冒険をしてはならない

「……今日は体動かしておくか」


ライト達と一緒にホーンラビットの討伐依頼を受けた翌日、ティールは丸一日外に出る事無くのんびりと休日を過ごした。

そしてその翌日、睡眠から目覚めたティールはのんびりとベッドから起き上がる。


「今日は……別に依頼を受ける必要は無いか」


ここ最近働き続けたティールはそこそこ金が貯まった。

先日はライト達と四人で依頼を受けたので依頼の報酬金や素材の売却金額は四等分だが、おまけがそこそこ付いてきたので、ティールが予想していたよりも多くの大金が手に入った。


なのでティールは一週間ほど働かずとも暮らしていける。

本日も仕事をしようとは思っていない。


ただ、体が鈍らない様に動かしておかなければならない。


「場所は……ギルドの訓練場で良いか」


部屋から出たティールは宿の食堂で軽めの朝食を食べ、そのままギルドへと向かった。


(今日までみたいな日々も悪くないけど……ちょっと飽きてる感じがあるよな)


村を出て一人で生き始めた。

その日々は村で暮らしていた時よりも楽しさが大きい。


でも……どこか退屈を感じている自分もいる。


(戦っているモンスターが弱い、からか? でも別に俺、そんなにバトルジャンキーじゃないからなぁ……あっ、でもダンジョンには行ってみたいな)


ダンジョン、そこは冒険者達の欲が詰まっていると言える場所。

中にはモンスターだけではなく、宝箱が存在する。


その中にはハズレと言える者が入っている可能性も言えるが、見た瞬間に小躍りしてしまうかもしれない可能性がある者が入っている……かもしれない。


ただ、それを阻む罠や同業者という壁も存在する。


(……でもさ、よくよく考えれば絶対に一人で入ろうとしたら色んな人に止められるよな)


ティールがただのルーキーでは無い、それは受付嬢達も解ってきている。

だが、それでもルーキーが……まだ十二歳になったばかりの子供が一人で討伐依頼を受けるのは不安に思う。


そもそも討伐依頼の対象がランクの低いモンスターであっても、出会うまでにランクの高いモンスターと出会うかもしれない。

逃げる術を持っていなければ……その瞬間にゲームオーバーだ。


基本的に……死んだらそこまで。生き返ることは無い。

だからこそ冒険者は、特にルーキー達は自分達の安全を第一に考えて行動しなければならない。


冒険者は冒険をしてはならない。

先輩冒険者の中には「冒険してこそなんぼだ」と言う者もいるだろう。


ただ、それは勝算があり……逃げ道が無い状況ならばという話だ。

特に危険に挑む必要が無いのにも関わらず、危険な状況に首を突っ込むなど愚の骨頂。

修羅場を乗り越えたことがある者の殆どがそう答える。


ただし、一部何本か頭のネジがぶっ飛んだイカれた野郎が存在する。


「……なんて考えてたらもう着いたな」


さっさと中に入り、訓練場へ向かう。


「へぇ~~~、結構広いな」


訓練場に到着したティールはその広さに少々驚く。

人が何百人と集まっても問題無い広さ。


(流石に何百人もが一気に模擬戦を始めたら大混乱になるのは確実だな。でも、これだけ広かったら自由に動いても問題無さそうだな)


訓練場には大して冒険者はいない。

そもそもベテランの域に達した冒険者達は殆どギルドの訓練場で模擬戦などせず、野生のモンスターを相手に軽く体を動かす。


それは低ランクのモンスターであれば絶対に倒せるという自信と実力が必要だからだ。


「模擬戦とかに使う木剣とかもいっぱいあるな」


無造作に樽の中に置かれた多くの木製の武器の中から木剣を取り出し、周囲の冒険者に邪魔にならない位置に移動する。


「さてと……それじゃ、適当に動くか」


村で行っていた内容通り素振りから始まり、目の前に敵がいると想定してシャドーを行う。

木剣でそれを終えたら体術バージョンを行う。


丁度良い的が無いのと、他人に迷惑が関わるかもしれないという理由で投擲の訓練は行わなかった。


(さて、ちょっと休憩するか)


一休みしようとしたところで、ある人物がティールに声を掛けてきた。

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