第18話 魔法少女をどう思うか
秋穂と料理を作り始めてから三十分もしないうちに食卓に全部の料理が並ぶ。
メニューは秋穂がさっき言ってた通り、生姜焼きとみそ汁にご飯だ。贅沢な食事ってわけじゃないけど、毎日の食事なんてこんなもんだろう。むしろ上等なくらいかもしれねぇ。
「はーい、それじゃあご飯だからこっちに来て。もうテレビ終わり」
「「えー」」
「えー、じゃないの。文句言う子には夜ご飯あげませんよ」
「んー……」
「わかったー……」
渋々と言った様子で食卓に歩いて来るチビ共。テレビ見たいって気持ちはわからないでもないがな。
他の家はどうか知らないが、家ではご飯の時にテレビを見るのは禁止されてる。
もちろんオレの発案なんかじゃねぇけどな。言い出したのは秋穂だ。
テレビついてたら家族みんなテレビしか見ないからってな。オレも含めて、親父も母さんもテレビが好きだからな。ほっといたらいつまでも見てる。
「それじゃあご飯を食べる前にはなんて言うの?」
「「いただきます!」」
「はい、召し上がれ」
「……いただきます」
「うん、お兄ちゃんもどうぞ召し上がれ。じゃあ私もいただきます」
挨拶が大事だってのはわかるんだがなぁ、毎回やらされてるとさすがに面倒っつーか……でも、これやらないと秋穂がうるさくてしょうがねぇし。
「どう、お兄ちゃん」
「ん? まぁ普通に美味いけど」
「そう? 良かった。前とちょっとだけ味変えたからどうか心配してたんだけど」
味変えた? 変わってんのかこれ。ダメだ、全然わかんねぇ。
オレの舌じゃいつもの生姜焼きの味だと思ったんだが。
何が違うんだ?
「……お兄ちゃん、味変わったのわかってなかったでしょ」
「っ!? い、いやそんなことねぇぞ。確かにな、いつもと味違うと思ったんだよ」
「はぁ、嘘ばっかり。お兄ちゃん嘘吐くとすぐにわかるんだから」
「うぐ……わ、悪い」
「気にしないで。そんなに大きく変えたわけでもないし。気付かなくても無理ないくらいだから。それでもちょっとくらいは気付いて欲しかったけど」
「悪かったって、次からはもっとちゃんと味わって食うよ」
「じゃあ次は何も言わないから、お兄ちゃんから気付いてね」
「ぐっ……プレッシャーかけやがって」
テレビをつけない分、家族同士の会話が弾む。
千夏と冬也が幼稚園であったことを大げさに話したり、秋穂の話を聞いたりするくらいだ。オレの学校での話なんかしても面白くねぇからな。
それでもたまに秋穂が聞いて来ることもあるが。学校で関わるのなんてだいたい亮平と空花くらいだしな。
まさか不良に絡まれて喧嘩した、なんて話を秋穂やチビ共にするわけにはいかねぇしな。
あー、でもそうか。今日はこいつらに聞いてみたいことがあったんだ。
「なぁ秋穂、それからチビ共。ちょっといいか?」
「「なーに?」」
「どうしたのお兄ちゃん。珍しく真面目な顔しちゃって」
「いつもはむーって顔してるのに。ねー、とうや」
「うん、そうだよね」
「いやそんな顔してねぇだろ……え、してんのか?」
「私からはノーコメントで。それで、どうしたの?」
「あー……その、なんだ、お前らって魔法少女のことどう思ってる?」
「「「…………」」」
「お前ら、なんだよその目は」
「だって……ねぇ?」
「にーたんまほーしょうじょのことヤダだっていつも言ってるもん」
「だからびっくりしたの、どーしたの?」
「別にどうしたもこうしたもねぇよ」
マジか。秋穂はともかくチビ共にまで驚かれるくらい魔法少女嫌いだしてたのかオレ……嫌いなのは事実だが、だからってそれをこいつらに押し付けるような真似はしてなかったつもりなんだがな。
「はぁ……まぁ確かにオレは魔法少女は嫌いだけどな。お前はそうじゃないだろ」
「まぁそうだね。私はお兄ちゃんの気持ち、ちょっとだけわかるけど。あんなことがあったわけだし」
「秋穂」
「あ……ごめんなさい」
「ふぅ……その話は今は無しだ。それは置いといて、お前らが魔法少女のことをどう思ってるか教えてくれ」
「私達が魔法少女のことをどう思ってるかってこと?」
「はい!」
「お、どうした千夏」
「ちーね、まほーしょうじょのこと好きだよ! だってね、カッコいーから!」
「カッコいい?」
「うん! ほいくえんでもね、みんなでマネして遊んでるよ!」
「保育園でそんなことしてんのか……家じゃそんなのしてるの見たことねぇけど」
「にーたん嫌がるとおもって」
「あー……なるほどな。そりゃ悪かった。別にオレのことは気にしなくていいからやりたかったら勝手にやりな。それくらいは気にしねぇよ」
なんつーか、情けないな。まさかこいつらにこんな風に気を使わせてるとか……。しかもそんなことにも気付いてなかったとはな。
「ホント! やったねとうや! これでお家でも一緒にまほーしょうじょゴッコできるよ!」
「うん!」
「千夏はともかく、冬也までやってんのかよ」
「だってボク、大きくなったらまほーしょうじょになりたいもん!」
「おいおい、お前、魔法少女になるってお前そもそも男……あー、いや。まぁいいんじゃねぇか。頑張れよ」
「がんばる!」
男じゃ魔法少女にはなれねぇだろって言いそうになったが……そもそもオレのことを忘れてたな。正直冬也にも千夏にも魔法少女なんてもんには関わって欲しくねぇが。
「秋穂は?」
「私は……別に好きでも嫌いでもない……かな」
「そうなのか?」
「うん。もちろん私達が今こうして平和に過ごせてるのが魔法少女のおかげだってこともわかってるけどね。だけど直接かかわることなんてないし。近くに魔法少女がいるわけでもないしね」
「まぁ、そりゃそうか」
「あ、でも」
「ん? どうした」
「今日学校で新しい魔法少女が出てきたって話を聞いたんだけど」
「っ!?」
「画像とかも見せてもらったんだけどね、その魔法少女のことだけはなんでかちょっと気になるっていうか……確か、『ラブリィレッド』だったかな」
「そ、そうか……」
「どうしたのお兄ちゃん」
「い、いや、なんでもねぇよ」
ま、まさかここでその名前を聞くことになるとはな……。
「まぁでもそれくらいかな。お兄ちゃんがどういう考えで急にそんなこと聞いてきたのかはわからないけど。これでいい?」
「あぁ、大丈夫だ」
「……お兄ちゃん」
「なんだ?」
「その……無理はしないでね」
「……あぁ、わかってるよ。当たり前だろ」
こいつに心配かけてるようじゃまだまだだな。
こいつらの兄貴としてもうちょっとシャキッとしねぇと。いつまでも悩んでるわけにはいかねぇし。
魔法少女が、オレらの平和を守ってる……か。それも確かに事実だ。
その辺りも含めて、ちゃんと考えるとすっか。
「って、おいこら冬也! 嫌いだからってトマトこっちに乗せんな! ちゃんと食べろ!」
「ひぅ、にぃが怒ったぁ!」
考え事をしてる間に冬也がオレの皿の上にトマトを移してきた。
くそ、考え事は後だ。
それから冬也のせいで考え事は中断させられ、オレがなんとかしようとしてる間に千夏までオレの皿にトマトを乗せようとしてきて……結局、秋穂に怒られるまでオレ達の騒ぎは続くことになった。
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