第25話 雑談タイム
三時間目の自習時間。適当に課題のプリントを解いて終わるだけのはずだったこの時間は、空花の手によって終わりを迎えた。
ってか、空花の奴はまだいい。どうせ面白がっているだけだろうからな。
でも、青嵐寺の奴だけはわからねぇ。こいつがオレ達と一緒に課題やろうとする理由が読めねぇからな。
いったい何を考えてやがる。
「どうかした? わからない部分があるなら教えてあげなくもないけど。このくらいの問題ならわけないもの」
「いや。別にわからない所があるわけじゃねぇよ。わからねぇことがあるとしたら、なんでテメェがオレらと一緒に勉強してもいいとか言い出したかってことくらいだ」
「転校してきたばかりでクラスメイトと仲良くなりたいと思うのはそんなにおかしいことかしら?」
「いーや、おかしくねぇよ。その理由事態はな。だが、それならもっと他に別のやつらだっていただろうが。見てたぞ、他の奴に一緒に勉強しようって誘われてたの。でもそれは断ってただろ」
「そうね。彼女達とは昨日話す機会があって、その時に少し合わないと感じたから断っただけ。何か問題でも?」
「……いいや、別に」
「おいおい晴輝。最初からそんなに喧嘩腰じゃなくていいだろ。ごめんな青嵐寺さん。こいつホントに無愛想で。でも根は悪い奴じゃないからさ」
「ちっ、おい亮平。勝手なこと言ってんじゃねぇぞ」
「なんだハル。照れてるのか?」
「照れてるわけじゃねぇよ」
「ふふ、三人はずいぶん仲が良いのね」
「別に仲良しなんかじゃねぇよ。こいつらが勝手にまとわりついて来るだけだ」
「そういうわりには本気で邪険にしてる様子はないけど。今怒ってるのも本気じゃないみたいだしね」
「ふん」
「青嵐嬢、こいつはこういう奴だ。口ではなんだかんだというがリョウのことを見捨てられないからな」
「せ、青嵐嬢っていうのは私のこと?」
「あぁ、もちろん。青嵐寺嬢ではゴロが悪いから。簡単に省略して青嵐嬢。もしくは零華という名前とその令嬢のような雰囲気を掛け合わせて零嬢と呼んでもいい。どれがいい?」
「えぇと……」
「諦めろ青嵐寺。こいつは一度つけたあだ名を覆すことはねぇよ。もっと変なあだ名付けられたくなけりゃさっさと妥協するんだな」
さすがのこいつも空花のペースには戸惑うらしいな。
オレでも振り回されるくらいだからな。出会ったばっかのこいつが対応できないのも無理はねぇ。
空花はどこまでも掴みどころがねぇ奴だ。正直オレでも何考えてるかわからないくらいにな。まぁ、だいたいは状況をかき乱して楽しんでるってだけだろうがな。
でも珍しいな。こいつが出会って間もない奴にあだ名つけるなんて。いいことなのか悪いことなのかで考えたら悪いことに近いだろうがな。空花に目を付けられるのは。
「はぁ……それなら青嵐嬢でいいわ」
「そうか? セイっち、レイレイ、レイボン、他にも色々と考えてたんだが」
「青嵐嬢でいいわ」
「まぁ青嵐嬢がそれでいいって言うならそれでいこう。まぁこんな機会も滅多にないし、雑談でもしようか。まだもう少し時間もあるし、この程度のプリントなら雑談しながらでも解ける」
「おいクウ。それ遠回しに解けてない俺のことをディスってないか」
「リョウがバカで阿呆なのはわかりきってることだろう。今さらこの程度ディスでもなんでもない。ただの事実だ。まぁリョウは解きながら雑談に混じればいい」
「ちぇっ、わかったよ」
「雑談って、この面子でなに話すんだよ。別に共通の話題も何もないだろうが」
「あるだろう。私達全員が話せる共通の話題が」
「あ?」
「魔法少女について。ハルもちょっと興味持ち始めたみたいだし。これもまたいい機会ってやつだ」
「へぇ、これまでは魔法少女に興味が無かったの?」
「いやいや。晴輝は魔法少女に興味がないどころか、まるで親の仇みたいに嫌ってたよなぁ。だから俺もなかなか魔法少女の話ができなくて。ちなみに俺は自他ともに認める魔法少女マニアだ」
いや、魔法少女が好きなのは知ってたがマニアなのは初耳だぞ。そんなレベルで魔法少女好きだったのかよこいつ。
「ふぅん、そうなんだ。そんなに魔法少女が嫌いなのにどういう理由で魔法少女に興味を持ち始めたのか、気になるわね」
「ふん、別になんだっていいだろうが。気まぐれだよ気まぐれ。別に魔法少女のことが好きになったわけじゃねぇしな。今でも魔法少女のことは嫌いだ」
「そうなのね。でも……どうしてそんなあなたが——なんかに」
「あ? なんか言ったか?」
「いいえ、別に。でも嫌いなのは嫌いにせよ、興味を持ったのは事実なんでしょう? その理由は気まぐれの一言で片づけられるものなの?」
「それ以外の理由なんてあるわけねぇだろうが」
「まぁ理由があったとしてもこいつが教えてくれるわけがない。でも、別に口が固いわけでもないから適当に突いてたらポロっと漏らすと思うが」
「黙ってろ空花」
「黙ったら雑談にならないだろう。別に先生に注意されたわけでもないぞ」
「ちっ」
「それで、ちなみに青嵐嬢は魔法少女は好きか嫌いか、どっちなんだ?」
「私は別にどっちでもないわ。彼女達の存在は好きとか嫌いとか、そんな議論をするようなものじゃないもの。私達がこうして平和な生活を送れているのも魔法少女のおかげ。魔法少女その存在は電気やガス、水道と同じ、生活の一部とも言い換えれるんじゃないかしら」
「なるほど。そういう青嵐嬢はそういう考えか」
「何か問題でもある?」
「とんでもない。でもそれじゃあ、魔法少女が生活の一部と思っている青嵐嬢からしたら魔法少女が嫌いなハルのことはどう見える?」
「どうって……そうね、理解できない、かしら」
「だ、そうだぞハル」
「勝手に言ってろ。別に青嵐寺にどう思われようが気にしねぇよ」
魔法少女が生活の一部、ねぇ。オレにはとても理解できねぇ考えだ。
「はははっ、振られたな晴輝!」
「何笑ってんだお前は。課題終わったのかよ」
「ふふん、魔法少女の話をするとなりゃ本気だすしかねぇからな。ばっちり終わらせたぜ。青嵐寺さんも魔法少女が好きなんだろ? 最近注目してる魔法少女とかいるのか?」
「別に好きとは言ってないんだけど。あなたは注目してる魔法少女がいるの?」
「そうだなぁ。そりゃもちろん魔法少女ランクに載ってる魔法少女は全員注目してるけど、最近気になってるのはやっぱり『ラブリィレッド』だな! つい先日誕生したらしいけど、見た目も俺好みで……なによりこの近くにいるってのがな。もしかしたら会えたりするんじゃねぇかと思って。実は近くに住んでる人だったりしたらと思うとなぁ……うへへへへ」
「キモイ笑い方してんじゃねぇぞ」
「ぐべっ!」
今一瞬マジでゾワっとしたぞ。
ったく、『ラブリィレッド』のことなんざさっさと忘れやがれってんだ。
「へぇ『ラブリィレッド』……ね」
「?」
今一瞬青嵐寺の奴、オレの方を見たような……気のせい……か?
「おい青嵐寺、お前——」
「はーいみんな、そろそろ席に戻って。プリント回収するから」
「あら、もう終わりみたいね」
「残念、続きはまた今度だな」
ちっ、タイミングが悪かったか。
桜木の言葉で雑談タイムは遮られ、オレの中に中途半端なモヤモヤを残したまま自習の時間は終わりを迎えたのだった。
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