面倒事を避ける為に
「そうか、そういえば普通の刀は渡していなかったな」
「昨日、実際に豹雷を使って……刀という武器その物が扱いが難しいと思いましたけど、それでも業物だという事は使っていて直に伝わりました。ただ……流石に常日頃から使う武器では無いなと思いました」
「それは……あれか、普段戦うのなら一般的な刀で十分という訳か?」
「十分って、そんな偉そうなことは言えないですけど……それでも、ほら! 自分ってまだまだ冒険者になりたてのルーキーなんで豹雷みたいな業物を使っていると色々と絡まれそうじゃないですか」
切り札として豹雷や疾風瞬閃を普段はしまっておきたいという思いは勿論あるが、面倒な輩に絡まれたくないという思いもある。
「あぁ~~~~、その可能性を考えていなかったな。確かに解る奴には解るからな」
「そういう事なんで、もう少し刀の扱いに慣れたいので実戦で使いたいんですけど、そういった面倒ごとに巻き込まれたくないので」
「オーケーオーケー、分った。俺の専門分野じゃ無いからそんなに在庫は無いが、ちょっと待ってろ」
店の奥へ向かうと、普段は刀など買う客がいないので収納している場所まで向かい、全ての刀を持って戻ってくる。
バースが持ってきた刀は計五本。
「ほれ、これがうちにある全部の刀だ」
「全部……あの、バースさん。俺そこまで金は持っていないんですよ。流石に全部はちょっと」
昨日は久しぶりにがっぽり稼いだ一日だったが、やはり油断は出来ない。
ティールとしても予備の武器が多い事に越したことはないが、それでも簡単にホイホイと金を消費出来ない。
「そうか……そうだな、全部で金貨一枚で良いぞ。因みにどれもランク二以上だから問題無く使えるぞ」
「……バースさん、そんな商売やってたら赤字になりませんか?」
ランク二以上の武器が五つで金貨一枚。
正直、ティールは赤字としか思えなかった。
「そうでもないぜ。お前みたいに見込みがある奴以外には適性価格で売ってるからな」
「……それ、バレたら面倒事になりませんか」
「なら、お前はバラすか?」
バースからの質問にティールは首を横に振って答える。
「いいえ、そんな事しませんよ」
「だろ、それが答えだ。人を視る目には自信があるからな。そこら辺は心配していないんだよ」
「そうですか……でも、女性に背中から包丁で刺されそうになった事はあるんですよね」
「……女を視る目はまた話が別なんだよ」
その件に関しては女性の性格に難があったのか、それともバースが何かをやらかしたのか。
ティールにとってはどうでも良い事だったので、その話題はそこで終わらせた。
「そういう事にしておきます。それでは、これで」
「おう、確かに金貨一枚貰った。……というか、やっぱりティールも業物は好きなのか?」
「業物……まぁ、マジックアイテムに分類される武器には興味がありますね」
普通の武器とは違う性能を持つ武器、それだけで男心がくすぐられる。
男の子としても、戦う者としても魔剣や魔槍という武器は手に入れたいと思ってしまう。
「そうか。それなら、いつの日かダンジョンに潜ってみると良い」
「ダンジョンって……あのダンジョンですか」
「そのダンジョン以外に無いだろ」
箱に入っている宝で人の欲を誘い、その隙にモンスターが欲が溢れる者を喰う。
一つの冒険で一攫千金を獲得出来る。
ダンジョンには、誰しもが勝者になれるチャンスがあると言われている場所。
正確にはそんな生易しい世界では無いが、一回の冒険で一攫千金を獲得出来るというのは間違ってはいない。
「ただなぁ~~……俺としては誰かとパーティーを組んで潜って欲しいけどな」
「パーティー……ですか。それは、ちょっと難しそうですね」
「……別に対人恐怖症とかって訳じゃないんだろ」
「そうですね。ただ、一応理由があって……結構分かりやすい内容ですよ」
そう言いながら、ティールは自分の心臓を指さす。
それだけでバースはティールが何を言いたいのかが解った。
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