第171話 再会は突然に

 パッションパープルとかいう魔法少女と会った翌日、オレは前日の疲れを引きずったまま学校へと向かっていた。


「しかし、なんだったんだあいつ。個性的なんて言っちまえばそれまでなんだが」


 魔法少女には個性的な奴が多い。そんなのはわかってた。

 たとえば青嵐寺の奴みたいに怪人が憎いから怪人を殺すとかならまだ理解はできる。でもあいつはそんなんじゃ無かった。

 無だ。あいつの目に浮かんでたのはどこまでも無。まるで人形みたいに一切の感情が読み取れなかった。

 あれで意外と喋る奴だったけど、どこまで本音だったのかがまるでわからない。奇妙、不気味。そんな言葉が似合う奴だった。


「……まぁもう会うこともねぇような奴のことを考えてても仕方ねぇか」


 こっちから探したり、向こうがオレの方を探したりしない限りはもう会うことはねぇはずだ。今まで見たことがねぇってことは昨日は応援かなんかでこっちに来てただけで本来の活動区域は全然別の場所なんだろうしな。

 もちろんオレはあいつに会う気はねぇし。向こうだってわざわざオレを探すようなことはしねぇだろ。

 

「それにしても……昨日は今まででも一番忙しかったかもな」


 結局あの後も二件くらい怪人の事件があって。結局帰れたのは夜の十時くらいだった。秋穂には一日バイトってことで説明したけどな。

 青嵐寺や黄嶋の奴も昨日は夜までずっと忙しかったみたいだな。今はまだいいけど、この調子で増えられたらさすがに手に負えなくなるぞ。

 今朝やってたニュースでもカバーしきれなかった怪人事件があったとかで、その被害についてコメンテーターが好き勝手言ってたしな。

 被害を出さないようにするのが魔法少女の仕事だとかなんとか。やれるならやってるってんだ。こっちが裏でどんだけ処理したと思ってんだ。まぁテレビの言うことなんかに一々腹立ててたらキリがないけどな。

 今日は緊急の呼び出しがかかるようなことが無けりゃいいんだが。まぁ怪人共に配慮なんて期待するだけ無駄か。

 巡回の魔法少女の数を増やしてるらしいし、滅多なことが無い限りは大丈夫だと思っていいだろうけど。

 今日の放課後は活動せずにグリモアで調べ物しようと思ってるんだが……さて、どうなることやら。


「あぶなーい」

「は? ぐはぁっ?!」


 急に聞こえてきた間の抜けた声に振り返った時にはもう遅かった。

 視界いっぱいに広がる紫。その直後には凄まじい衝撃がオレの体を襲っていた。


「ってぇ……なんなんだよ急に」

「ごめん、前見てなかった」

「いや前見てなかったって勢いじゃ……ってお前は!」


 パッションパープル。喉元まで出かかった名前をグッと堪える。

 出会ったのはあくまでラブリィレッドとしてだ。オレがその名前を呼ぶのはあまりにも不自然だしな。


「? どうしたの」

「いや、なんでもねぇよ。それよりお前ちゃんと前見て動けよな。オレだったからとっさに受け身取れたけど、他のやつだったら怪我しててもおかしくないんだぞ」

「ごめんなさい」

「めちゃくちゃ速攻で謝りやがったな。まぁいい。そんじゃ気をつけてな」


 ホントに反省してるかどうかは怪しいもんだが、これ以上こいつと関わり合いになるのはまずいとオレの本当が叫んでる。

 だからさっさと離れたかったんだが……。


「……なんで着いてくんだよ」

「その制服、魔法ヶ丘高校の生徒でしょ」

「あぁ、そうだが。それが何だよ」

「わたしもその学校に用があるの。解除」

「っ!?」


 突然、何のためらいも無く変身を解いたパッションパープルに思わず面食らう。

 魔法少女にとってその正体はトップシークレットのようなものだ。オレだって正体を知ってる魔法少女なんて青嵐寺と黄嶋くらいだ。

 それを赤の他人にあっさり晒すなんて馬鹿の所業だ。


「どうしたの?」

「お前、何してんだよ」

「変身を解除しただけ。あの格好のまま学校に行くわけにはいかなかったから」

「そうかもしれねぇけど、だからっていきなり変身を解くのは……あぁもうめんどくせぇ!」


 なんでオレがんなこと一々気にしなけりゃいけねぇんだ。変身するもしないもこいつの勝手。人前で変身解くのも解かないのもこいつの勝手だ。それでこいつが困ろうがどうなろうがオレの知ったこっちゃねぇだろ。


「紫姫」

「あ?」

「わたしの名前。あなたは?」

「……紅咲晴輝だ」

「じゃあ晴輝。わたしを学校まで案内よろしく」

「なんでオレがそんなことしなきゃいけねぇんだよ」

「あなたも学校に行くんでしょう? だったら別に問題無いはず」

「っ、それは……あぁくそ! 着いてくんなら勝手にしろ!」

「ありがとう。それじゃあ勝手にする」


 なんでこうなんだよ……。

 そんなオレの嘆きは誰にも伝わることは無く。

 結局紫姫を連れて学校まで行くことになるのだった。

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