第三部 第三十五話 王とは その2 

 瑠香の話に続き、歩と彩が己の意見を述べた。




 歩は自身の剣が法律畑の出身であり、司法局に勤務していることから、法の下に国民を治めると誓った。現在も法律は存在するが、治安の目が行き届いているのは中央か国王の領地内に限定されている。地方を治める貴族の自治権が強く、各地域によって法律が微妙に法律が異なる点も危惧していた。




「俺は大陸全土を対象とした法を整備したいんだ」




 歩の口調は力強く、固い意志が感じられる。




 歩の言う通り、法律は大切だ。少なくとも瑠香の理論よりは賛同できるものだった。




 ━━━ただ、時間はかかりそうよね。




 歩の理想を実現するためには、貴族の自治権を縮小する必要がある。国王の中央集権化があって初めて効果があるのだ。




 法律を定めるだけでは意味がない。国民と貴族が守って初めて効果があるのだ。法を整備し、違反したものを裁く側の歩にはその考えが抜けている。




 加えて、歩はルールさえ守ればいいと思っている節がある。




 八咫烏として法を取り締まる側にいる燈としては複雑な胸中だった。




 次いで綾。綾も剣の影響により、自らが専門とする財務について語った。




 王国の財政については、残念ながら赤字が続いている。と言うのも、国王の領地は年々減少傾向にあるのに、支出は増えていっているからだ。




 特に税について思うところがあるようで、歩と同じく貴族の自治権が強すぎることを問題視していた。




「税の負担を減らし、国民が財政的に豊かになればいいと思っているわ」




 かけていたメガネをクイっと上げて、綾は主張した。




 こちらも正論だ。間違いはない。




 ただ、燈は綾を応援したいとは思えなかった。




 燈は八咫烏として働き出して間もない頃、後学のためとして、収賄を働いた貴族の逮捕に立ち会った。そこで学んだのは、貴族間の賄賂はかなりの頻度で起こっていること。




 そして、綾の剣である貴族を中心に、その配下たちが起こしていることが多いのだという。統計上からも賄賂絡みの犯罪件数は増加の一途を辿っている。




 ━━━綾が国王になったところで、今の状況が悪化するだけよね。




 綾が国王になれば、その剣である貴族が大臣になる。そうなれば、賄賂の数はますます増えるだろう。もしかしたら、賄賂自体が法に触れなくなるかもしれない。




 綾が危惧している状況を引き起こしているのは、自らが信頼している貴族なのだから。




「……」




 燈はお茶を口に入れる。すっかり冷め切っていて、風味も味気ないものになっている気がした。




「燈、燈」




「……え?」




 急に柳哉から声をかけられていると気づく燈。




「ごめんなさい。ぼんやりしていたわ」




「もう、しっかりしてください」




 話を聞かれていないと思ったのだろう。綾は口を膨らませて拗ねていた。




「次は燈の話を聞かせてもらえないかな。なぜ八咫烏として戦い続けるのか、国王となったらこの国をどうしたいのか」




「いいわ」




 座布団の上に正座し直す。




 呼吸を整え、全員の顔を見据える。




「やっと燈の話が聞けるのか。楽しみだな」




「ええ。本当にそうね」




 歩と瑠香が笑っている。その意味がわからず燈は首を傾げた。




「燈は初代国王を超える王になりたいんだろう? しかもその発言に恥じない活躍を最近しているときた」




「そうよ。ぜひ聞かせて欲しいわぁ」




 普通に笑っているはずなのに、なぜか挑発するように聞こえ、燈は唇を噛み締める。




 ━━━私は、負けない。




 自分の夢のために、妹との約束のために。たった一人になったとしても、私は自分の夢を叶える。叶えて見せる。




 そう決意して、燈は大きく息を吸った。




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