師匠と自分の意見

「大掛かりな作業、ですか……DランクやCランクの冒険者が参加するという事ですよね」


「だろうな。規模が大きい巣があると仮定すれば、ジェネラルがいる可能性があるからな。取りえずCランクのパーティーが一つ……二つは組み込まれるだろう」


「低ランクの冒険者も……参加することになるんですか?」


「可能性としては十分にあるだろうな。上位種やジェネラルはEランクやDランク、Cランクの冒険者でなければ倒せない。エリックやリーシアのような実力が飛び抜けたルーキーなら話は別かもしれないけどな」


もしかしたら、二人がその討伐に参加する可能性がある。

それを知ったティールは自分も参加するべきかと考え始める。


友人と呼べるような二人が大規模の討伐に参加するかもしれない。師匠であるリースから新人冒険者の気を付ける点等は聞いていたので、二人が重傷を負う……もしくは死ぬかもしれないと思ったティールは背中から冷や汗が流れた。


「ゾルさん、ルーキーは……ルーキーらしい場所に置くべきだと思います」


「……それは、どういった理由でだ」


使える人材は使える場所に置きたい。それがギルド職員としての本音だ。

ゴブリンは最弱のモンスターとして分類されることが多いが、それは通常種に関しての話だ。

もっとも……通常種だとしてもルーキーを殺すぐらいの力は持っている。


そして、過去の記録ではあるが……ゴブリンの群れが大きな街を一つ潰したという記録も残っている。


「まだまだルーキーの俺が言う事ではないんですけど、一度でもそういった大規模の討伐に参加していないルーキーは自分の力を試したがると思うんです。ある程度実力を持っているルーキーなら」


「それは、君の意見か?」


ティールが言いたい事は元冒険者だったゾルには解る。

そして自身も似た様な体験をしたことがある。


「いいえ、自分の師匠から聞いた話です」


「そうか……ただ、ティールが気にかけている二人はそんな馬鹿な真似はしないと思うぞ」


「そうですね……そうかもしれません。ただ、敗走にはあまり慣れていないでしょう」


「むっ! ……なるほどな、何となく言いたい事が解った。ティール、君は本当に十二歳か? それとも今の意見も師匠から教えられた内容か?」


「自分の意見です」


緊迫している空気の中、ウェイトレスが頼まれた料理を音を立てない様に置き、速足で立ち去った。


「はぁーーーー……恐ろしい奴だな。なんでそこまで視える?」


「ギフトとかそういう話ではないですよ。単に……二人の性格を考えれば危機的な状況に直面しても逃げることは無いかと。いえ、どちらかが残ってもう片方が逃げるという選択肢がありますけど……まぁ、可能性の話なんでそこまで危険を想定するのは無駄かもしれませんけど」


「……とりあえず、お前の気持ちは解った。やっぱり惚れた女の命の危機には敏感って訳か?」


「ちゃかさないでください、そういう訳じゃないですよ。ただ……可能性としてはあり得る話だと思ったんです」


「そうだな。可能性としてはあるだろう。それならティール……お前が二人を守ってやれば良いんじゃないか?」


その手が一番の近道だ。二人を最も近い位置で守れる。

だが、自分がその大規模討伐に参加出来るのか、それがまず不安として残っている。


「俺はまだ冒険者になって一か月も経っていないんですよ。そんな俺がそういった討伐に参加出来るんですか」


「あぁ~~~、確かに冒険者になってからのその日数ならそう考えるのが普通か。けどな、ティール……寧ろギルドはお前の討伐参加を押している。理由は……言わなくても解るよな」


ティールが一日の狩りで提出する素材や魔石の数。

それはルーキーに域を遥かに超えている。


そして倒したモンスターの強さは、ルーキーがソロで倒せる強さでは無い。

ティールの事を考慮して受付嬢は毎回袋に包んで買取硬貨を渡している。


「でも、俺はまだギルドにとって信頼に値する冒険者では無いと思うんですけど……そこら辺はどうなんですか」


「お前は……そうだなよな、普通はそう考えるものだよな。安心しろ、ティール。そこら辺も問題無い」


実際にゴブリンの巣があるのかは分からない、そしてエリックやリーシアが危機的状況に遭遇するかも分からない。

今はただ……ギルドからの連絡を待つしかなかった。

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