第122話 それはあまりに突然のことで

 何かが起こる時というのは大抵突然だ。オレが魔法少女に変身することになった時と同じように。そして『それ』は本当に突然オレ達の身に降りかかった。




 昼休み。オレはいつものように良平達と昼飯を食べていた。


「毎度思うけど、秋穂ちゃんの弁当いいよなー。これ全部手作りなんだろ?」

「人の弁当じろじろ見てんじゃねぇよ」

「いいだろ別に見てるだけじゃ減らねぇんだから」

「減んだよ、オレの食欲とか色々な」

「ひっでぇ」

「はは、確かに言えてるな。リョウ、そんなにうらやましいならお前も弁当にしたらいいじゃないか」

「誰が作ってくれんだよ。母さんは弁当なんか作ってくれねぇし、俺には弁当作ってくれるような可愛い妹はいねぇし。はっ! だったら秋穂ちゃんに俺の妹になってもらえばいいのでは?!」

「ぶっ飛ばすぞ」

「じょ、冗談に決まってるだろ。目が今までになくマジだぞ」

「マジだからな。ってか、自分で作りゃいいだろうが」

「嫌に決まってるだろ。何が悲しくて自分で自分の弁当作らなきゃいけねぇんだよ」

「お前それは自分で弁当作ってる奴を敵に回す発言だぞ」

「そんなに弁当を作って欲しいなら、彼女の一人でも作ればいいだろ」

「そんな簡単にできりゃ苦労しねぇよ。それともお前が彼女になってくれるのか?」

「はは、冗談は顔だけにしろ」

「ひでぇっ!?」


 空花の奴、目がマジだったな。オレも人のことは言えねぇんだが。


「まぁリョウの戯言は置いておくとして、ハル……委員長と何かあったのか?」

「あ? なんでだよ」

「あれ」


 空花の指さす方には黄嶋がいる。そして黄嶋はオレと目が合うなりハッとした顔になって目を逸らしてくる。


「…………」


 今日一日ずっとこの調子だ。ったく、なんのつもりだあいつ。あんな露骨に視線向けてくりゃ誰でもわかるに決まってるだろ。

 だが、だからって朝にあったことをそのまま話すわけにもいかねぇ。そんなことすりゃこいつらが嬉々として遊びだすのは目に見えてるからな。

 ここはしらを切るしかねぇか。


「さぁな。知らねぇよ」

「ほんとかー?」

「そう言うにはさすがに意味ありげ過ぎる気がするが。まぁハルがそう言うなら私はそれでもいいけど」

「なんだよ」

「別に。なんでもない」

「明らかになんでもあるような含みある言い方すんじゃねぇよ」


 だが、これ以上下手なこと言ってやぶ蛇しても困るだけだ。追求されないならそれでいいか。

 黄嶋の奴にはまたタイミングみてちゃんと言っとかねぇとな。


「あ、そうだ。それよりもよぉ、午後の英語。俺当てられんだけど宿題やってきてねぇんだよ。頼む! みせてくれねぇか?」

「ふざけんな」

「断る」

「なんでだよ! 頼む、ちょっとだけ、さきっちょだけでいいからぁ!」

「それ一番信用ならない言葉じゃねぇか」

「論外だな」

「えー、マジでダメなのか?」

「……ったく、おら」


 鞄の中からノートを取り出して投げつける。


「昼休みの間に返せよ」

「おぉっ、晴輝! やっぱり持つべきものは彼女よりも親友だな!」

「うぜぇっ、くっついてくんじゃねぇよ!」

「照れんな照れんな」

「まったくハルは……そうやって甘やかすからリョウが宿題やってこないんでしょう」

「別に甘やかしてるわけじゃねぇだろ。ただこいつが説教くらって授業が止まんのがダルいだけだ」

「「ツンデレだ」」

「何ふざけたことぬかしてんだ! あんまりうだうだ言うならノート返しやがれ!」

「おっと、冗談。冗談だって。こいつはありがたく使わせてもらうぜ、ちゃんと返すからよ」

「最初からそう言えってんだ」

「ふふ、いつも賑やかねあなたたちは」

「あ、青嵐寺さん」

「何か用があるのか青嵐嬢」

「別に用があったわけじゃないけど」


 チラっと一瞬青嵐寺の視線がオレの方に向く。何か言いたげな感じだ。


「なんだよ」

「黄嶋さんの何かあったの?」

「その話を蒸し返すんじゃねぇよ!」

「そこまで強く否定されると逆に気になるけど。その様子ならまだ知らないみたいね」

「あ? 何のことだよ」

「なんでもないわ。それよりも今日の放課後に――っ!」

「今の感覚は……」


 同じ感覚を味わったのか、青嵐寺は険しい顔で窓の外を見ていた。昨日怪人が出現した時と似た感覚。だが、その濃さが昨日とは桁違いだった。

 本能的にやばいと、そう感じてしまうほどに。


「なんだ二人とも、どうしたんだ急に」

「窓の外に何かあるの?」

「二人とも窓の近くから離れて――」


 青嵐寺がすべてを言い切ることはできなかった。それよりも先に『それ』が現れたから。


「みんな伏せてっ!」


 教室内にいた連中に注意を促すが、突然そんなことを言って瞬時に従える奴なんているわけがない。

 その次の瞬間、凄まじい揺れがオレ達のことを襲った。

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