どれが正しいとは言えない
「……分かりました。買わせてもらいます」
財布の中から金貨を五枚取り出し、バースに渡す。
「おう、買ってくれてありがとな」
「どうも」
豹雷と携帯セットとサービスで砥石を受け取る。
「にしてもよぉ……ティールは何を目指してるんだ?」
「えっと……それは、冒険者としてですか?」
「まぁ、それもそうだが……これから生きていく上での目標的な内容だ。リーシア確かAランクの冒険者になる、だったか?」
「そうですね。それは今でも変わらない目標です」
冒険者のランクはトップがS。世界に数えるほどしかいない。
そして次にAランク。超一流と呼ばれるランク帯であり、その下のBランクが一流と呼ばれるランク帯。
リーシアはエリックと一緒に超一流と呼ばれるAランク冒険者という頂きに向かって日々歩いている。
「そんな感じで、ティールにも何か目標は無いのか?」
「俺は……とりあえずランクを上げていこうとは思ってます」
「なるほど。やっぱりそんな感じか」
「良く無い感じ、ですか?」
自分でもハングリー精神が無いとは思っている。
しかし幼い子供や夢見るルーキーの様に英雄や勇者と呼ばれる存在を目指そうとは思っていない。
「別に良く無いとは思わないぞ。ただ、お前の目からはあんまり覇気が感じられなくてな。だからあんまり上を目指そうとは思って無いのかと予想してたんだ。まっ、ティールは自分の意志とは関係無しにマイペースにランクを上げていくタイプだろうな」
「そんなタイプいるんですか?」
「ティールはしっかりと地力があって、これからも実力が伸びていくだろうからな。リーシアやエリックの場合はあんまり焦り過ぎるとどこかで失敗しそうだな」
バースの二人に対するアドバイスをティールは頭の中で想像する。
(……イメージ出来なくもないな。二人共普段は冷静だろうけど、熱くなるであろう場面ではガチで熱くなって前に出る……かな?)
リーシアはバースに言われた内容に思い当たる記憶があり、少々頬が赤くなる。
「熱くなるのは良い事だけど、撤退する勇気も必要……って事ですか?」
「そういう事だ。勿論、冒険者をやってるなら冒険をしなければいけない場面ってのはあるだろうが……勇気と無謀は違う。そこを履き違えて帰ってこなくなるルーキーは多い。二人共、そういう場面に出会ったらちゃんと頭を使って動けよ」
「ッ、はい!」
「うっす」
壁という存在に直面した時、その人間の真価が問われるも言われる。
そこで逃げるのは恥なのか? いいや、恥では無いだろう。
生きていれば、そこから努力を重ね続ければ超えられる可能性はある。
だが、状況によってはその壁を乗り越えなければ……大切な存在が守れないという状況に直面することもあるだろう。
ただ……どちらの選択が正しいのか、それはその時になってみなければ解らない。
「それで、ティールはランクを上げる以外の目標は? 男なんだし他にも何かあるだろ」
「・・・・・・いや、まぁ……あるにはありますけど、あんまり言いたくないです」
「えっ、気になるじゃない。教えてよ」
「嫌だ。教えない」
心から好きだと思える彼女が欲しいから強くなる。なんて内容は恥ずかし過ぎて言えない。
というより、強いだけでは得られない物だと絶賛痛感中なのだ。
「はっはっはっ!! ランクを上げる以外にもしっかりと目標があるのは良い事だ。お前らはまだまだ若いんだし、色々と人生の寄り道が出来る時期だ」
「寄り道……ですか」
「そうだ、寄り道だ。冒険者つっても、依頼を受けて冒険するだけが人生じゃない。色々と寄り道するのはあるだと思うぜ」
キメ顔で良い事を言った雰囲気を出すバースだが、リーシアは少々冷めた目で見ている。
「……それは恋愛面で楽しめという事ですか? それは少し不純な気がします」
「バースさん……もしかして何かやらかしたことあるんですか」
「ば、バカ言え!! そんな事あるわけねぇだろ! ちょっと包丁を背中から刺されそうになっただけだ」
(いやいやいや、十分ヤバい内容だと思うんだか)
声には出さないが、心の中でティールは冷静にツッコんだ。
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