どちらの感情なのか

「……結構良い感じの人だったな」


惚れた、そういう確信は無い。

しかし惹かれているかもしれない、そう感じている自分がいる。


「というか……エロかったな」


久しぶりに胸が高鳴った。

男としての本能が昂ってしまった。


「これは、ミレットの時と同じか? いや、やっぱり違うか?」


激的な出会いという訳では無い。

ただ、その姿を見た瞬間、綺麗だと心底思ってしまった。


「……そういう事なのか? それはよろしく無い感情……では無いか。男として当然」


宿のベッドに寝転がりながらリーシアの姿が思い浮かべる。


(俺と同じような感想を持った人は多いよな、多分。でも、エリックっていう仲間であり幼馴染であり恋人? 的な存在がいるんだし……普通に考えれば無理な話か)


仲間であり幼馴染という事は分かっている。ただ、恋人同士なのかは解らない。

ただ、見た感じ幼馴染以上の関係の様に思えた。


「さっさと捨てた方が良いってジンさんは言ってたな」


主に模擬戦を何度も行っていたティールの師的な存在であるジン。

そのジンからティールは少々下ネタに近い話を聞かされていた。


「ティール、お前もそろそろ女に興味が出てきたんじゃないか?」


「……ミレットに恋愛感情があったんだし、興味は元々あったんじゃないの?」


「バーカ、そういう興味じゃねぇーよ」


この時ティールの年齢は十歳。

ジンはそろそろティールが性に興味を持っていてもおかしく無いと思っていた。


「そうだなぁ~……ティール、胸がデカい女を見てどう思う」


「どうって……柔らかそうだなって」


「そうかそうか。それで、触りたいと思うか」


「……なんとなく、そんな思いがあるような無いようなって感じ、かな」


半分ほどは性に目覚めていたので、そういう感情が無い訳ではない。

ただ、まだそれがどういう感情なのか完全には把握していなかった。


「ほうほうほう、そういう感情はある訳か……いいか、ティール。……っていうのが男女の間で発生するんだよ」


「……ってなんですか?」


「簡単に言えばそれで子供が生まれるんだ。ただ、……をすることによって男は一人前の漢になれるんだよ」


ティールはジンの少々腑抜けた表情からそれに対して何を感じるのか分かった。


「それって、気持ちいの?」


「おっ、中々鋭いじゃねぇか。簡単に言えばな、お前の……が女の……に入るんだ。そっから……」


ジンのティールに対する十八禁講座は十分ほど続いた。

思春期の男なら顔を真っ赤にする内容盛りだくさんなのだが、ティールは表情にそこまで変化は無かった。


それを見たジンはティール本当に男に興味があるのか心配になった。


「ティール、お前って本当にミレットの事が好きだったのか?」


「うん、好きだった……筈です」


「そうか……そうだな、好きな女の子とキスしてみたいって感情はあるか」


恋愛と性欲の狭間にある様な行為。

それにティールが興味を示すのか。


(女とのキスに興味を示さなかったら……もしかしたらティールの対象は男なのかもしれない)


事実、そういう男がいない訳では無い。

ただ、ティールはギフトを除けばいたって普通の男の子。


「そう、ですね。その感情は……あります」


この時、ティールの頬が少々赤くなっていた。

それを見てジンは少しホッとした。


(そうかそうか、やっぱり女に興味があるよな)


それを確認出来たジンはティールに今日教えた事を絶対に誰にも教えてはならないと伝えてから分かれた。


「今思えば、それって俺みたいなガキに教えても良い内容だったのか?」


そんな疑問を持ちながらも、ジンに教えて貰った感情が今自分がリーシアに抱いている感情だと解った。


(はぁーーーー……なんか結構面倒な感情だな。そんなド直球にやらしてくれって言ったらドン引きされてビンたされるだろうし)


ジンから仲間の過去話を聞き、ド直球な行動を起こした阿呆がビンタで十メートルほど飛んだという結果は知っている。


流石にそれはティールもドン引きした。

ジンはティールに男女が合体するまでの過程ともしっかりと説明しているので、ティールもそれがどれだけぶっ飛んでいて阿呆な行為なのか解る。


「……まっ、完全に心を奪われた、惚れたって感じでは無いし大丈夫だろ」


自分にそう言い聞かせて目を閉じた。

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