隠せないその雰囲気

「あの、俺は別にそこまで稼いでいる訳じゃ無いので……ランク六の刀とか買えるお金は持ってないですよ」


「むぅ……それも確かにそうかもな。俺としてはお前にならタダでやっても良いんだが、流石にそれは商売人として良くない」


ランク六の魔刀をタダで渡す者はまずいない。

その刀一本で日銭を稼ぐことが出来、売れば大金が手に入る。


そんな魔刀を大した関係を持たない相手にタダで売るなど、馬鹿と言われても仕方が無い。


(バースさんがここまで言うなんて……ティールってそこまで凄い実力を持っているの?)


バースの贔屓する様子を見ていると、ティールがエリックより実力が上かもしれないという考えが現実味を帯びてきた


「そうだなぁ……金貨五枚でどうだ?」


「き、金貨五枚ですか?」


金貨五枚であれば、リースから今まで渡してくれたモンスターの魔石や素材代だと渡された給料で払える。

ただ、本来ならば豹雷は金貨何十枚……百枚以上の価値がある業物。


そんな一品をたった金貨五枚で受け取るなど、申し訳ない気持ちになる。


「そうだ、金貨五枚ぐらいな持ってるだろ」


普通は冒険者になったばかりのルーキーがそこまで持っている訳が無い。

しかしバースはルーキー離れした実力を持つティールならそれぐらい持っていると思っている。


事実、少々特殊な流れではあるがティールは少なくない金を得ていた。


「や、やっぱりちょっと高いか? でもなぁ~、流石にこれ以上安く売るってのはな」


「い、いえ。金貨五枚で大丈夫なんですけど……なんで、これを俺に売ろうと思ったんですか?」


やはり高ランクの装備が欲しいという思いはある。

ジンから貰た疾風瞬閃も良いが、豹雷にも利点がある。


ただ……まずは何故、バースが自分に豹雷を通常よりも低価格で売ろうとしてくれているのかを知りたかった。

ティールとバースは本当に今日出会ったばかり。

そこまでサービスされる仲では無い。


(本当に嬉しい申し出だが……その部分が知りたい。だって、そんな低価格で俺に売ってもバースさんに得は無いだろ)


いったい豹雷をどう手に入れたのか、どういった経緯で造ったのかは知らない。

しかい、金貨五枚程度で売って良い業物では無いということは解る。


「なんでって言われてもなぁ……良い武器は、良い使い手の元に行くべきだろ」


「それは……そうかもしれませんね。ただ、その良い使い手が俺だとは限らないじゃないですか」


「いいや……坊主は良い使い手だ。これでもそこそこ長い間鍛冶師をやってる。何人もの冒険者や兵士、騎士と会ってきた。ルーキーやベテランにその域を超えた者達もな……そんな中で、お前は絶対に普通の人間が辿り着けない域に辿り着ける人間だ」


「……その考えは、職人といての勘……というやつですか?」


「そういうやつだ。俺はその勘が結構あたるんでな。それに……良い使い手に恵まれなかった武器も見てきた。一応商売人だからな、人が持っている武器にそこまであれこれ口は出せないんだよ。新人相手なら話は別だが、客が全ておっさんの言う事に耳を傾ける訳じゃない」


才能という点に関しては、長年品種改良を続けてきた貴族が他者と比べて上だ。

だが、それでも全てが優れている訳では無く……才も無く、そこまで努力をしていないのに、武器だけは一級品を扱っている。


そんな武器達を見てきたバースとしては、良い武器は良い使い手の元に辿り着いて欲しいという思いが強い。


「でも……バースさんは俺の戦いを実際に見たことは無い。なのに、なんでそこまで俺が良い使い手だって断言出来るんですか」


「そんなもん、雰囲気と目で解る。本当に強い奴ってのは、解る相手には実力を隠せていないもんなんだよ」


自分の強さを褒め、肯定してくれるバースの言葉に嬉しく思うティールだが、自分の実力を隠せていないという点を焦るべき内容だった。


(一番バレたくないのは奪取≪スナッチ≫というギフトを持っている事だが、実力がそう簡単にバレるのも困るな)


ランクを上げていくにしても、変に注目を浴びたくないティールとしては残念なお知らせ。


「てなわけで、俺はこの豹雷を坊主に売りたい」

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