第158話 織田乃恵瑠の秘密
「ゴメンね、颯君。お仕事大変な時に……」
「いえ、そんなに大変では無いですよ。皆さん、結構自分の事は自分でやってくれていますし、それに魔冬達も頑張ってくれていますから……」
「ウフ……」
「え? 俺、何か変な事を言いましたか?」
「ううん、そうじゃないの。学園で最初に会った頃の颯君って人と話す時、うつむき加減で話をするのが苦手そうな感じだったけど、この数ヶ月の間に小学生の頃の明るかった颯君に雰囲気が戻ってきたなぁと思ってさ」
「そ、そうですか? 俺はあまり変わっていないと思っているんですが……」
と言いながらも実は俺もそんな気はしていたので乃恵瑠さんにそう言われるとやはりそうなのかなって思う自分もいるのは確かだ。
「私ね、本当に小学生の頃の颯君に一目ぼれしたんだよ。そう、あれが私の初恋だったの。そしてその初恋は思い出だけで終わるのかなって思っていたら、まさか高校生になって再会できるなんて……これは絶対に運命の出会いだと確信したわ」
「は、はぁ……」運命の出会いかぁ……
「でも、こんなにもライバルが現れるなんて予想外だったけどね……」
イヤイヤイヤッ、俺の方が予想外ですよ!!
俺みたいな陰キャオタクが学園の美少女達に次から次と告白されるなんて一体、誰が思います?
「そ、それで俺に話があるって言われてましたけど……」
「あ、そうだったわね。ゴメンゴメン……颯君とこうやってゆっくりお話をするのって久しぶりだったから、つい関係の無い話をしてしまったわ。実はね、今日は颯君に一つ確認したいことがあったの」
「え、確認ですか?」何の確認だろう?
「うん、そうなの。少し確認したいのだけど、一昨日だったかな、颯君、蘭子に会ったでしょ?」
「えっ、何故それを?」
「蘭子からラインがきて知ったのよ」
「そうだったんですか? まぁ、森蘭子とは会いましたけど再会の仕方があまり良くない状況だったこともあって大した話もせずに別れましたので……」
まぁ、御影をイジメていた森蘭子に対して怒りがあった俺が一方的に話を遮ったんだけどね。
でもあの時、森蘭子は俺に何か言っていたよな?
神影をイジメていたのは誰かに頼まれたとか言っていたような……
「蘭子とあまりお話はしていないのね?」
「え? ああ、そうですね……ただ、今度一度会って森蘭子の話を聞く約束はしましたけど」
「そ、そうなんだぁ……」
なんか乃恵瑠さんの表情が暗くなったような……
「乃恵瑠さんが俺に確認したかった事って森蘭子のことなんですか?」
「う、うん……まぁ、そうだね、蘭子のことだねぇ……」
「そうなんですね。それじゃぁ確認も終わったことですし俺はそろそろ仕事に戻っても構わないですよね?」
「え? もう仕事に戻っちゃうの? まだ全然、話足りないんだけどなぁ……」
「いや、でも乃恵瑠さんの確認したい事は終わりましたし、魔冬達が思った以上に仕事が真面目なので少しだけ先輩の俺としては休憩を取りづらいんですよ」
「わ、分かったわ。無理に颯君を引き留めてしまって嫌われちゃったら元も子もない無いしねぇ……でも最後に一つだけ言わせてくれるかな?」
「はい、構いませんが……」
「今度、蘭子に会った時……あの子が話す内容をあまり信じない方がいいわよ」
「え、何でですか?」
ん? 幼馴染で昔から姉妹の様な関係の森蘭子のことを何で信じない方が良いって乃恵瑠さんは言うんだろう?
「あの子ね……昔からよく嘘をつく子だったの。今もそれはあまり変わっていないみたいだし……前に電車の中で言った事があるでしょ? 小学生の頃、蘭子も颯君の事が好きだったって……」
「そ、そうでしたね……」
未だにその事は信じられないんだけどな。俺だって神影が引っ越してから森蘭子達のイジメの標的にされていたくらいだし……
「多分、今も颯君の事が好きだと思うから自分を良い様に思わせる為に有ること無い事を颯君に言うかもしれないわ」
「有ること無い事って……それに森蘭子が今も俺の事が好きって事は無いでしょう? 今は見た目がギャルみたいになっていましたし、男友達も多そうでしたし……彼氏の一人や二人いそうな感じでしたよ。だからそんな森蘭子が俺を今も好きだなんてあり得ないんじゃないでしょうか?」
「ううん、それは分からないわ。あの子は昔から一途な所があったし、男友達が多いとしてもその人達に対して恋愛感情は無いと思うわ。きっと今も心の中に颯君がいるはずよ」
乃恵瑠さんの口調が少しだけ激しくなってきたような……
「あのぉ……乃恵瑠さんは森蘭子が話す内容で何か恐れている事があるんですか? なんか乃恵瑠さんが怯えている様に思えるのですが……」
「お、怯えてなんかいないわ!! ただ私はあの子の言う事を颯君には信じて欲しくないだけなのよ」
更に乃恵瑠さんの口調が激しくなったぞ。
「わ、分かりました……安心してください乃恵瑠さん。俺も基本的には彼女の話す事は話半分にしようと思っていますから。それにもしかしたら結局は会う事すら無いかもしれないですしね」
「よ、良かった……少しホッとしたわ……」
「ハハハ、それでは乃恵瑠さんがホッとしてくれたという事で俺もホッとしながら仕事に戻りますので。乃恵瑠さんは合同合宿後半を楽しんでくださいね?」
「あ、ありがとう颯君……私の話を聞いてくれてありがとね?」
「いえいえ、それでは」
話半分っていえば前に伊緒奈が乃恵瑠さんに対して言っていたような……
コンコン……
ん、誰だろう?
「はーい」
「颯君、織田会長とのお話は終わったかなぁ?」
この声は伊緒奈!?
「あ、ああ……終わったよ」
「フフフ……そうなんだぁ。それじゃお部屋に入るわねぇ?」
ガチャッ……
「どうもで~す」
「ひ、陽菜!?」
「え? 陽菜さんも一緒だったんですか!?」
「ヘヘ、そうなのぉ。私と徳川さんも乃恵瑠に少し話があってねぇ、颯君との話が終わるのを待っていたんだよぉ」
「そうなんですか?」
二人が乃恵瑠さんに話って何だろう?
でも、きっと俺には関係の無い話だろうな。
とりあえず俺がいると邪魔になるし、さっさと仕事に戻るとしよう。
「それでは皆さん、ごゆっくりどうぞ」
ガチャッ……バタン……
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「 「・・・・・・」 」
「それで二人して私にどんな話があるのかしら?」
「うーん、そうだねぇ……乃恵瑠の昔のお話がしたいなぁと思ってさぁ……」
「え? 私の昔の話ですって? いつの頃の話なの?」
「そうですねぇ……織田会長が小学生の頃……それも転校が近づいていた時期のお話というか、秘密といったところでしょうかぁ……」
「な、何ですって!?」
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