第2話 女将

旅館の中はとても暖かかった。受付の前には昔ばあちゃんの家に置いてあった石油ストーブが置いてあり俺は温もりを感じた。けどそこに置いてあった石油ストーブは、ばあちゃんの家に置いてあったものとは形状が違い、どうやらこれは対流型みたいだ。そういえば、ばあちゃんはよくストーブの上にヤカンを置いて沸かし、沸騰した蒸気を利用して部屋の乾燥対策したり、沸かした水を電子ポットにつぎ足したりしていたっけ。今は電子ケトルというカップラーメンのお供が主流になったのかな?それに加湿機という冬には欠かせなくなった家電があるが、石油ストーブの上にやかんというのは自分にとって情緒を感じる。


玄関の土間で靴を脱ぎ、式台に上がり廊下に横並びに揃えられたスリッパを履きあたりを見渡した。人の姿はなく廊下も8畳ほどで広いとはいえない。ここの旅館は築50年ほどでここまでくるのに車は使えず、何しろネットでは載っていないので秘境と言えるかもしれない。したがってここ桃子楽温泉はそこまでの客数を想定してはいないようだ。受付には卓上ベルが置いてあり誰もいなかったので押した。それから数秒して暖簾から女将と思われる女性が出てきた。俺は心が打たれた。20代後半あたりだろうか?艶めく黒髪、凛とした目、包容力がありそうな唇。それに着物越しだが少々胸がありお腹周りはくびれていてお尻にまるみがある。俺の目線は上から下にいき無意識にいやらしい目で見ていた。

「雪の中ご足労ありがとうございます」

俺は我に返った。相手に目の動きが覚られただろうか?

「お客様のお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

「あ、い、今井です」

「今井様ですね。お待ちしておりました。」

どうやら気づかれなかったようだ。いや、恐らく気づいていると思う。どこかで聞いた話だが女性は男性が自分の胸を見ていることに気づいているらしい。ただ言わないだけのようだ。まあ、相手が見てたとしても「見ましたよね?」なんて言ったらその後どうなるかわからないしな。

「お部屋までご案内いたします。」

女将は受付にある引き出しから部屋の鍵を取り出し「こちらへどうぞ」と言い階段を上った。俺は女将についていく。


女将の後ろ姿を凝視してしまう。女将は艶めいた黒髪を後ろで結いているが、そこから見える頸がとても色っぽい。色白できめ細かい肌がなんともエロスを感じる。段々彼女の色気で頭がおかしくなってきた。初対面の女性にこれほど虜になったのは初めてかもしれない。俺は後ろから彼女を抱きしめたくてしょうがなかった。まるで獣だな。

「ここまでの道のり大変じゃございませんでしたか?」

「え、そうですね。雪も積もってなかなか歩くのが大変でしたね。それに情けないことに足を滑らせてしまいましたよ。」

「大丈夫ですか?もし必要なら救急箱がございますが」

擦りむきはしたが大したことはなかった。サッカー部の時擦りむくことなんて日常茶飯事だったため正直いらなかった。が、

「すみません。お借りしてもよろしいですか」

彼女との関係を持ちたかった。そのための時間稼ぎとしてここは救急箱を借りることにした。

「いいえ。お気になさらず。お部屋ご案内しましたらお持ちいたしますね。」

彼女は口をつぐみ、目を三日月の形にし笑い、お淑やかな表情だった。俺の心は完全に彼女に掌握されたようだ。

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