第174話 家族会議

 【生徒会長選挙演説当日・伊緒奈サイド】


「伊緒奈さん、颯さんは本当に応援演説ギリギリまで学校に来られないのですか!?」


「うん、そうみたいよ。なんか午前中は用事があるらしいわ」


「まさか怖気づいたんじゃないでしょうねぇ? あの颯君ならあり得るんじゃない?」


「知由ちゃん、それは無いわよ。あの颯君だからこそ、ちゃんと約束を守ってくれると思うわ」


「でも、颯さんが午前中だけとはいえ、学校を休むなんて珍しいですよね? 初めてじゃないですかね?」


「そうね、太鳳ちゃん。珍しいと言えば珍しいわね……」




 俺は今、詩音行きつけの美容院に来ている。


 勿論、美容院なんて生まれて初めて来たので全然落ち着かない。

 それに学校をサボって来ているから余計に人目も気になってしまう。


 何でこんな事になったかと言うと……


 あの日、俺が陽キャに戻ると家族に伝えた日、久しぶりに家族四人でたくさん話をしたが、その中で近々、行われる応援演説についての話題にもなった。


 すると詩音がある提案をしてきたのだ。


「え? 詩音、今なんて言ったんだ?」


「もう、可愛い妹の話はちゃんと聞きなさいよぉ!! だ~か~ら~、お兄ちゃんは応援演説の日までは今のままの陰キャで過ごしてほしいのよ」


「だ、だから何で応援演説の日までそのままでいないといけないんだ?」


 俺は詩音の言っていることが理解出来なかった。


「だって陽キャに戻るなら、その瓶底メガネも止めてコンタクトに変えないとダメじゃない。明日、注文したとしても直ぐにはできないでしょ? それにせっかく陽キャに戻るのならインパクトがある方が良いと思うのよ。そう、応援演説ギリギリに陽キャの姿で現れる竹中颯……うーん、これって最高のシチュエーションだし、伊緒奈お姉さまの応援に対してもとってもプラスになると思わない? ねぇ、お母さん?」


「そうねぇ、その方が面白いわねぇ……プッ……」


 面白がっている場合じゃないぞ、母さん!!


「それじゃぁ、ヘアスタイルもバシッと決めないとダメだな!!」


 オイオイ、父さんまで何を言ってるんだ!?


「だよね、お父さん!! お兄ちゃんのこのボサボサ頭もスッキリさせないと陽キャとは言えないよねぇ?」


 まぁ、この髪型でコンタクトに変えてもあまり変化は感じられないとは思っていたけどさぁ……


「よしっ!! お兄ちゃん、応援演説当日の午前中は学校を休みましょう!! そして私の行きつけの美容院で流行のヘアスタイルにしてもらおう!!」


「えっ!? 学校を休んで美容院に行くのか!?」


 それはさすがに父さんも母さんも反対するだろう。


「 「詩音、ナイスアイデア!! よし、そうしよう!!」 」


 な、なんちゅう親だよ!?


「別に前日の夜でもいいじゃないか!?」


「別に構わないけど、応援演説当日の午前中は学校を休むのは必須よ!!」


「えーっ!?」



 ということで俺は今、学校を休んで美容院に来ているという訳だが……


「お客様~どのようなヘアスタイルにされますかぁ?」


「えっ? ああ、えっとぉ……」


 うわぁぁああ、どうしよう!!


 俺がどんなヘアスタイルにしたいのかって俺が聞きたいくらいだよ。

 流行のヘアスタイルなんて全然、知らないし……


 どうすればいいんだよ!?


 カランコロン


「あら、詩音ちゃんいらっしゃーい」


「えっ!? 何で詩音がここに来るんだ!? 学校はどうしたんだよ!?」


「お兄ちゃんが心配だから来たに決まってるじゃない。それに学校を休んで美容院に来ている人に学校はどうしたなんて言われたくないわぁ」


「それは詩音が……」


「はいはい、そんな事はどうでもいいから早くヘアスタイルを決めないと応援演説に間に合わないわよ」


「うっ、で、でもさ……お兄ちゃん、最近の流行のヘアスタイルなんて知らないし、自分に似合うヘアスタイルなんて全然、分からないからさ……」


「はぁ……そういうところは、やっぱ陰キャだねぇ? でも大丈夫よ。私がお兄ちゃんにとても似合うヘアスタイルをしているタレントの写真を持ってきたから!! ということで店員さん、この写真のタレントと同じヘアスタイルでお願いしまーす!!」


「は~い、詩音ちゃ~ん、了解で~す!!」




 【生徒会長選挙演説開始時間 陽菜サイド】


「それでは只今より、生徒会長選挙立候補者及び応援者による演説を行います。わたくし、本日の司会をさせていただきます、『投票部部長 後醍郷ごだいごう』です。どうぞ宜しくお願い致します」


 ワーッ ワーッ ワーッ


「フフフ……盛り上がってきたわねぇ……とても楽しみだわぁ」


「でも陽菜さ、本当に応援演説、俺じゃなくて大丈夫なのか? 俊哉君がダメとかじゃないんだけど、彼めちゃくちゃ緊張しているみたいだし、少し熱もあるみたいだからさ……」


「大丈夫よ、陽呂。俊哉ならきっと私の応援演説をやってくれるわ。それに熱だってただの知恵熱だしねぇ」


「前田君、大丈夫!? 顔色が凄く悪いわよ!!」


「だ、だ、大丈夫ですよ、宇喜多さん……」ブルブルブル……


「でも身体も震えているじゃない!?」


「ただの武者震いですよ、黒田さん……俺はこの日の為に陽菜ちゃんの良いところをたくさん考えてきましたからねぇ……それを全校生徒に伝える事ができるんですから、今俺は最高の幸せを感じているところです……」ブルブルブル……


「だからその震え方は尋常じゃないっての」


「マーサ、どう思う? この子、大丈夫かしら?」


「もう、ここまで来てしまったらいいんじゃない。前田君の陽菜に対する想いに賭けてみましょう」


「そうだね。それじゃぁ前田君、頑張ってね?」


「は、はい!! お任せください!!」



 【伊緒奈サイド】


「まだ颯さん来られてないみたいですよ!! 伊緒奈さん、どうしましょう?」


「大丈夫。先に羽柴陣営から演説を始めるんだし、まだ時間はあるわ……」


「伊緒奈さん、私、少し校門の前で待ってみます」


「華ちゃん、ありがとう。それじゃぁ、そうしてくれるかな?」


「はい」サササッ!!


「それでは私は下足箱近くに行ってきますねぇ?」


「ありがとう、八雲ちゃん」


「はぁ……そんじゃぁ、私は体育館前にでも行こっかなぁ」


「知由ちゃんもありがとね? 太鳳ちゃんと直人の二人は私の傍にいてちょうだいね? さすがに私も一人は不安だから」


「オッケー」「分かりました!!」


「私もいてあげるわ……」


「ま、魔冬?」


「私は颯君の演説を一番近くで見たいだけだから」


「フフフ……でも魔冬ありがとね? とても心強いわ」




「それでは、まず最初に生徒会長候補の一人、羽柴陽菜さんの応援演説から行いたいと思います。応援演説をされる前田俊哉君、壇上にお越しくださーい!!」


「は、はい!!」ガチガチガチ……


「 「 「オイオイ、前田の奴、ガチガチじゃないか!?」 」 」


 ヤバい!!


 考えていた内容が全て消えてしまったぞ!!




 【校門前】


「は、華子!! 遅くなってゴメンよ」


「へ? あなた……誰??」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る