傍にいる者達の王
第34話
窓から射し込む赤い日差しに五つの影が立っている。
紅に染まった教室に、ミツキを囲う影は全て逆光で見えない。年齢も性別も表情さえも、すべてが強力な光に呑まれ隠されている。担任と学年主任、教頭と校長、そしていわゆるお巡りさん。見聞した訳でも無いが彼らが何者であるかは知っていた。
机も椅子も何もない教室に、ミツキは一人座らせられて、影が周りを囲っている。審問会か、査問会か、かつて絵画で見たような古い裁判のようでもあった。
「緊張しなくてもいい。大丈夫だ。友達が亡くなってショックなのは分かる。だからぜひ、知っていることを教えてほしい」
柔らかな口調で誤魔化した棘がちらつく。それは立ったまま彼女を見下ろす態度の一つ一つに現れて、腕を組み構える姿は、何者さえも、何事だろうと拒絶する、防御の心構えでもあった。
「知りません。なにも」
膝と膝の間に挟んだ手を握る。
影は微動だにすらせず、反応も無い。絶対的な光は彼らの素顔を消し去りながら、ミツキの胸の内までもを晒すようだった。
「まぁ、そうだろうね。いいんだ。クラスメイトが亡くなってショックだろうからね」
眩むほどの光から手元へと視線を落とす。絶対的で攻撃的、どこかに悪がいると信じ込み、必ず見つけて淘汰しようと息巻いている。自分たちだけは絶対的な安全圏から、敵を見つけるべく血眼になっているのだ。
「面談を行うにあたって成績表を見せてもらった。君は極めて優秀なようだ。順位は常に一桁圏内、全国統一模試だって三桁以内に入っている。私にも息子がいるんだが、これが中々どうして勉強してくれなくて。何か秘訣とかあるのかな?」
あからさますぎる懐柔行為に無視を決め込む。少しでも隙を晒せば付け込まれる。経験豊富なお巡りさんは、そういう所がやたらと上手い。
本能的に、精神的な炎の壁を立ち上げる。許可しない相手の言葉に耳は傾けるも、完全かつ完璧な防御によって攻撃を弾いた。
「もう、いいですか」
五体の影が初めて揺らぐ。互いに顔を見合わせているのが感覚的に伝わる。やや間を置いて、口を開いたのは担任だった。
「あのねぇ。クラスメイトが亡くなったって、理解しているの? 他の子はもっと悲しそうにしていたし、中には泣いていた子も居たのに、アナタと来たら警察の方に協力しようともしないなんて」
「わかった。行くと良い」
担任の騒音を遮ったのはお巡りさんだった。
ミツキは彼を一瞥して立ち上がると、無言で部屋から出て行った。
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