第6話 血洗いの湯

大柄の男とすれ違い恐怖を感じた俺だが、気を取り直して温泉を楽しむことにした。しかし、浴場の入り口に来て横に置いてあった置き看板に書いてあったのが

<血洗いの湯>

なんだか物騒な名前の温泉だな。おそらくおもしろ半分でつけた名前なんだろうと思うが、先程の大柄の男を見た後でこの名称はなんだか息をのむ。まさか本当に湯が赤かったりなんかしないだろうか?俺は男湯の暖簾をくぐり、脱衣所に入る。ロッカーを見る限り誰も入浴していないようだ。俺はセーターを脱ぎ、ズボンを脱ぎ、パンツを脱いだ。そして恐る恐る浴場に入る。そこは露天風呂で大人10人ほど入れそうな大浴槽に勢いがある打たれ湯があった。おそらくこの打たれ湯で血を洗ってくださいとでも言いたいのだろうか?浴槽の湯を見てみると赤くはなくきれいに透き通っていた。俺は安心してまずはシャワーで体を洗い、その後シャンプーで髪の毛を洗った。そして湯に浸る。

「いやー。五臓六腑に染みますわー」

今日は結構歩いたから疲れた体にはとても心地が良かった。体の血行が良くなり老廃物が流されていくのを感じる。俺はそのまま目を閉じてしばらく無心でいた。

15分ほどして少しのぼせてきた。体が熱ったので少し湯から上がることにした。しかしここは露天風呂なのですぐに体が冷やされて気持ちが良くまた湯に浸かった。そんなことを繰り返していると、俺の目には打たれ湯が映った。少し試してみるかと当たってみたが、かなりの勢いで流れ落ちていたので俺の体は耐えられず、すぐに断念した。そんなこんなで俺は30分ほど温泉を楽しんだ。


湯から上がり脱衣所で着替えをする。部屋に置いてあった寝巻き浴衣に袖を通し、帯を巻いて、洋服と違い、腕や足がなんとなく締め付けられている感覚から解き放たれ気分だ。それから荷物を持って部屋に戻ろうとしたが俺の脳裏にあの大柄な男が過ぎる。すれ違っただけで恐怖を感じるような客がいるということは、他にも怖い人相した奴がいるかもしれない。と、その時。脱衣所の入り口の扉が開いた。俺は一瞬で体全体から汗が噴き出た。また殺気に満ちた人間かもしれない。しかし、扉から出てきたのは俺と歳が近そうな男で、目鼻立ちがくっきりとしていて、優しそうな雰囲気のイケメンだった。そのイケメンと目が合い、会釈をするとイケメンも微笑みながら会釈を返してくれた。なんだか安心した。この好青年がまさかあの男と同類ではないだろう。イケメンとすれ違い入り口から出て、俺は部屋へと向かう。


部屋に着くまで誰ともすれ違うことはなかった。俺は部屋の玄関を開け、スリッパを脱ぎ3メートルほどの廊下を抜け、襖を開けて、畳の上に寝転んだ。とても心地が良い。体に溜まった疲労が体を横にすることによって快感へと変わる。旅での緊張の糸が切れたのか、安堵に包まれるようだ。気がついたら俺は眠りについていた。



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