普通は早く起きるもの

「……はぁ~~~、気持ち良く寝れたな」


鳥のさえずりで目を覚ましたティール、水を生み出して顔を洗い、冒険着に着替える。

そして食堂に降りて朝食を食べ始める。


「君、そんなに起きるの遅くても大丈夫なの?」


「? どういうことですか?」


「だって、冒険者の人達は基本的に朝早くに宿を出て依頼を探しに行くでしょ。それなのに君は随分とのんびりしてるから」


給仕のお姉さんはティールに朝食を持ってくると同時にそんな事を尋ねる。

ただ、お姉さんとしては多くの冒険者を見て来たのでティールがまだまだ冒険者になったばかりのルーキーだという事は解かっている。


なのでこんなにものんびり出来るティールが何を考えているのか分からない。


「あぁ~~……そういえばそうでしたね。でも、自分を鍛えてくれた師匠から仕事の手伝いをしていた報酬としてお金は貰ってたんですよ。だからそんなに急がなくても大丈夫なんです」


「あらそうなの? 確かにそれなら焦る必要は無いね。冒険者達が朝から必死になって取ろうとしている依頼は割の良い依頼なわけだし」


「そういうことです。俺はそんなに焦ってランクを上げようとは思っていないんで、のんびり出来ることからやろうと思ってます」


「ふ~~~ん、そっか。それはそれで良いのかもしれないけど、あんまりのんびりしていると同期に置いてかれるよ」


「焦ってうっかり死ぬよりは良いですよ」


冒険の最中には何が起こるか分からない。

ジンとリースから教えられた重要な言葉。


確かに圧倒的な速さでランクを上げていけばティールの好みに合う女の子が興味を持つかもしれない。

しかいティールは他者と比べて稀有なギフトを授かったとはいえ、最強という訳では無い。


故に完全な慢心と焦りは自身の枷となり、危機に晒すと思っている。


なので給仕のお姉さんから忠告を受けたとしても、ティールは食べるスピードを変えることなくマイペースに食べ終え、ギルドへと向かう。


「確かに焦りは禁物だけど、ちょっとのんびりし過ぎたかもしれないな」


時間は十一時手前になっており、既にギルドの中には殆ど冒険者が残っていない。

そしてクエストボードに貼られている依頼書の大半が無くなっており、美味しい依頼は殆ど無くなっている。


「さて、何を受けようかなぁ~~」


美味しい依頼は無くなっているが、ティールは元々ソロで行動するつもりなので例えあまり報酬がよろしく無い依頼であっても、十分に利益がある。


「……まっ、ルーキーはルーキーらしくそれらしい依頼を受けるか」


ティールが手にした依頼書はスライム三体の討伐。

討伐証明はスライムの液体。


「すいません、この依頼を受けます」


「かしこまりました。スライムの討伐依頼ですね」


担当した受付嬢は特に心配する事無く以来の手続きを行おうとする。

だが、そこで一つ気付いてしまった。


「えっと……もしかして一人で依頼を受けるつもりなの?」


「はい、この前村から出てきて昨日冒険者になったんですよ」


「そ、そうなのね。えっとね……最初は街の外で受ける様な依頼じゃ無くて、街中で受ける依頼の方が良いと思うのだけど……どうかしら?」


低ランクの冒険者が受けるような依頼の中には何でも屋かよ、っとツッコんでしまう様依頼も混ざっている。

そして冒険者になったばかりの新人はそういった殆ど危険が無い依頼を受けながら、こつこつお金を貯めながら装備を買ってモンスターと戦う準備を整える。


なので、そもそもティールみたいに冒険者になった初日からそこそこしっかりしている宿に泊まる者は殆どいない。


「村にいる時はしょっちゅう外に出てモンスターを倒してたから大丈夫ですよ」


「そ、そうなの? でもねぇ~~~……やっぱりソロで依頼を達成するのは大変なのよ」


「それは分かってますけど……まぁ、本当に大丈夫なんで」


ティールとしては一回い限りのパーティーを組むのはありかと思っているが、長期間誰かとパーティーを組もうとは全く考えていない。


「分かったわ。でも、もし今回依頼を受けて少しでも危ないと思ったら同じルーキーを探して一緒にパーティーを組むのよ」


「分かりました。それでは行ってきます」


担当した受付嬢は親切心でティールに他の同期とパーティーを組んで欲しいと思っている。

しかしそんな受付嬢の思いにティールは気付くことなく、初めての依頼に心を躍らせていた。

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