第四章 第二十一話 生徒の実力

 

 訓練場は宗次郎たちがいた学舎区画からみて北側に位置している。さらに区画も別なので、移動はバスとなった。


 生徒会棟から徒歩で移動した身としてはありがたい、と思っていた。が、宗次郎が戦うと知った学生たちが自分も見たい、と言ってバスに乗り込んできた。雅俊があまり入るなと大声を出したため、鮨詰めになることはなかったが、快適な旅とはいかなかった。


 宗次郎たちを乗せたバスは十数分移動し、区画を分ける外壁を抜け、訓練区画に入った。


 訓練区画は学舎区画と違い、背の高い建物がない。あったとしても背が低く横に広い建物ばかりだ。おかげで反対側の外壁がはっきり見える。


 それ以外は柵で覆われた訓練場となっており、バスの窓からは剣をふったり走り込みをしている生徒が多く見受けられた。


 ━━━闘技場を思い出すなぁ。


 共に汗を流している生徒たちを見ながら、宗次郎はぼんやりと思った。


「宏、訓練場は空いてた?」


「奇跡的にな。一番奥のやつが空いてる。一時間だ」


「一時間だけ?」


 後ろの席で美緒が意外そうに呟く。


「十分だろう? あそこなら行くのには時間がかかるけど、来るのにも時間がかかる。ギャラリーが来る頃には試合は終わってるって寸法さ」


「そうか?」


「だって、お前すぐ負けるだろ」


「おい!」


 楽しそうな笑い声が起こる。これも青春だろう。


 対照的に、雅俊の一段は声が暗い。


「雅俊様、よろしいのですか?」


「言うな」


 食堂ではどこか期待していたような雅俊だが、今はどこか不満そうだ。おかげで取り巻きの生徒たちも不安そうにしている。


 そうこうしている内に宗次郎たちを乗せたバスが訓練場に到着した。


「へぇぇ」


 宗次郎が降り立つと、目の前には木造の建物とそこに小さな運動場があった。


 流石に闘技場のそれと比べると古いが、外で運動できると言うのはいい。


「宗次郎さん」


「おう」


 宏に案内され、木造の建物の中に入る。


「ここでは着替えと武器の整備を行います」


「俺たちは準備があるので、宗次郎さんは先に!」


「わかった」


 宏に案内され、木造の建物を抜けて運動場に出る。


 長方形に二つに割った円をくっつけた様な形をしている。下には芝生が敷き詰めてあったり、土がむき出しだったりと色々だ。


 ━━━色々な状況でも刀が振れるように、か。


 波動術を使おうと、剣術の基本は道場で学ぶ。つまりは床の上だ。


 ただし、実戦では床の上では剣を振らない。土の上、草原の上、時には雪原の上で刀を振ることもある。


 時間潰しも兼ねて適当に準備運動をしていると、準備を終えた鏡と雅俊がやってきた。


「お待たせしました!」


 着ている制服はそのまま。腰には訓練用の波動刀を装備していた。


 波動師が装備する波動具、波動刀や波動杖は八咫烏として波動庁に所属してから正式に配備される。三塔学院の生徒は訓練の時以外は装備をしない。例外は、陸震杖などの国や家宝となっている等級持ちの波動具に選ばれた場合だけだ。宗次郎が常日頃天斬剣を腰に穿いているのは、その例外に該当しているからだ。


「よし、じゃあやろうぜ」


「……あの、本当に戦うのですか?」


「どうした? やけにいやそうじゃないか」


 刀を身につけながら、雅俊はあまり乗り気じゃなさそうだ。


「負けると分かっている戦いに気乗りはしません。しかも相方が平民出身なんて」


 心底嫌そうに隣にいる鏡を見やる雅俊。


「なんだよ、怖いの? 阿波連家の人間は意外のビビりなんだな」


「なっ、誰が!」


「それとも、お友達がいないと勇気が持てないのかな?」


 食堂での意趣返しのつもりか。鏡が挑発する。これ見よがしに柵の向こうにいる雅俊の取り巻きたちに視線を向けて。


「凡人風情が、六大貴族の次期当主たる俺を侮辱するのか!」


「はいはい、やめやめ。君らの相手は俺だろう?」


 抜刀して鏡に殺気を放つ雅俊を諌める為、宗次郎はパンパンと手を叩く。


「別に俺をぶっ倒せなんて言わない。時間もそんなにないしな。だから━━━」


 宗次郎は腕を組んで、一歩前に出る」


「俺にかすり傷の一つでもつけられたら、そっちの勝利でいい」


「「!?」」


 目を見開く鏡と雅俊。宗次郎はさらに追い討ちをかける。


「それでも無理なら諦めてもいいし、鏡の言う通り仲間を呼んでもいいぞ」


「っ……」


 雅俊は覚悟を決めたのか、仕方なさそうに刀を宗次郎に向ける。


 対照的に、鏡は待ってましたと言わんばかりに興奮している。


 ━━━いい感じだな。


 二人から向けられる剣気は若さと勢いが同居している。


 宗次郎は満足げな笑みを抑えきれないまま、腰に穿いた天斬剣に手をかけた。


「ルールはさっき言った通り、俺に傷一つつければそっちの勝ちだ。波動術を使うか使わないかは任せる」


 天斬剣を引き抜くと同時に、宗次郎は波動を活性化させる。


 世にも珍しい黄金色の波動。その美しささと波動量の多さに、二人の表情がますます硬くなる。


「さぁ、来い」


 宗次郎は天斬剣を引き抜いた。

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