第121話 嵐の前の静けさ

 フュンフに不穏なことを言われはしたものの、その後急に襲われるようなこともないままにオレは学校に着いた。

 先に行った黄嶋の奴はもう着いてるだろうな。まぁこっからはいつも通りだ。関わるようなことはねぇだろうし、向こうからこっちに来るようなこともねぇだろ。


「おっす晴輝。どうした? なんか朝から疲れてるじゃねぇか」

「別に疲れてねぇよ。ってか肩組んでくるんじゃねぇよ。暑苦しいだろうが」


 今日も今日とて朝から元気過ぎてうざい良平に顔を顰める。


「って、そうじゃねぇよ! 昨日お前どこに行ってたんだよ!」

「あ?」

「あ? じゃねぇよ。緊急避難命令の後だよ。お前も青嵐寺さんも急にいなくなっちまって」

「あー……そのことか」


 やべぇ。そうだった。すっかり忘れてた。

 あの時は緊急だったから何も考えて無かったが、こいつらからしたら避難の時に急にいなくなった奴ってことになるのか。

 確か学校サイド……校長とかには魔法少女統括協会から極秘裏に連絡が行ってるんだったか。まぁでもそうだよな。そうでもしねぇとこっちが勝手にサボったことになっちまうし。

 どう説明してるのかは知らねぇが。もしかしたら説明なんてしてなくて、暗示的な魔法でも使ってんじゃ……って、さすがにそんなわけねぇか。

 あのなんでもあり具合だと完全に否定もできねぇんだが。


「おい聞いてんのか?」

「あ、悪い。で、昨日何してたかって話だろ。オレはほら、あれだよ。レッドの協力者としての仕事があったんだ。だから抜け出してたんだよ」

「だからって、何も言わずに行くことねぇだろ。オレも空花もめちゃくちゃ心配したんだからな」

「悪かったよ。ただこっちも急ぎだったんだ。そんなこといちいち説明してられなかったんだよ。他の奴の目もあったしな」

「それはわかるけどよぉ。今度からはちゃんと言ってけよな。こっちだって心配すんだから」

「わーったよ。覚えてたらな」


 でも確かに今後も同じことがあるかもしれねぇしな。そのたびにこうやって追求されんのもだりぃし、声かけるくらいはやってもいいか。


「それで、お前のことはわかったけど青嵐寺さんの方はなんか知らねぇのか?」

「オレが知ってるわけないだろうが。あいつに直接聞けよ」

「んー、まぁそれもそうか。まさか青嵐寺さんまで魔法少女関係ってことはないだろうしな」


 そのまさかなんだよ、とは言えねぇ。

 まぁ知らないなら知らない方がいいだろ。これ以上変に関わることろくなことにならねぇだろうしな。


「あ、でもいなくなったっていやぁ、委員長も気づいたらいなかったんだよなぁ」

「黄嶋も?」

「あぁ、そうなんだよ。最初は気のせいかと思ったんだけどな、後で点呼とったらやっぱり居なくなってたみたいでよ。お前はともかく青嵐寺さんと委員長が居なくなってたのはちょっとした騒ぎになったなぁ」

「オレはともかくってなんだよ」

「ははっ、お前はいなくなってもおかしくねぇからな」

「いっぺんお前らの中のオレがどんな風なのか問いただしたくなってきたな」

「お、怒るなって! 仕方ねぇだろ、お前がそういう印象なのはわかりきってたことだろうが」

「まぁそうなんだがよ」


 確かに良平の言うとおり自業自得か。今更どうにかできるもんでもねぇし、甘んじて受け入れるしかねぇな。


「で、黄嶋の奴がいなくなったってのは本当なのか?」

「だから間違いないって言ってるだろ。お前や青嵐寺さんと一緒で結局戻ってこなかったしな。先生も何も知らねぇって言うし」

「…………」


 どういうことだ? オレらがいなくなった後に黄嶋もどっかに行ったってことか?

 でもなんでだ?


「何をそんなに考え込んでんだよ」

「……いや、なんでもねぇよ」


 確かにちょっと気にはなるが、ここでオレが答えを出すようなことでもねぇだろ。


「そういや何も気にしてなかったが、授業は普通にあるんだな」

「こっちの方はあんま被害が出なかったみたいだしな。いやぁ、ラブリィレッドさん達の活躍、近くで見たかったぜ」

「阿呆なこと言ってんじゃねぇよ。向こうがどんな有様か知らねぇわけじゃねぇだろ」

「それはそうなんだけどよ。あの怪人めちゃくちゃでかかったもんなぁ。でも、一歩も引かずに戦う魔法少女達の姿、感動もんだよなぁ」

「何言ってんだよお前は……」


 こっちがあの怪人と戦うのにどれだけ必死だったと思ってんだ。

 まぁオレらがしたことは全力の一撃をあの怪人にたたき込んだだけなんだが。


「おら、いつまでも騒いでんじゃねぇよ。もう教室着いたぞ」

「なんだよ、もっと盛り上がろうぜ! ほら、なんか裏話とかあったりしねぇのか?」

「あるわけねぇだろうが」


 こうしてオレのいつも通りの日常が始まった。

 それが、嵐の前の静けさであることに気づかないままに。

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