第169話 多発する怪人事件
猫と大富豪の遺産の一件から一週間ほど経った。
あの一件は特殊な依頼といえば特殊な依頼だったが、まぁ猫探しというか何かを探すような依頼は珍しいものじゃない。ただの猫探しにしてはやたらと報酬が高額だったから何かあろうだろうとは思ってたけどな。
聞いたところによるとあの執事も遺産の問題を片付けて無事に実家に帰ったらしいし、これ以上心配することはないだろ。
心配することがあるとしたらあの時オレらを襲ってきたあの男達だ。あの時の力、明らかに普通じゃなかったからな。
協会が詳しく調べた結果、あの男共は薬を飲んでいたらしい。もちろん普通の薬じゃないだろうが。また薬だ。
最近妙に薬が関わってる事件が多い。しかもどれだけ元を辿ろうとしても途中でブツリと切れちまう。まぁ十中八九後ろにいるのは『ウバウンデス』なんだろうが。
オレらもかなり手をこまねいてる状況だ。できることといえば最近大量に暴れてる怪人を捕まえることくらいだ。
そして今日もまた――。
「はい、しゅうりょー。じゃあ後はよろしくー」
「はい。お疲れ様でした……」
捕まえた怪人を協会から派遣されてきた魔法少女に引き渡す。今日だけでもう三回目だ。休みの日だからってのもあるが、朝からあっちへこっちへと走り回って怪人を捕まえまくっていた。
まぁそんなに強い奴は居なかったから苦労とかはしてないんだが。
それにしても、こいつずいぶん疲れた顔してるな。
「今日結構忙しいの?」
「今日……というか、ここ最近ずっとです。怪人の犯罪件数が飛躍的に増えてまして。そのせいで休む間もほとんどなくて。この後もすぐ次の現場へ行かなければ……って、すみません。つい愚痴を言ってしまいました」
「いいよいいよ。気にしないで。そっちも大変なのはわかってるからさ。まぁ頑張ってね」
「はい。そちらもお気をつけて」
そう言ってそいつは飛び去っていった。
「相変わらずブラックっぽいなぁ。まぁ仕方無いんだろうけどさ。っと、また通知だ。怪人の出現情報……ホントに多いな。今日四件目なんだけど。しかも結構近いな。イエローもブルーも今は別行動だし……仕方無い。行くしかないか」
無視するっていう手段もないわけじゃないけどな。もう少し離れてたら無視しても良かったんだが、今いる場所からだと五分もかからずに着く場所だ。まだ体力も魔力も余裕はあるし、行ってもいいだろ。
ドワーフメイスがオレに合わせて改良した魔道具『ビュンビュンちゃん改』を使って空を駆ける。せっかくならこの名前も変えて欲しかったんだけどな。
名前はともかく、性能は前よりも格段に良くなった。
オレには飛ぶよりも走る方が合ってるとかで、空中に魔力を利用した力場を生み出して、それを踏んで走る方へとシフトした。
確かに飛んでた頃よりもずっと動きやすくはなった。空中での方向転換、力場を利用した縦横無尽な移動。戦闘方面でも多大な恩恵がある。
どういう理屈かは知らねぇが、まぁ知る必要もねぇだろう。使い方さえわかってりゃそれでいいんだからな。
空中を走ることしばらく。ようやく報告のあった地点が見えてきた。
「他の魔法少女は……まだ来てないか」
ま、無駄足にならなかっただけ良かったと思うことにするか。
件の怪人は隠れるつもりも逃げるつもりもないのかすぐに見つかった。
パッと見は……あれだ、ミノタウロスだったか。そんな感じだ。人の体に牛の頭。馬鹿でかい角を使って周囲の建物を壊しまくってる。
この辺に居た人はもう逃げてるみたいだな。パッとみ怪我人がいる気配もねぇ。よし、ちゃっちゃと終わらせるか。
「はいストーップ。暴れるのはそこまでにして貰おうかな」
「ブルルルルルルルゥ、なんだお前は」
「鼻息荒いねぇ。私は君を捕まえにきた魔法少女、ラブリィレッド。まぁよろしくする必要はないかな」
「ラブリィレッド、その名前は知ってるぞ。ちょうどいい。俺も自分の力を試したかった所だ。俺の名前はミノ! 最強の怪人になる男だ! ヌゥン!!」
怪人――ミノはオレの名前を聞いてさらにテンションが上がったのか、地面を踏み砕いてやる気満々って感じだ。
というか最強の怪人か。またでかく出たもんだな。
「あんまり最強とか軽々しく口にするもんじゃないと思うけど。まぁいいや。いいよ、相手してあげる。後悔しないでよね」
「ブルルルルゥ!! 行くぞラブリィレッドォッ!! 出し惜しみなどしない、最初から全力全開だぁ!!」
姿勢を低くし、地面を踏みしめるクラウチングスタートのような格好。
なるほど、チャージアタックってことか。牛らしくまっすぐ突っ込んでくるつもりなんだろう。いいぜ、その根性は気に入った。
だったら俺も真っ向から受けてやる!
足に装着した魔道具に魔力を充填し、一気に加速できるようにする。
動き出したのはミノが先だった。
「ヌゥウウウウウンンンッッ!!」
「とりゃぁああああああああっっ!!」
動き出したのを見て一気に溜めていた魔力を解放、全速力でミノの方へと走る。
そして、オレとミノがぶつかり合う――その刹那だった。
「どーん」
場の空気にそぐわない、気の抜けた声が聞こえたと同時に上から落ちてきた巨大なハンマーがミノのことを押し潰した。
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