何を話せば良いのか……

リースの知人であるドウンとヘレナが今年十二歳になる子供達の中から五人に推薦権を与え、学園に戻った日から数か月……推薦権を与えられた五人は絶対に試験に合格したいという思いから今まで以上の努力を積み重ねる。


そして試験には実技だけでは無く筆記もある。

そこまで難しい問題は無いが、一般常識程度の知識を必要になるので、勉強が苦手なマックスですら必死に覚えようと頑張っている。


五人が必死に頑張っている間、ティールも今まで通りに努力を重ねていた。

投擲、体術等の訓練やモンスターの狩り、錬金術の勉強等を並行して行っていた。


そして後二週間ほどで村に学園からの馬車がやって来て五人が村を出る時期とティールが村を出て冒険者になる時期がやって来る。


そんな日に……ティールは偶々ミレットと出会い、久しぶりに二人で話すことになった。


(……別に久しぶりに二人で話をするのは良いんだが……何を話せば良いのか全く分からない)


周囲には誰もいない場所でかつての思い人と二人っきり。

普通ならここは昔の思いが再熱するであろう場面だが、ティールにそんな思いは残っていない。


ただ、女は結局顔をメインで選ぶんだと学んだ良い機会だったと思っている。


「こうやって話すのは久しぶりだね」


「……そうだな。八年ぶりぐらいか? 本当に久しぶりだ」


「あのね、私もう直ぐ学校に行くんだ。冒険者になるための学校に」


「知ってるよ。あの日、こっそりミレット達が頑張って試験に挑んでるのを見てたからな」


特に隠す意味も無いのでこっそりと試験の様子を見ていたことを話す。

そんなティールの気配に全く気付いていなかったミレットはえっ、と驚く。


「み、見てたんだ。えっと……それならさ、なんでティールは受けなかったの? 冒険者になるのが目標なんでしょ」


「あぁ、俺もミレット達と一緒で冒険者になるのが目標だよ。でも、わざわざ学校に行く必要は無いと思ってるんだよ」


「な、なんで? 私達まだまだ知らないことだらけなんだから、学ばなきゃいけない事がいっぱいあるよ」


「そこら辺は……あれだ、リースさんに教えて貰ってたんだよ。だから俺はミレット達と同じ日に村を出て冒険者になる」


その内容を全く予想していなかったミレットは先程よりも驚きの表情が濃くなる。

自分達は冒険者になる為に、三年間学校に学びに行こうとしている。


しかしティールは直ぐに冒険者になろうと考えている。


その三年かの間にいったいどれだけの差が生まれるのか……ミレットには全く想像できなかった。


「……どうした? なんか不安そうな顔してるけど」


「え、いや……その、なんかティールは知らないうちにどんどん先に進むんだなぁって思って、さ」


「別にミレットにはレント達が付いてるんだ。不安にはならないだろ」


レントと一緒に過ごすそれを想像したミレットの頬は若干だが赤くなる。

それを見たティールは再びかつての思い人はレントの事が好きなんだと解った。


(今更な話、解っていた事実だ。でも……こうやって目の前で自覚させられると、ちょっと心がやられる)


本当に捨てていた筈の思いが残っていたと自覚したが、それと同時にもう自分にはまったくチャンスが無いのだと解り、スッキリした。


「でも、確かミレットはレントの事が好きだったんじゃないのか? それに冒険者の学校に行けば可愛かったり綺麗な女の子がたくさんいると思うぞ。貴族の令嬢だっているかもしれないんだしな」


「うっ! てぃ、ティールはその……色々と解っていたの?」


「俺らと同性代の女子は全員……とは言わないけど、大半の女の子はレントに惚れているだろ。それに、さっきレントの名前を出した時に少し頬が赤くなってたぞ。バレたくなかったら、ちょっとはポーカーフェイスを出来るようになっておけよ」


「う、うん。そうしておく……えっと、どうしたらそう……レントの目に映り続けると思う?」


ミレットの問いにティールは何故自分がかつての思い人の恋愛相談に乗らなければならないのかと思い、心の中で大きくため息を吐くが、この先ミレットとは長い間合わないのだし別に構わないかと考えてそれなりに考える。


「レントは……冒険者として、物語に出てくるような英雄になるのが夢なんだろ」


本人から直接聞いたわけでは無いが、兄が盗み聞きした話を教えられる、薄っすらと頭に残っていた。


「だったら、その英雄の仲間になれる程の実力を身に着けるしかないだろ。レントの奴は同年代の男子と比べれば頭一つか二つ抜けている。まだまだ成長は止まらないだろうし……ミレットの特技は火魔法だろ。それを伸ばすのは勿論だが、他の事も出来るようになっていた方が良いんじゃないか?」


「他の事もって……た、短剣の扱いとかってこと?」


「なんだ、解ってるじゃん。後衛職だからって自己防衛が出来なくて良いって訳じゃ無いだろ。そんじゃ、俺はそろそろ家に戻るよ……お互いに頑張ろうな」


「う、うん!! 頑張ろうね!!!」


久しぶりに見たミレットの笑顔は昔と変わらず輝いていた。


(それを毎日向けられるレントが羨ましくないと言えば嘘になるな)


ただ、既にティールは前を向いて歩きだしている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る