第179話 恋愛戦国時代の終幕

  【一年一組・伊緒奈視点】


「颯さん、会議室に行ってから全然、戻ってきませんねぇ? 伊緒奈さんはどんな結果になったと思われますか?」


「それは私にも分からないわ……でも私としては颯君に生徒会長をやってもらいたいなぁとは思っているけど……太鳳ちゃんも同じ気持ちでしょ?」


「え? まぁ、そうですねぇ……ただ颯さんが陽キャになる目標は達成しましたからねぇ……生徒会長はおまけみたいなものですから……」


「フフフ……おまけみたいなものかぁ……」


 颯君が陽キャになる為に私達は今まで頑張ってきたんだし……達成感は凄くある。

 でも、そうなればきっと颯君は昔からの夢を叶えるだろうなぁ……


 『あの人』だって今日中には必ず動き出すだろうし……

 その姿を見て私はどんな気持ちになるのだろう?


 いっそのこと私も織田さんの様に外国にでも引っ越しできれば気持ちが楽なのになぁ……


 ガラッ…ガラガラッ


「あれ? 黒田先生の方が先に戻って来たんですね!? 颯さんはどうされたのですか!?」


「ああ、竹中君はちょっと屋上に用事があってね……まだしばらく戻って来ないと思うわ。でも、あなた達が気にしている生徒会長についてはちゃんと決まったから、心配しなくても大丈夫よぉ……」


 屋上に? やっぱり……


「えっ!? という事は……」


「ええ、竹中君が新生徒会長に就任する事が決まりました!!」


「 「 「おーーーっ!!」 」 」


「伊緒奈さん、やりましたね!? 遂に颯さんが生徒会長ですよぉ!! これは明日からの学園生活もますます楽しみになってきましたね!?」


「そ、そうだね……とても楽しみだねぇ……」


「それよりもうちのクラス、何か人数が多くない? っていうか、何で三年生や他のクラスの子や、それに何で中等部の子までいるのよ!? 早く自分の教室に戻りなさーい!!」


「伊緒奈? 何か元気が無いわね? 颯君が生徒会長になるのが嫌なのかしら?」


「そ、そんな事は無いよ、魔冬。私は嬉しいよ」


「それならいいんだけど……何か悩み事があるのなら遠慮せずに私に言ってね?」


「うん、ありがとう、魔冬」


 でも今、屋上で何が起こっているのかを想像するだけで胸が苦しくなる。


 諦めないと……私は合宿の日に彼の事は諦めると決めたのに……


 ポンッ


 え?


「く、黒田先生?」


「近いうちに徳川さんのお家に行かせてもらってもいいかしら? また、合宿の時の様にゆっくり似た者同士でお話しをしようよ……ねっ?」


「グスン……はい、是非いらしてください……」




 【屋上にて】



 屋上に来てから数分が経つ。

 俺は神影から色々な話を聞いた。


 内面液の効力は一年だそうで来年の春くらいには飲んだ人、全員の効力が無くなるらしいが、神影が言うには俺を嫌いになったり記憶から消える訳では無く恋愛感情が薄くなるだけで、内面液関係無しに個々の想い出はそのまま残り今まで通りの関係でいられるという事だった。


 それを聞いて俺は凄くホッとした。

 せっかくできた友人、仲間達を失わなくて済むだけで俺は幸せだ。


 しかし何故、神影が『内面液』を使って学園の美少女達に俺を惚れさせたのか……

 それが神影の言っている『罪滅ぼし』になるのか? という事を聞いてみると、


 神影が言うには学園の人気者達に囲まれて過ごしているうちに会話も増えていき、自然と俺が自信を取り戻し、昔の様に明るい性格に戻って欲しかったとからだという事らしい。


 もし陰キャのままの俺の目の前に神影が現れても神影だけいれば良いと思い、俺は友人を作る努力をしていなかっただろうというのが御影の考えだった。


 そうかもしれないな。神影の言う通り、俺は神影さえいてくれればそれで満足し、他の誰とも交流は無かったと思う。でも将来の事を考えれば……社会に出た時に俺が絶対に苦労すると考えてくれていた。だからまずは強引な手段だと思いながらも父親の提案に乗り、内面液の開発に協力したそうだ。


 そしてテンカイグループの情報網を使い学園の人気者を学年別にピックアップし、俺が高等部に進級する前に彼女達に『内面液』を飲むように誘導したそうだ。


 テンカイグループを敵に回したら恐ろしいなと思ってしまったが、さすがにそれは神影に言えなかった。


 ちなみにその『内面液』を飲んだ女子は十名……そう、俺に告白した学園の美少女達と数は合っている。しかし、唯一一人だけその『内面液』を飲んでいない女子が……


 その女子というのは徳川伊緒奈だそうだ。

ってことは合宿での花火大会の時に告白してきたのは本当に俺の事を……


「そう言えば伊緒奈と黒田先生が言っていた『あの人』っていうのは神影の事なんだよな? 逆に神影の協力者があの二人になるのかぁ……」


「うん、そうだよ。黒田先生……かなえお姉ちゃんは母方の遠い親戚で昔からよく勉強を教えてもらったり、色々と相談にものってくれたりしていて……私が竹中君のいる小学校に転校する前に『神影ちゃんは銀髪で目も大きいし目立つからイジメられない様に髪を黒く染めて伊達メガネをして目立たなくした方がいいよ』ってアドバイスをしてくれたの」


「えーっ!? そうなのか!? 逆にそのアドバイスが仇になっていないか? 神影が森蘭子達にイジメられていた原因はその地味なところだっただろ!? って事は黒田先生が諸悪の根源みたいな感じじゃないか!!」


「フフフ……かなえお姉ちゃんもそれは凄く気にしていて私の作戦に全面協力してくれたんだけどねぇ……仙石学園に入学したくなるように仕向けたり、女子大生に成りすまして竹中君の家庭教師をやったりね……でも私がイジメられた原因はそうじゃないんだよ。竹中君も知っているでしょ?」


 の、乃恵瑠さんか……


「ああ、こないだ森蘭子に真実を教えてもらったよ。まさか乃恵瑠さんが神影をイジメていた森蘭子達の黒幕だったなんてなぁ……未だにショックだよ。それに突然、ロンドンに引っ越してしまうしさ……」


「ちなみに織田さんのお父さんが働いている会社もテンカイグループの子会社なんだよ」


「えっ、そうなのか!?」


 も、もしかして乃恵瑠さん達が急にロンドンに引っ越す事になったのはテンカイグループが絡んでいて神影が乃恵瑠さんに復習する為に……


「み、神影……?」


「何かな?」


「い、いや、何でもない……」


 世の中、知らない方が幸せな事ってあるよな? うん、絶対にある。


「それはそうと伊緒奈はいつから神影の協力者になったんだ?」


「徳川さんと知り合ったのは中等部一年の夏休みだったかな。お爺様の会社『トクガワキヨシ』が経営危機になってテンカイグループが援助する形でグループの子会社になった時だよ。夏休に日本に帰って来た時にグループ会社のトップが集まるパーティで知り合ったの。同い年だったから話がとても合って直ぐに仲良くなったんだぁ。それから色々と電話やメールでやり取りをしているうちに私が計画している話になって……それを聞いた徳川さんが是非、協力させて欲しいって言ってくれてね……」


 そうだったのか……中等部の頃から俺の事を知っていたんだな。でもそっか、前に伊緒奈が中等部の頃に何度も俺に助けられたって言っていたよな?


「でもまさか徳川さんが竹中君の事を本気で好きになるとは思っていなかったけどねぇ……それだけは誤算だったなぁ……一瞬、徳川さんに譲ろうかと思ってしまったくらいだし……って今のは忘れてちょうだい!? お願いだから忘れて!?」


「えっ!? ああ、忘れるよ。ただ、神影は伊緒奈の気持ちも知っていたんだなぁ……」


「フフフ……大好きな竹中君の周りで起こった事は何でも知っているよ。私だって竹中君に負けないくらいにずっと竹中君の事を追いかけていたんだから♡」


「大好きなかぁ……神影の口からその言葉を聞けて嬉しいよ……」


「あっ!? 何だかとても恥ずかしい……で、でも、ここまで話せば私の気持ちはいくら恋愛に鈍感な竹中君でも分かるよね? 私は竹中君の事を愛している。だから私と……」


「ハハハ、ほんと俺って恋愛に関してめちゃくちゃ鈍感だよな。でも選挙公示日の時に『投票部の天海桔梗さん』に言ったよね? 俺もこの数ヶ月で『あの子』の事が昔から好きだという事に気付いたって。その『あの子』っていうのは勿論、神影の事だから……心の底から愛している……これからもずっと、神影を愛していたい。だから俺と……」



「 「付き合ってください……」 」


 俺と神影は抱き合い、そして会えなかった数年分をまとめてするかの様に何度も何度も互いの唇を重ねるのだった。



「愛してるよ、神影……」

「私もよ、竹中君……いえ、颯君……」





――――――――――――――――――――――――

お読みいただきありがとうございました。

遂に次回、最終話(エピローグ的な内容)となります。

どうぞ最後まで宜しくお願い致します。


それと☆☆☆評価をいただけますと有難いです。

まだの方、何卒宜しくお願い致します。

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