第58話 教室の一波乱
朝の教室。いつも通りクラスメイトの連中が騒いでた。
全く、朝から元気っつーかなんつーか……。
昨日も会ってたのにたった一日でそんな話すこと増えるか普通。だいたい盛り上がってるのはバラエティー番組だのドラマだのの話題だが……最近の有名人は全然わからねぇな。
妹もチビ共もテレビが好きだからな、少しくらいは知っとくべきなんだろうが……どうにも忙しくてその気になれねぇっていうか。
「おーっす晴輝ー。って、どうしたんだ? めちゃくちゃ眠そうだけど」
「あー、亮平か。眠そうっていうか眠いんだよ。昨日は色々とあってな」
「なんだ? バイト関係でなんかトラブったのか?」
「まぁ似たようなもんだ。そのせいでかなり疲れてんだよ。頼むからほっといてくれ。授業まで寝る」
「おいおい学生がそんなことじゃダメだろ。元気出してこうぜっ!」
「ちっ、ぶっ飛ばすぞ」
「マジトーンで言うなよ……」
今はマジで眠いからな、これ以上ちょっかいかけてくるならマジで殴る。
そんな思いを込めて亮平のことを睨みつける。だが、今さらその程度のことで亮平が引くはずもなく、やかましくちょっかいをかけてくる。
すると、そんな騒ぎに惹かれるようにもう一人もやって来た。
「なんだかずいぶん盛り上がってるな」
「空花……これが盛り上がってるように見えるか?」
「見えるな。すくなくとも亮平は」
「こいつが勝手に盛り上がるのはいつものことだろうが」
「まぁ確かに。朝からよくもまぁこれだけテンションを上げれるものだとは思う。だがそれはそれとして、ハルはいつもより元気がないな。どうかしたのか?」
「こいつにも言ったばっかだけど、昨日色々あったんだよ」
「色々ねぇ……」
「あ? なんだよ」
なんだこいつ、急にニヤニヤしやがって。
こいつがこういう顔する時ってだいたいろくなこと考えてねぇんだが。
「それってもしかして、彼女も関係あるのかと思って」
「彼女って……っ!?」
「おはよう、紅咲君」
「お前っ……」
って、いや。なに動揺してんだオレは。青嵐寺も同じクラスなんだから教室に来るのは当たり前だろ。
って、違う! そうじゃねぇこいつ、自分から声かけてきやがった!
「え、今青嵐寺さんが紅咲君に挨拶した?」
「うそ、あの紅咲君に?」
「でも昨日までそんな風な感じじゃなかったよね」
「おいおい、どういうことだよ!」
案の定というべきか、青嵐寺の挨拶を見ていた他のクラスの連中がざめつき始める。そりゃそうだ。これまでオレと青嵐寺は空花繋がりでしか関わってなかったし、そもそもそれを除いてもこいつはクラスメイトとの交流は最低限。
少なくとも、自分から挨拶してる姿なんてほとんど見たことがねぇ。そういう意味でもクラスの連中は驚いてんだろう。
「おま、お前なぁ!」
「なに? どうかした? 私はただクラスメイトに挨拶しただけなんだけど」
「だから……あぁ、もういい!」
「ふふっ」
小さく笑って青嵐寺は自分の席に着く。
あの野郎、完全に狙ってやがったな。こうなることも見越したうえでオレに声かけてきやがったな。
「おい晴輝、どういうことだよ!」
「どういうこともこういうこともねぇよ」
「どうもないわけないだろ! あの青嵐寺さんの方からお前に直接声かけるなんて、ただ事じゃねぇぞ!」
「うるせぇっ!」
「げはぁっ!?」
机の周りで騒いでうるさかった亮平を殴って黙らせる。
だがこの場において騒がしい奴……いや、騒がしくする奴はもう一人いる。
「なにニヤニヤしてんだ空花」
「べっつにぃ。ニヤニヤなんてしてないけど」
「してんだろうが! 言いたいことがあるならはっきり言いやがれ」
「言っていいの?」
「言うな」
「どっちよ。まぁいいけど。それよりもやっぱり関係あったんだ。青嵐嬢と」
「別に関係ってほどの関係じゃねぇよ。ただ昨日ちょっと会ったってくらいだ」
「ちょっと?」
「あぁ、ちょっとだ」
「それだけで挨拶されるような関係になったわけだ」
「はっ、そんなんただの気まぐれだろ」
「気まぐれ、ねぇ」
物言いたげな視線を向けてくる空花。
くそ、相変わらずこいつもやりづらいったらありゃしねぇ。
だいたい青嵐寺も青嵐寺だ。いったい何のつもりでこんな真似してきやがったんだ。こうなることくらいわかっただろうが。
そんな風に苛立ちを込めて青嵐寺のことを睨みつけるが、すでにあいつはこっちの方を見てすらいなかった。
何考えてんだあいつは……ちっ、また後で改めて話を聞くつもりだったが……。
「仕方ねぇか。花音、話はまた後だ」
「はいはい、いってらっしゃい」
オレは席を立ち、青嵐寺の席へと向かう。
他の奴らがざわめくが、そんなの今さらだ。というか気にしてられねぇ。
「なにか用?」
「なにか用? じゃねぇよ。話がある。ちょっと面かせや」
「物騒な誘い文句もあったものね。まぁいいけれど」
青嵐寺は呆れたようにため息を吐きながらも立ちあがり、オレの後に続いて歩き出す。
さらに大きくなるざわめきを無視しながら、オレ達は教室を後にした。
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