まさかの額

「えっと……なんでですか?」


「なんでってお前……この街を救った英雄が冒険者ギルドに所属している冒険者なんだ。そりゃその英雄にギルドの長が礼を言うのは当然だろ」


「え、英雄って……俺はそんな大した人間じゃないですよ」


本気でそう答えるティールだが、ガレッジからすれば「何を言ってるんだこいつは」といった表情になるのは必然……ティールは紛れもなく街を救った英雄なのだ。


「お前なぁ……冒険者の中でブラッディ―タイガーをソロで倒せる冒険者がどれだけいると思ってんだ……ごくごく少数だ。それにティールみたいな冒険者になりたてのまだまだ子供が倒したなんて話、俺は聞いたことねぇぞ」


「えっと……それは、そうかもしれないっすね」


ガレッジの言葉はまさにその通りであり、ブラッディ―タイガーをソロで倒せる戦闘職の者は多くない。

そしてまだ冒険者になりたての……十二歳の子供がソロで倒すなど、前代未聞。


ティールが子供ではなかったとしても、ブラッディ―タイガーをソロで倒したとなれば、街を救った英雄と呼ばれてもおかしくない。


「だろ。俺だってお前が立ちながら気絶して、その傍に頭と胴体が別れたブラッディ―タイガーの死体があったのを見て、どういった現状なのか理解するのに少し時間が掛かったからな」


「……と、とりあえずなんとなく解りました。体は普通に動くんで行きましょう」


「おう、案内するぜ」


ギルドの休憩室から出たティールはガレッジの後に付いて行き、ギルドマスターが待っている部屋の前までやって来た。


「ギルドマスター、英雄を連れてきましたよ」


「そうか、中に入れてくれ」


部屋の中からは三十代後半ほどの男性の声が聞こえた。


そして中に入ると……大量の書類を捌いている三十代の男がデスクで作業をしていた。


「ギルドマスター、一旦休憩された方がよろしいかと」


「そうだな。せっかく街を救ってくれた英雄が来てくれたんだ、しっかりと対応しなければな」


ギルドマスターはデスクの前にある接客用のソファーに座り、ティールにも座るように促す。


「んじゃ、俺はここまでだから退室させてもらうぜ」


「えっ、そうなんですか」


「おう。俺は今回の戦いに関わっていないからな。安心しろ、ギルドマスターは新人を取って食う様な悪人じゃねぇか。じゃあな」


「は、はい……」


しかし一人でギルドマスターとその秘書と話をするのは不安でしかない。


(……この人、多分結構強いよな)


鑑定は使用していない。

しかし、ギルドマスターがある程度の強さを持っていることは本能的に感じ取った。


「どうぞ、紅茶とお菓子です」


「あ、ありがとうございます」


受付嬢も美人、可愛いどころが揃っているが、秘書である職員は更に飛び抜けた美しさを持っている。

そのため、少々見惚れてしまったティールだが、直ぐにギルドマスターとの会話が重要であることも思い出し、意識を切り替える。


「初めまして、だな。ギルドマスターのザルキスだ。よろしく」


「ティールです、よろしくお願いします」


「さて……とりあえずサクッと本題に入ろうか。まず友人を、街を守るために一人でブラッディ―タイガーに立ち向かい、討伐してくれたことに感謝する」


感謝の言葉を伝えると、ザルキスはテーブルに頭が付くぐらいまで頭を下げた。

それと同時に秘書まで深く頭を下げた。


「いや、あの……お、俺は無我夢中になって戦ってただけなんで」


「そうかもしれないが、君は結果的にこの街を救ってくれた。本当に有難う。ブラッディ―タイガーは数を集めてもそう簡単に倒せるモンスターではない。そこで、特別報酬を用意させて貰った。是非受け取って欲しい」


テーブルの上に硬貨が入った袋が置かれる。


受け取って欲しいと言われたので、ティールは恐る恐る袋を貰い、中の硬貨を見ると……白金貨が五枚ほど入っていた。


(ッ!!!!!! ……え、マジ? 嘘じゃなくて???)


予想していた額よりも遥かに高く、ティールの思考は一瞬フリーズしてしまった。

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