第83話 タダで貰うものほど怖いものはない
山のようにあったお菓子がなくなるまでにかかった時間僅か十分足らず。その胃は異次元にでも繋がってるのかと思ったほどだ。
秋穂の奴も甘い物は別腹とか言って食後に甘い物食べてることはあるが、こいつのそれはそんなレベルじゃねぇだろ。
明らかに体の大きさと合ってない量食ってるぞ。あの小せぇ体のどこにあの量入ってやがんだ。
「ぷはぁ、うん、満足満足♪ それじゃあお待たせ。魔道具についての説明するね」
「あ、はい」
「ところでなんだけど。もちろん魔道具使うの初めてだよね?」
「そうなりますけど。それが?」
「それじゃあ一から説明した方がいいよね。まぁ細かい魔道具の仕様とかは説明するのがめんど——じゃなくて、ちょっと難しいからそこの説明は省くね。スマホ出してくれる?」
「スマホ? えっと、これですけど」
「あれ、もしかして……普通のスマートフォン使ってる?」
オレのスマホを受け取ったドワーフメイスはそのスマホを見るなり言ってきた。
普通のスマホって、そりゃ普通だろって話なんだが。
「普通のって、普通じゃないのがあるんですか?」
「うん。あ、でもそっか。この『グリモワール』に来るのも初めてなんだもんね」
「えーと、話がよく見えないんですけど」
「あ、ごめんね。そっちの説明もしよっか。魔道具ってデータ化して運用するんだけど、その時に普通のスマホだと容量が足りないんだよね。だから魔道具の運用をするならそれ専用のスマホを用意する必要があるの」
「へぇ、そうなんですね。でもそうなると私のスマホじゃ無理なんじゃ……」
「まぁさすがにね。中央塔の近くにショップがあったりするけど……うん、そうだね。ちょっと待ってて、すぐ戻るから」
そう言うとドワーフメイスは奥へと引っ込み、ものの二、三分ほどで戻って来た。
「お待たせっ!」
「これ……もしかして」
「そう。さっき言ってた魔法少女専用のスマホ。結構ピンキリなんだけど、これ一応最新モデルだから。レッドちゃんにあげる!」
「えぇっ!? いや、さすがにそれは」
「いいからいいから。あたし同じのまだ持ってるし。先輩からの贈り物ってことで」
「いや、でもだからって……」
最新のスマホってことになると、十万とかそれくらいはするはずだ。そんなもんをラッキーなんて感じで貰えるわけがねぇ。
「うーん、それじゃあこれが報酬ってことで。それなら納得してくれるでしょ?」
「報酬?」
「うん、魔道具のテスターしてもらう報酬。それならいいでしょ?」
「そういうことなら……まぁ」
テスターってのがいったいどれほどのもんなのかわからねぇが、なんも無しでももらうってよりはまだ納得できる。
「やった♪ ありがとね」
「でもいいんですか? テスターするくらいでこんなの貰っちゃって」
「もちろん。さっきも言ったけど余ってるし、なによりレッドちゃんには色々使ってもらおうと思ってるからね」
「え?」
「それじゃあスマホ問題も解決したところで、こっちの方に魔道具のデータ移すね。このスマホ普段使いのものにするなら、こっちのデータも全部移しちゃうけど、どうする?」
「いやあの……あー、まぁ、お願いします」
今さら断れる雰囲気でもねぇか。
それに、別にテスターするくらいならそんな手間でもないだろうしな。
手間じゃない……よな?
ま、そん時はそん時だ。
スマホに関してはだいぶ古くなってたしな。そろそろ買い替えるつもりだったしな。
「じゃあそっちもまとめてやっちゃうね。このスマホはずいぶん古いし、ちょっと使用感変わっちゃうかもだけど。まぁ基本的には一緒だから大丈夫だと思う。アプリのデータとかその他もろもろの引継ぎとかも全部一気にやっちゃうから」
「え、でもそれって」
「あ、もちろん個人情報は見ないから大丈夫だよ。その辺はちゃんとしてるから」
そっか。でもデータの移行ってパスワードだのなんだのいるんじゃねぇのか?
機械系はよくわからんけど。
「五分くらいで終わるから。その間に説明しちゃうね。私の画面見てくれる?」
差し出された画面に表示されてたのは見慣れないアプリだった。
『ウィッチサポート』? なんだこれ。
「これ、『魔法少女掲示板』とも連携できるアプリなんだけど。これ『グリモワール』で開発されたアプリなんだよね。『ウィッチサポート』なんて名前だけど、基本的には魔道具の管理アプリだと思ってくれていいよ。で、このアプリを起動したら……わたし達、変身アイテムあるでしょ?」
「あぁ、ありますね。私のはこの腕輪ですけど」
「うん、その基本情報をアプリに登録すると準備完了。あ、登録はわたしが後でやってあげるから」
「ども」
正直そういうのはあんまり得意じゃないからな。やってくれるって言うなら願ったり叶ったりだ。
「そしたら後は簡単だよ。起動! 『ビュンビュンちゃん』!」
そう言うとドワーフメイスの足にさっき見せてもらった魔道具が装着された状態で現れる。
「ほらね」
「どういう理屈なんですかそれ……」
「まぁ現代技術と魔法の合算だよねぇ。このシステムができたおかげでかなり便利になったんだよねぇ。細かい理屈聞きたい?」
「……やめときます」
「はは、そうした方がいいよ。正直かなり複雑だし。とりあえず、登録した魔道具の名前を呼んだら、その変身アイテム。レッドちゃんならその腕輪かな。それから魔道具が自動で装着されるようになってるの。つまり細かいことを抜きするなら、レッドちゃんは魔道具の名前を呼べばいいってだけ、簡単でしょ?」
「簡単……いや、はい、そうかもですね」
魔道具の名前が珍妙じゃなければな、と心の中でだけ呟く。
まぁ確かに名前呼べば勝手に装着されるってなら楽だし、面倒はなさそうだ。
「後は実際に外で簡単にこの『ビュンビュンちゃん』の使い方の説明するね。ちょうどデータの移行も終わったみたいだし。いよいよ待ちに待った実践だよ!」
「は、はぁ……」
別に待ちに待ってたわけじゃねぇんだけどな。
一抹の不安を感じながら、オレはドワーフメイスと一緒に外へと向かった。
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