仕方がない依頼料
「結構良い値で買い取ってくれるんだな」
ギルドに戻ったティールはスライムの魔石、ホーンラビットの肉に毛皮と魔石。そしてブラウンウルフの魔石と依頼達成の料金。
全部で銀貨十枚ほどの値段になり、ティールとしては上々の結果であった。
(これだけあったら当分の宿代と食費は問題無さそうだな)
銀貨十数枚を分ける必要は無く、全てティールの財産。
食事に関しては宿屋店で食べずとも、街の外に出て食べられるモンスターと戦って倒せば問題無い。
そして今回の冒険で道具を消費していないので、次の依頼に備えて何かを買い足す必要も無い。
(一番下のランクがあれだったら……案外ランクを上げていくのはそんなに難しく無いかもな)
Cランクのモンスターとは戦闘経験があり、見事に倒している。
単体でCランクのモンスターを容易に倒せるとなると、Bランクへの道も見えてくる。
今ティールに足りない経験は討伐依頼以外の依頼経験。
護衛や採掘等の依頼を重ねていけば短期間でのランクアップも夢では無い。
宿のベッドに寝転がりながら今後の目標に胸が高鳴る。
「ただ、冒険者としての人生を楽しむなら……あんまり急ぎ過ぎない方が良いんだよな」
急激なランクアップをすれば否が応でも目立つ。
そうなればティールのことを妬む者が多く現れる
それだけは回避したい。
(無理して依頼を受ける必要は無いよなぁ~。依頼を受ける以外にも金をかっせぐ方法はある訳だし)
盗賊退治、ダンジョン探索。どちらも一攫千金を稼げる方法。
その二つは基本的にソロで達成出来る稼ぎ方では無いのだが、一対多数に慣れているティールならば問題無く行える。
(とりあえず夕食を食べて風呂に入って今日は寝よう)
一晩ゆっくりと寝て、その翌日にまたギルドを訪れる。
ティールの姿を前日も見たギルド職員達はタフな新人だなという印象を持つ。
初めて依頼を受ける冒険者は絶対にその翌日は休息日とする。
依頼の難易度関係無いに、目に見えない部分で疲労が溜まっている。
なので肉体的な疲労関係無しに体から休めと信号が送られる。
ただこれはルーキーだけに言える事では無く、冒険者全体に言えることだ。
依頼を受けた翌日は借金の返済やそれ以外で金が早急に必要な場合を除き、連日依頼を受けることは無い。
(さてさて、今日はどんな依頼を受けようか)
昨日と同様に朝ではなく昼に来ているので、美味しい依頼は残っていない。
しかし常時貼られている依頼は残っているので、その中から今の自分に相応しい依頼を選ぶ。
「……今日はこれで良いか」
ゴブリン五体の討伐。依頼達成金額は銀貨一枚。
日本円にして日給一万円。それ自体は悪く無いのだが、命を賭けた代償としてはどうなのか?
そう考えるベテラン達は多い。
達成すれば数日の分の宿代と食事は稼げる。
ただ、新しい武器代などの足しになるのか? 絶対にならない。よっぽどの掘り出し物でも見つけない限りは不可能。
苦難を超えたからこそ考えてしまうベテラン冒険者達の苦い思い出。
ただ、ゴブリンなどの低ランクのモンスターは訓練を行っていない者でも十分に倒せる可能性がある。
だからこそ、ギルドもゴブリンの討伐にそこまで金を掛けたくない。
ゴブリンの繁殖速度は尋常では無く、群れを作るペースもモンスターの中で一番早い。
しかし上位種のゴブリンはそれなりに手強くなり、ただのゴブリンであっても油断すればルーキーは食われてしまう。
(ジェネラルやキングと遭遇しない限りは問題無いよな)
ルーキーとしては異常な戦力を有するティールにはそんな事関係無く、状況さえ良ければ単独でゴブリンキングを倒すことも不可能では無い。
そして依頼を達成するために森へと入ったティール。
探索すること約ニ十分……ゴブリンより先に他のモンスターと遭遇してしまう。
「グルルルル……」
「緑色の毛……グリーンウルフか」
ランクDのウルフ系モンスター、グリーンウルフ。
他のウルフ系モンスターが殆ど使えない風魔法を有しており、風の魔力を纏った爪撃は冒険者の防御を斬り裂いてしまう。
(意外と足が速いんだよなこいつ)
身体強化に加えて脚力強化のスキルを習得しており、個体によっては風魔法の扱いに慣れて風の魔力を利用して移動速度を強化する。
(油断せずに速攻で殺そう)
戦い慣れているティールでもグリーンウルフのトップスピードは油断出来ない。
グリーンウルフが動き出す前に身体強化と脚力強化を併用し、空中に跳んで先制攻撃。
突然敵が視界から消えたグリーンウルフは迷うことなく上を見るが、既にマジックブレードが目の前に迫っていた。
「ッ!!!!」
本能的に魔力の剣を避け、後ろに跳ぶ。
「終わり、と」
初撃を躱すことに成功したグリーンウルフだが、ティールは最初の跳躍で既に背後を取っていた。
そして一直線に放たれたマジックブレードは肛門から口まで見事に貫かれ、そのまま息絶える。
「魔法を使わせなかったらやっぱ大したこと無いな」
相手が油断していたという事もあり、ティールの圧勝で戦いは終わった。
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