第94話 眠気に抗うのは難しい
「あー、眠い」
『グリモワール』に行った翌日。オレは眠気を堪えながら学校に来ていた。
まぁ眠いのはいつものことなんだがな。今日はいつも以上に眠い。滅茶苦茶眠い。気を抜いたらすぐにでも寝れるレベルだ。
理由はわかってる。昨日のあの大怪我のせいだ。まぁ全身の骨がバキバキに折れてたって話だからな。こうして普通に登校できるだけですごいことなんだろうがな。
普通そんなことになったらベッドとお友達状態だろうからな。
だがその反面というか、体のダルさだけはどうしようも無かった。プレアナースから聞いたことによると、超回復の反動ってことらしい。
動けないってほどではねぇし、最悪授業中寝てりゃいいだろ。とりあえず今は眠気に抗う理由うもねぇからな。
邪魔する奴もいねぇし——
「おっすー! お、今日は早いじゃねぇか晴輝! なんだなんだー? どういう風の吹き回しだよ」
いた。邪魔する奴が。それも一番ウザい奴が。
「おいうるせぇぞ。今から寝んだよ、邪魔すんな」
「なんだよ機嫌悪ぃな。そんなに眠いのか?」
「見てわかんだろうが」
「……うん、確かに眠そうだ。でもそんな時こそ喋って眠気を吹っ飛ばそうぜ!」
「うるせぇ黙れぶん殴るぞ」
「いつもならそう言うと同時に殴ってのに。マジで眠いんだな」
「そんなこと……」
ねぇだろって言おうとしたが、もしかしてやってたか?
やってたかもしれねぇ。あーダメだ。考えるのもめんどくせぇ。
「とにかく授業まで寝るからほっといてくれ。お前と喋ってたら寝る時間が無くなるだろうが」
「なんだよもー、つれねぇなぁ」
「…………」
もう喋るのもめんどくせぇ。
喋り続ける亮平のことを無視して机に突っ伏した。次第に亮平の声も遠のき始め、ゆっくり夢の世界へと落ちて——
「ぐぼぁっ!?」
「何寝てるんだハル。学校は寝る場所じゃないぞ」
背中に叩き込まれた衝撃に眠気が一気に吹き飛ぶ。
いきなりこんなことしてくる奴は一人しかいねぇ。
「げほっ、おい何しやがる空花!」
「おはようハル。お目覚めだな」
「お目覚めだな、じゃねぇよ! 寝ようとしてんのがわからねぇのか!」
「だから起こしてやったんだろう。さっきも言ったが学校は寝る場所じゃないぞ」
「授業中ならその主張もわかるけどな。別に休み時間何してようが自由だろうが。周り見て見ろよ。寝てるのはオレだけじゃねぇだろ」
何して疲れてるのか、たんに寝不足なだけなのかわからねぇが寝てるのはオレだけじゃない。教室を見回せばチラホラと机に突っ伏して寝てる奴がいた。
「確かにそうだな。よし、全員たたき起こしてこよう」
「おいやめろ!」
「? なんで止めるんだ? たたき起こされたのが自分一人だから不満なんだろう。だからこうして私が直接全員起こしに行こうとしてるんじゃないか」
「頭いかれてんのかお前は! そういうことが言いたかったわけじゃねぇよ!」
「なんなんだ全く。わけがわからない」
「お前の思考回路の方がわけわかんねぇよ」
「なはははっ! 空花がわけわからねぇのなんていつものこと——ぶげらっ?!」
「失礼なこと言うな。殴るぞ」
「も、もう殴ってんじゃねぇか」
「しまった。つい口より先に手が。これもハルの影響だな。悪影響だ。あぁ、私はハル達と関わるようになって穢されてしまった……」
「人聞きの悪い言い方すんじゃねぇよ! あぁくそ、完全に寝れるテンションじゃなくなっちまった」
まだ眠気はある。だがこの調子じゃどうしたって寝れそうにもねぇ。
しょうがねぇ、顔でも洗って来るか。
「あー、めんどくせぇ」
「どこか行くのか?」
「顔洗ってくんだよ、目覚ましだ」
「なるほど。それはいい案だ。それにしても……ホントに顔色が良くないな。昨日何かしてたのか?」
「ちょっとな。忙しかっただけだ。別に体調が悪いわけじゃねぇよ」
今も異常に眠いってだけで、それ以外の問題はとくにねぇしな。
「ならいい。行くなら早く行った方がいいぞ。そろそろ予鈴が鳴る」
「え、もうそんな時間かよ」
「あぁ、だから早く行って来るといい」
「俺のことは無視かよ……ひでぇぜ二人とも」
床に蹲る亮平のことを無視して教室を出る。
だが、眠気もあってボーっとしてたせいで教室に入ろうとしてる奴がいたことに気づかなかった。
「きゃっ」
「おっと。悪い、気付かなかった」
「ご、ごめんなさい! 私も前見てなくて、その……」
ぶつかったのは黄咲だった。ってか、なんか前にもぶつかったことがある気がするんだが。
で、またビビり過ぎだろ。まぁしょうがねぇか。
「あーいいって。気にすんな。そんじゃな」
「あ……」
黄咲なぁ。悪い奴じゃねぇんだろうが。
って今来たのか? いつももっと早く来てるイメージあるんだが。
まぁいいか。そんなこともあんだろ。
そんなどうでもいいことを考えてたら予鈴が鳴った。
「ちっ、ホームルームまでに戻ってこねぇとな。早く行くか」
そしてオレは眠気覚ましをするために手洗い場へと急いで向かった。
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