初めての景色
「よし、身分証明書を見せてくれ」
「えっと……自分ここから少し離れた村からやって来たので身分証明書を持っていないんですよ」
「むっ、そうなのか。しかし……中々と整った身なりをしているな。もしかして冒険者になるつもりか?」
「はい、今日中に冒険者ギルドで登録をするつもりです」
あまり表情には出ていないが、ティールは今日冒険者になれる事に胸がドキドキしている。
街に入ろうとする者達の身分を調べる門兵はまだティールの幼さから冒険者になるという考えを少々不安に思う。
(おそらくまだ十一か十二……まぁ、確かにルーキーとして始めるには適した年齢ではあるが、冒険者の中には荒くれ者もそこそこいる。しかし本当に整った装備をしている……もしかしてその暮らしていた村に元冒険者の師匠でもいたのか? だとすればその見た目に納得がいく)
門兵の男は何人もの冒険者を見てきているので身に着けている装備で、その人物の実力が多少なりとも解かる。
(もしかしたらこの子は戦闘向きのギフトを授かっているかもしれない。そう考えれば冒険者になるという選択肢は間違っていないか)
そもそも自分が目の前の子供の進路に口を出すのは間違いいてるなと思い、門兵はティールに街の中へ進むように促す。
「今日中に登録するのだろうが、もし今日登録しないという事態になれば最低でも二週間以内には登録するんだぞ」
「はい、分かりました」
「うむ、良い返事だ。冒険者ギルドは大通りをまっすぐ進み、途中で左に曲がればギルドへと着く。大通りを歩く時にチラチラと左を向けば直ぐに解る。それでは無理しない程度に頑張れよ、少年」
「ありがとうございます」
こうして中へと通されたティールは目に映る光景に圧倒される。
「……うん、分かってはいたけど本当に……本当に凄いな」
通行人の邪魔にならない様に門兵から教えられたとおりに真っすぐ大通りを進み、チラチラと左側を見る。
その間も通行人に、串焼き肉やスープを売る料理人や服やアクセサリーを売る商人、そして鍛冶を始めたばかりの鍛冶師が格安で武器を売る光景など、そのどれもがティールにとって新鮮なものだった。
「大きい街はこんなにも賑やかなんだな……そりゃ誰もが一回はこういう場所に来てみたいと思う訳だ」
村で生活するティールよりやや年上の子供達は村の外の街で生活する事に憧れる。
その気持ちは元々ティールも解っていた。
ただ、今目の前に移る光景を見て、実用性が高いギフトを持っていない者でなければその考えは捨てた方が良いと感じた。
(ソルート自体は国全体から見ればそこまで大きい街ではない様だけど、それでも俺が住んでいた村と比べれば遥かに大きい。つまり、それは人材の質や数にも影響する。そうなれば自身の特技を伸ばす環境も変わってくる。それを考えれば……得たギフトに関して相当努力してきた人じゃないと、この街で生活している人達の間に割って入って生きていくことは難しいだろうな)
ティールのは考えは超正解であり、田舎から何かを目指して都会に入った人達の大半が自分の実力の無さを痛感し、夢を諦めて田舎に帰る場合が多い。
そんな状況を知っても腐らずに努力を積み重ねることが出来るか、それとも元々の土台が他の人達とは違って十分に渡り合っていけるとティールは考えている。
「ここが冒険者ギルド、か・・・・・・凄い、な」
門兵の案内通りに冒険者ギルドへとやって来たティールはその大きさと外装に圧倒される。
そんな中でも止まらずに歩くのはティールの最後の抵抗と言えるだろう。
「よし、さっさと中に入って冒険者登録をしよう」
気合いを入れ直して冒険者ギルドの中へと入るティール。
中へ入るとギルドの中には受付や依頼書が貼られているクエストボードの他に酒場も併設されており、ティールの鼻にエールの匂いが入ってくる。
(・・・・・・うん、あの人達は今日休日なのだろう)
いつか自分もあんな感じに一緒に酒を飲める仲間が出来るだろうと思いながら受付嬢がいるカウンターへと進む。
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