episode71 エンシェントゴーレム――プロトタイプ

 こちらを見ていない隙に飛び出したリッカは、物音を立てないように慎重に接近していた。


「……生体反応ヲ確認。排除シマス」


 しかし、エンシェントゴーレム――プロトタイプはこちらを見ていないにも関わらず、リッカの存在に気が付いて、戦闘態勢に移ってしまった。


「――っ!」


 だが、リッカはここで退くわけにはいかないと思ったのか、接近する速度を上げた。


「――『抜刀神速』」


 そして、そのまま高速で前方に移動しながら抜刀攻撃を放つスキルを使って、コア部分を攻撃しながら通り抜けた。


(効いていない⁉)


 リッカの攻撃は確かにコア部分を捉えていたが、一切ダメージが通っていなかった。


「――障壁」


 と、ここでリッカからそんな一言が飛んでくる。


 このゲームの仕様として、攻撃が当たった場合は必ず一ダメージは入るようになっているからな。

 ダメージが一切通っていないということは、特殊なギミックがあることは確定だ。


 そして、そのギミックが障壁ということらしい。


(言われてみれば、コアを覆うように透明な何かが張られているな)


 ここでエンシェントゴーレム――プロトタイプの様子を改めて見てみると、コアを覆うように障壁だと思われるものが張られていた。


「対象ヲ破壊」


 しかし、呑気に観察している暇はない。

 エンシェントゴーレム――プロトタイプは魔法陣を展開すると、リッカに向けて直径が三メートルほどもある火球を放った。


「――指示したら適度に攻撃して」


 だが、中ボスクラスのモンスターの攻撃をノーダメージで凌ぐリッカにそんな単純な攻撃は通用しない。

 彼女はそれを横に跳んで躱しながら、そんな指示を飛ばしてくる。


「良いのか? 恐らく効かないと思うぞ?」


 あの障壁をどうにかしない限りはダメージが通らないだろうからな。

 下手に攻撃しても無駄にヘイトを買うだけになる可能性があるが、それでも良いのかと確認を取る。


「障壁の解除条件探る。タゲ取らない程度に攻撃して」

「分かった」


 リッカが言うように、障壁を解除しないことにはどうにもならないからな。

 障壁の解除条件の解析は彼女に任せて、俺はターゲットを取らないように注意しながら援護することにした。


「まだ良いのか?」

「……待って。攻撃パターン見極める」

「分かった。いつでも動けるように備えておこう」


 まあ一撃でも攻撃を受ければ即死だからな。

 攻撃パターンを見極めるための様子見は必要なので、いつ指示されても良いように備えておくことにした。



  ◇  ◇  ◇



「…………」


 リッカは距離を保ったまま敵の様子を観察する。


(速度上がってる。攻撃パターンもたぶんかなり増えてる)


 ストーンゴーレムと比べると速度が上がっていて、魔法を使ってきたことから攻撃パターンはかなり増えていると予想された。


(速度は問題ない。問題は魔法)


 速度が上がっているとは言っても、ストライクウルフと比べると速度は遥かに遅いので、そこは特に問題ない。

 今回の戦闘において最大の問題は魔法だった。

 特にユヅハが使っていた『緋炎・瞬獄』は瞬時に放たれるので、最も警戒すべきスキルだった。


「対象ヲ殲滅」


 と、そんなことを考えていると、エンシェントゴーレム――プロトタイプが接近してして来た。


「――動いて」


 リッカはシャムに動くよう指示を飛ばしながら構えて、敵の動きに備える。


「破壊」

「――そこ」


 そして、振り下ろされた腕を抜刀攻撃で迎撃すると、『見切り』が発動してエンシェントゴーレム――プロトタイプの攻撃は弾かれた。


「『強撃・返し刃』」


 そのまま怯んだ隙を突いて、両手で持った刀による強烈な一撃をコアに叩き込む。


「『マテリアルソリッド』」


 さらに、シャムも同時にコアに攻撃を叩き込んだ。


(やっぱり、効かない)


 だが、障壁があるので、それらの攻撃はガキンという音と共に弾かれるだけで、一切通っていなかった。


(でも、この程度で特定できない)


 もちろん、何も考えずに効かないことが分かっている攻撃をしているわけではない。

 今は障壁の解除条件を探るために攻撃を試しているところだ。


 障壁の解除条件は一定のダメージを与えると破壊可能、障壁を発生させている部位を破壊すると解除される、一定時間で解除など、色々と考えられる。

 だが、この程度では条件を特定することはできないので、このまま攻撃を続けることにした。


「対象ヲ切断」


 と、ここでエンシェントゴーレム――プロトタイプは両腕を左右に伸ばして、手の平を腕に対して垂直になるように構えると、手の平から長さ一メートルほどの刃が飛び出した。

 そして、そのまま体をぐるぐると回転させながらリッカに迫った。


「っ――!」


 それを見たリッカは素早く後退して、追い付かれないように距離を取る。


(……弾けるか分からない)


 『見切り』で弾くことができれば止められるかもしれないが、回転の速度が速く、正確に弾くことは難しそうだった。

 それに、シャノが見せた『メテオダイブ』のように、打ち消しができない可能性もあるので、ここは弾かずに別の方法で対応した方が良さそうだった。


(たぶん時間経過でこの状態は解除)


 また、この攻撃は時間経過で終わると思われるので、ここはそれまで待つのが最適解だと思われた。


「――一気に攻撃して」


 その上でリッカが出した結論はシャムにターゲットを向けることだった。

 シャムは遠距離攻撃タイプなので、できれば接近させたくはない。

 だが、彼はリッカとは反対方向にいて十分な距離があるので、接近される前にこの状態が解除されると踏んでいた。


 そして、そうなれば解除されたところで、自身が後方から攻撃を仕掛けることも可能になるので、隙を突いて攻撃することも、ヘイトを取り直すことも可能だった。


「分かった。『バレッジソリッド』」


 シャムは指示通りにエンシェントゴーレム――プロトタイプに向けて集中攻撃を放つ。


(弾かれてる)


 しかし、その攻撃は斬撃によって全て弾かれて無効化されてしまっていた。


(ヘイトもあまり向いてない)


 だが、そのせいかヘイトもあまり稼げていないので、攻撃対象もリッカから変わっていなかった。


「大丈夫か?」

「……うん。付いて来て」


 とは言え、速度はリッカの方が速いので、そこまで大きな問題はなかった。

 リッカは適度に距離を取りながら攻撃が止むのを待つ。


(……そろそろ)


 そして、しばらく逃げ回っていると、回転が遅くなって攻撃が止まろうとしていた。


「合わせて」

「分かった」

「『居合斬り』、『抜刀連撃』」

「『マテリアルソリッド』」


 リッカは攻撃が終わるタイミングに合わせて接近して、二人で同時に攻撃を仕掛ける。


「――!」


 すると、パリンという音と共に障壁が砕け散った。


「障壁ノ破損ヲ確認。再展開マデ四十秒」


 さらに、ご丁寧に障壁の再展開までの時間も宣言してくれた。


(一定ダメージで障壁解除、一定時間経過で再展開……?)


 ここまでの戦闘から、障壁の解除条件は一定ダメージを与えることだと思われた。

 一応、一定回数攻撃を受けると解除や、もっと細かく条件が設定されているなども考えられるが、現段階では判断できないので、今はそのあたりのことは置いておくことにした。


「魔力ヲ装填」


 と、ここでエンシェントゴーレム――プロトタイプは魔法陣を展開すると、そこに何かを溜め始めた。


「――隠れて」


 障壁が解除されたので、攻撃のチャンスではあるが、ここで下手に仕掛けるわけにはいかない。

 何が来るのかは分からないが、強力な攻撃が来ることは明白なので、ここは一旦攻撃をやり過ごすことにした。


「分かった」


 指示を受けたシャムはすぐに近くにあった瓦礫の陰に隠れる。


「…………」

「――破壊」


 そして、そのまま待っていると、五秒ほどで魔力の装填が終わって、魔法陣からリッカに向けて熱線が放たれた。


「うぐ……」


 リッカは瓦礫の陰に隠れていたが、その瓦礫は熱線で破壊されて、攻撃を受けてしまった。

 その攻撃によって一瞬でHPを削り取られて吹き飛んだ彼女は、そのまま力なく落下して地面に叩き付けられる。


「対象ノ沈黙ヲ確認」


 リッカを倒したエンシェントゴーレム――プロトタイプはそのままその場を去ろうとする。


「……俺はどうすれば良い?」


 ここでシャムからそんなことを問い掛けられる。

 このゲームでは戦闘不能の状態でも連絡を取ることはできるようになっている。

 なので、こうして話をすることが可能だった。


「……撤退して」


 まだこのモンスターの全貌は分かっていないし、接近戦闘をこなせないシャム一人では倒すことができない。

 そう判断したリッカは攻略を諦めて撤退するよう指示を出す。


「分かった」


 そして、リッカを倒されたシャムは撤退して、スピリア遺跡の攻略を中断したのだった。

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