第41話 青嵐寺と空花

「青嵐嬢のことについて?」


 教室にたどり着いたオレはクラスメイトと談笑していた空花を連れだして、青嵐寺のことについて話を聞いていた。

 さっきの登校中の青嵐寺の言動……あれがオレにはどうも引っかかって仕方ない。

 だが、この学園で青嵐寺のことについて知ってる奴はそう多くない。あいつ自身が他のクラスメイトと距離を置いてるってのもあって、ちゃんと話したことがある奴はそう多くない。そういう意味では空花は数少ないちゃんと青嵐寺と話してる奴だった。

 まぁ本人を捕まえれりゃ話は早かったんだが、オレより先に行ったはずなのに教室にはいなかったしな。

 どこに行きやがったんだか。

 だから代わりに空花に話を聞こうってわけだ。


「どうしたんだ急に。お前が青嵐嬢の話を聞きたいだなんて」

「ちょっと色々とあってな」

「ふむ……惚れたか」

「なんでそうなんだよ!」

「いやいや。別に隠すことはないぞ。高校生にしてあれだけの完成された美。完全無欠美少女の私に負けず劣らずの美貌だからな」

「お前どんだけ自分に自信あんだよ……ってだからそうじゃねぇ! オレがあいつに惚れる要素なんざ一ミリもねぇだろうが! 見るからに腹黒そうだし、あんな奴に惚れるぐらいならお前に惚れた方が何倍もマシだ!」

「っ! そ、そうか……」


 急に頬を赤らめて目線を逸らす空花。

 なんでそんな反応を……っていや待て! オレは今何を口走った!


「い、いや違ぇぞ! 今のは別にそういう意味で言ったわけじゃねぇ。言葉の綾ってーか、なんていうか……」

「ふん、それくらいわかってる。ただ急だったからちょっとビックリしただけだ。ハルが青嵐嬢に惚れてないことだってな。全く、ただの冗談にそこまで本気にならなくてもいいだろうに」

「お前は冗談が冗談ってわかりずらいんだよ」

「もう一年以上の付き合いになるのにその程度もわからないとは。友達甲斐のない奴め」

「うっせぇ」

「まぁいい。その辺りは今後の課題にするとして。それで、青嵐嬢の何について聞きたいんだ?」

「いやまぁ、別に何って限定した話じゃねぇんだが。お前、このクラスの中じゃ一番あいつと話してただろ」

「あぁ、まぁ確かにそうだな。この間は一緒に帰ったりもした」

「そんなことまでしてたのかよ。というかお前らってどんな話すんだよ」


 青嵐寺は当たり前だが、空花も空花で何に興味があるのかまるでわからねぇ。全部に興味があるようにも見えるし、逆に何にも興味がないようにも見える。

 そんな二人が一緒に帰って何の話をするんだって感じだ。


「確かに共通の趣味があるわけでもないからな。ハルの疑問も最もだろう。だが私達には一つ共通して話せる話題がある」

「へぇ、そうなのか」

「何他人事みたいな顔してるんだ。お前のことだぞハル」

「は?」

「前からわかってたことだが、やっぱり青嵐嬢はお前に興味があったらしい。去年から今に至るまで、お前に関する話をやたらと聞いてきたからな。ケーキを奢ってくれるというので知る限りのことを教えたぞ」

「オレの個人情報はケーキ程度の価値しかねぇのかよ!」

「そういうな。これでも苦悩したんだぞ。気になっていた新作ケーキかお前の個人情報か。だが最終的に欲を優先しただけだ」

「はぁ……テメェはホントに……」

「さすがにむやみやたら全部話したわけじゃないぞ。話す内容についてはしっかり選んだ。お前が魔法少女の協力者だってことについても話してないしな」

「当たり前だ。そこまで言うほど口が軽かったら今後の付き合いを考えるレベルだぞ。ってか、それじゃあ何について言ったんだよ」

「まぁ普通のことだ。ハルの素行の悪さや家族構成、後は引くくらいのシスコンだって話とかくらいだだ」

「誰がシスコンだ!」

「自覚がないのか? だとしたらそれは問題だぞ。自覚無きシスコンは悪だ。認めるべきだぞ。ハル、お前は誰がどう見てもシスコンだ。否定のしようがないほどにな」

「なんでそこまで言われなきゃいけねぇんだよ。普通だ普通」

「ちっ、これだからハルは」

「なんで舌打ちすんだよ!」

「ともあれ、私が話したのはその程度のことだ。だがそうだな……お前がどうして魔法少女が嫌いなのか、その点についてはやたらとしつこく聞かれた。もちろん私が理由も知ってるわけもないから答えてないがな」

「オレが魔法少女を嫌いな理由を聞いてきた……か」

「青嵐嬢もそうだが、結局のところハルはどうして青嵐嬢のことについて聞いて来たりしたんだ? 私が知る限りハルは青嵐嬢にそれほど興味はなかったはずだし、なんなら近づかないようにしてただろう? こっちはお前の質問に答えてやったんだ。それくらい聞く権利はあるはずだが」

「……あいつが今朝急に話しかけてきやがったんだ。登校中にな。そんな時にやたらと意味深なこと言ってきたからちょっと気になっただけだ」

「ふむ、なるほど。魔法少女関連か」

「なっ!? べ、別にそこまで言ってねぇだろうが」

「誤魔化し方が下手だぞハル。というか、それくらいわかる。青嵐嬢がやたらとお前の魔法少女嫌いの理由を聞いてきたことといい、お前が最近魔法少女の協力者とやらになったことといい。ハルと青嵐嬢を関連付けるものがあるとしたら魔法少女くらいなものだろう。話を聞く限り青嵐嬢がお前に惚れてるということもなさそうだしな。残念か?」

「残念に思うわけねぇだろうが。ただ色々とはっきりさせたいだけだ」

「ふむ。まぁいい。ハルがそういうなら私の方でも青嵐嬢に話を聞いておこう。感謝するんだな」

「それは助けるけどな。余計なこと言うなよ」

「わかってる。大丈夫だ。私だって馬鹿じゃないからな。ハルが青嵐嬢に興味があるらしいから色々と教えてくれ、程度のことしか言わない」

「それが余計だって言ってんだろうが!」

「ふふ、冗談だ。ま、あまり詳しくは聞かないでおくが……あ、あまり面倒事は起こすなよ」

「そんなこと言われるまでもねぇよ」

「どうだかな」


 そう言うと空花は肩を竦めて教室へと戻っていった。

 青嵐寺……あいつが何考えてるのか、そして何者なのか……はっきりさせねぇとな。


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