第40話 話題がないと気まずい

「…………」

「…………」


 隣を歩く青嵐寺との間に気まずい沈黙が流れる。

 クソ、なんでこうなんだよ。

 今現状最も会いたくない女こと青嵐寺と遭遇したオレは挨拶もそこそこに過ぎ去ろうとしたんだが……登校中というこの現状。同じ学校のこいつがオレと同じ道を辿るのはわかりきってたはずだった。

 その結果として、こいつと並んで歩いてるわけなんだが……こいつ一体何考えてやがる。

 別にオレと一緒に行く必要なんてねぇだろうが。離れて歩けよ、気まずいんだから。

 あの自習の時間以来、たまに空花と一緒に居て話すことはあったが、こいつと二人になったことは一度もねぇ。

 今回がその初めての機会となったわけだが、別にこいつと二人でいて話す話題があるわけでもない。空花とは度々話してるのは見かけるが、それ以外のクラスメイトとも特段仲良くしてるわけでもねぇみたいだしな。

 最初の二、三日こそこの目立つ見た目もあってかなり持て囃されてたが、今はそれも落ち着いてる。こいつがずっと塩対応だったってこともあるんだろうがな。

 とにかく何が言いたいかってーと、青嵐寺と一緒に居ても話す話題なんかねぇからさっさとどっかに行ってくれってことだ。少なくともこんな近くにいる必要はねぇだろ。

 道を変えるって手段もあるが……オレが道を変えたら逃げたみたいで癪だしな。それだけはしねぇ。


「ねぇ」

「あ? なんだよ」

「こうして一緒に登校してるのに何か話そうって気はないわけ?」

「オレとしては一緒に登校してるってより、ただ同じ道を歩いてる奴がいるってだけの感覚だったんだがな」

「それは屁理屈というものよ。他の人から見れば、確実に私達は一緒に登校してると思うでしょうね」

「そりゃそうかもしれねぇがなぁ。それを言うならお前の方から話題振って来てもいいんじゃねぇのか?」

「それは男性の仕事じゃないかしら。それとも女の子と一緒だと緊張して話題も出せないのかしら」

「はっ、ふざけたこと言ってんじゃねぇよ。ただお前と話す気がねぇだけだ」

「強がらなくてもいいのに」

「別に強がってるわけじゃねぇよ! っていうかてめぇはなんでオレの隣に居んだよ。何が目的なんだ」

「目的だなんて大層なものはないけど。クラスメイトと会ったから仲良くしようと思うのは間違ってるかしら?」

「それは別に間違ってねぇが……前にも言った気がするがな。それが本心ならなんで他のクラスメイトとは距離置いてんだよ。誘われても断ってんだろ」

「へぇ、よく私のこと見てるのね。でも、それに対する答えは変わらないわ。私が話す人は私が決める。それだけのことだから」

「ずいぶん傲慢なことだな」

「この程度で傲慢と言われてしまうのは心外ね。あなただって人のこと言えるわけじゃないでしょうに。あぁ、違うわね。あなたの場合はそもそも寄ってこないだけかしら」

「あ?」

「怒ったの?」

「別に怒ってねぇよ」

「とてもそんな顔には見えないけど」


 ホントになんなんだよこいつ。わざとオレが苛立つようなこと言いやがって。

 オレのこと怒らせようとでもしてんのか?

 だったらマジでキレてやろうかこの野郎。


「……そうね、でもせっかく一緒に登校してる滅多にない機会なわけだし。前から気になってたことでも聞かせてもらおうかしら」

「前から気になってたこと?」

「えぇ、最近あなたと秋永君が魔法少女についてよく話しているでしょう? 魔法少女が嫌いだったっていうあなたが、どうして魔法少女の話を嫌がらなくなったのか。何があったのか。それを教えてくれるかしら?」

「なんでそんなことてめぇに言わなきゃいけねぇんだよ。オレが亮平と何の話しようがオレの勝手だろうが」

「はぁ……あなたってなんていうか……人と会話ってものをする気がないのかしら。せっかくこっちが話を振ってあげたのに」

「お前が勝手に振ってきただけだろうが。どんな話題振られようが話したくもねぇことは話さねぇよ」

「ラブリィレッド」

「っ!」

「あ、やっぱり反応した。最近出てき始めた魔法少女。連日ニュースとかでも取り上げられてるわね。まぁ取材なんかは全部断ってるみたいだけど。ずいぶんな注目度よね」

「…………」


 確かにこいつの言う通り、ラブリィレッド……すなわちオレは連日の怪人逮捕とかもあってかなり注目されてる。オレ自身もハイペースで怪人を捕まえてる自覚はあるからな。

 魔法少女統括協会を通じて取材の依頼とかもあったが、そういうのは全部断ってる。単純に面倒だし、必要以上に目立つつもりもねぇからな。


「彼女のファンなの?」

「別にそういうわけじゃねぇよ」

「そう。まぁそうよね。今は少し目立ってるけど、あの程度の魔法少女なんてごまんといるもの。そのうち適当な怪人に敗れて痛い目を見るでしょうね」

「あ? なんだとテメェ」

「あら、どうしてあなたが怒るの? 別にファンってわけじゃないんでしょう?」

「別に怒ってるわけじゃねぇよ。ただなんでそう思うかって聞いてるだけだ」

「まぁ理由はいろいろとあるけど。ラブリィレッドはあまりにも中途半端で、覚悟も足りない。総じて彼女の存在は魔法少女に相応しくないから……かしら?」

「っ、おいお前その言い方……」


 前にブレイブブルーにも言われたことがあるその言葉。明らかに偶然とは思えねぇ。


「おいテメェ——」

「時間切れね」

「時間切れ?」

「彼が来たみたいだから。それじゃあ紅咲君。また教室で」

「おい、オレの話はまだ終わってねぇぞ」


 オレがそう呼び止めても青嵐寺は完全に無視して、さっさと学校へ向かって歩きだす。

 そして青嵐寺と入れ替わるようにしてやってきたのは、案の定というべきか、亮平だった。


「おっす晴輝ー! さっきの青嵐寺さんだよな。お前と二人って珍しいけど。なんかあったのか?」

「……別になんもねぇよ」

「なんだよ怪しいなぁ」

「怪しくねぇ、ってかうぜぇから肩組んでくるんじゃねぇよ」

「ははっ、悪い悪い。そんじゃ今日もラブリィレッドさんの話をいっぱい聞かせてもらうぜ!」

「でけぇ声で言ってんじゃねぇよこのアホが!」

「いってぇ!!」


 その後、オレは亮平のことを適当にあしらいながら、さっきの青嵐寺の言葉と意味深な態度について考えるのだった。


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