺にこの豹雷を売っても良い。そう判断したからこそ、誰も犠牲にならずに倒して、守ることが出来ました。だから……街を救えたのはバースさんのお陰でもあります」


「お、おぅ……そうか。まぁ……一理ある、のかもな。はっはっは!! そう言われると照れるな。それで、今日は世間話をしに来たわけじゃないだろ」


「バレてましたか。こいつを使って……三つ、剣を造って貰おうかと思って」


「ほほぅ……三つか。面白そうな提案だな。是非どんな武器なのかを聞かせてくれ。素材には……勿論、あれを使うんだろ」


「はい。勿論、あれを使わせてもらいます」

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