第77話 三人目の少女

「え? グロウが失敗した?」


 実験中だったスタビーは、部下が持ってきた一方に驚き、思わず手を止めてしまう。

 その拍子に装置の制御に失敗し、実験に使っていた人間が大きな悲鳴を上げるがそんなことはスタビーは気にも留めなかった。

 それよりもグロウが失敗したという事実に驚いていたからだ。


「本当に彼が失敗したと? それも件の魔法少女に敗れたというのですか?」

「はい。あの怪人が魔法少女共と戦い始めたのは確認しました」

「それで?」

「途中までは確認できたのですが……」

「最後までは確認していないと?」

「すみません。あまりにも戦闘が激しく、その……」


 俯く部下を前にスタビーは苛立ちを募らせる。


「まさか、最後まで映像を撮ってないのですか?」

「すみません。途中で起きた爆発に煽られ、映像機器が壊されてしまったようでして……」

「ちっ」


 スタビーが軽く舌打ちしただけで、部下の怪人は身を竦ませる。それも仕方のないことだ。スタビーは部下のミスを許さない。ミスした部下の末路がどうなるのかをよく知っている。

 今度は自分がその末路を辿るのかと恐れていた怪人だったが、そうはならなかった。


「グロウの倒したのは別の魔法少女だ」

「おや、あなたは。珍しいですね。ここに顔を出すなんて」


 やって来たのはオウガだった。彼が来たことによってスタビーの意識が部下から逸れる。

 これ幸いとばかりに頭を下げ脱兎のごとく逃げ出すスタビーの部下。スタビーの性格上、その場さえ脱してしまえば後で追及されるようなことは滅多にないのだ。

 そしてその目論見通り、スタビーの意識はすでに部下からオウガへと向いていた。


「好んで来たいとは思わんがな。それはそれだ。グロウを倒したのはトイフェルシュバルツだ」

「トイフェルシュバルツ……あの魔法少女ですか」


 苦々しい表情をするスタビー。しかしそれも当然の話だ。トイフェルシュバルツの名は怪人の間でもかなり有名なのだ。もちろん悪名なのだが。


「しかし、トイフェルシュバルツであるならば納得ですね。あの魔法少女相手ではグロウ如き、相手にならないでしょう」

「あぁ確かにな。だが、それだけでないのも確かだ」

「というと?」

「グロウが秘めていた真の姿。凶獣化を引き出すほどに追い詰めたのは紛れもなくラブリィレッドとブレイブブルーだった」

「それはまた……興味深いですねぇ」


 オウガはラブリィレッドとブレイブブルーの戦いを遠くからではあったが、直接見ていた。


「私の見立てでは、彼女達はグロウの素の状態ですら手こずると思っていたのですがねぇ」

「あぁ、確かに手こずっていた。しかし、あいつらは戦いの中で確実に成長していった。足りぬ力を機転で補ってみせた。さすがに凶獣化には今一歩及ばなかったようだが」


 オウガは思い出す。ラブリィレッドとブレイブブルーの戦いを。あの戦いには死力を尽くす者だけが放つ輝きがあった。

 

「スタビー、俺もあの魔法少女達に興味が湧いた。あの魔法少女を捕獲、俺に任せる気はないか?」

「へぇ、あなたが直々に出ると?」

「まずは部下からだな。あれはまだ強くなる。全てはそれからだ」

「あなたも大概と言いますか。まぁ私としては捕まえていただけるのであれば文句はありませんが。では、今後彼女達についてはあなたに一任しましょう」

「任せるがいい」


 



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 夜。フュンフは晴輝の所には戻らずに街をフラフラと飛んでいた。


「ふふ、やっぱりあの子達は見込んだ通りだったなぁ」


 ニヤリと笑うフュンフ。ラブリィレッドとブレイブブルーのグロウとの戦い。最後はトイフェルシュバルツに持っていかれたものの、期待以上の戦いぶりだった。


「やっぱりあの二人は合ってる。あたしの見立てた通り。ふふん、慧眼ってやつよね。さっすがあたし」


 二人ではなく自分のことを称賛するフュンフ。しかしその表情はすぐに困り顔になる。


「でもあの二人どうにもこうにも喧嘩しやすいというか。それを考えてもやっぱり、あともう一人いるわよねぇ。戦力のバランス的にも」


 一度意思が重なれば最高の相性の二人も、それまでが長い。そして戦力的に見れば前衛のアタッカーであるブレイブブルー、アタッカーとサポートを兼任している前衛よりの中衛であるラブリィレッド。今のままでもバランスは悪くないのだが、あと一押しの戦力がフュンフとしては欲しい所だった。


「でも問題は誰を選ぶかってことなんだけど……うーん、やっぱりあの子かなぁ」


 ふと視界を下に落とすフュンフ。

 多くの人が行き交うなか、頭を下げながらぶつからないように歩く少女がそこにいた。

 

「あの子なら、二人の間も上手く取り持ってくれそうだし。うん、決めた」


 少女の後を追うフュンフ、そしてフュンフは少女が一人になったタイミングでその前に姿を現した。


「やっほー」

「っ?! あ、あなたは……」

「あたしはフュンフ。妖精だよ。あんたにちょっとお願いがあるのよ」

「お願い……ですか?」

「そ。思い切って勧誘するわ。黄嶋若葉、あんた……魔法少女に興味無い?」

「……え?」


 思いもよらぬ言葉に固まる少女——若葉を前に、フュンフはニヤリと笑みを浮かべた。

 

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