4-5 作戦会議

 世暦せいれき1914年6月5日


 帝国軍と共和国軍は再び砲火を交えていた。

 共和国軍要塞攻略部隊に、重砲5門が運ばれ、要塞防御陣地への砲撃を行ったのだ。

 共和国軍の一方的な重砲の砲火により、帝国兵100人余りが戦死、500人余りが負傷する、


 ラウ平原では戦闘は行われなかった。

 先の戦いで多大な犠牲を出したのもあり、帝国軍が敵塹壕への突撃を見送ったのだ。


 結果、開戦2日目は比較的穏やかな形となる。


 しかし、この報告を聞いた帝国軍司令部には緊張が走っていた。



「重砲を次々と、こうも容易く投入してくるとはな……」



 ヒルデブラント要塞にある作戦室で、40台もの通信機と、ヘッドホンを着けながら作業する通信兵に囲まれ、机に敷かれた巨大な要塞周辺地図を、十数人の幕僚と参謀達と睨みながら、グラートバッハ上級大将はそう呟いた。



「持ち運びが難しい筈の重砲を、僅か2日で25門も戦場に投入している。共和国本国からこの戦場まで、それだけ持ち運ぶのは難しい筈だ……」



 グラートバッハ上級大将は腕を組み考え込んだ。そして、隣にいたブレーマーハーフェン参謀長に目をやった。



「参謀長、どう思う?」


「おそらくですが……敵は、要塞近郊まで鉄道を敷いたのではないでしょうか?」



 その意見を聞いた幕僚達は騒然とした。


 防衛戦と攻略戦において、防衛戦が有利とされる理由の1つは、攻略側の補給線が伸びるという物である。

 今までの要塞防御戦では、その事を利用し、持久戦に持ち込み、それを悟らせないように敵への突撃を敢行しつつ、敵の補給プランにガタが生じるのを待つという戦い方をしてきた。

 今回の戦いでも、その策を基本戦略とする予定だった。


 しかし、敵が鉄道を敷き、補給の問題を解決してきた事により、戦略プランの前提その物が瓦解してしまったのだ。



「もしそうなら、作戦の見直しをしなければ!」


「第11軍団を要塞守備から別働隊に回し、敵塹壕突破を優先すれば……」


「それでは、こちらの犠牲がバカにならん!」



 参謀士官達は各自、意見を述べ、議論を交わしたが決定的な策は浮かばなかった。

 その様子を見て、グラートバッハ上級大将はまた考え込んだ。



「このまま議論しても埒があかんか……」



 議論が行き詰まる中、ブレーマーハーフェン大将は、グラートバッハ上級大将に1つの意見を述べた。



「閣下、前線の将軍達にも意見を聞いてはいかがでしょうしょうか?」


「この状況でか? 敵の攻勢があるかもしれない状況で、前線の指揮官達を外すのは、危険ではないかね?」


「その恐れは低いかと……。確かに、敵補給能力の改善は厄介ですが、だからといって、敵が要塞攻略の決定打を手に入れた訳ではありません。ヒルデブラント要塞が難攻不落な事に変わりは無く、今、要塞に総攻撃を掛けても、犠牲が出るだけで無意味という事は、先日の戦いで敵も分かっている筈です。なので、敵は重砲の砲撃によって、要塞防御陣地を叩く事に専念する筈です。当分、敵の攻勢は無いかと……」


「敵がその事に気付かないという可能性は?」


「敵の総司令官は、あのストラスブール大将です。かの名将が気付かないなど、あり得ないかと……」



 グラートバッハ上級大将は顎をつまみ、眉間にしわを寄せた。



「前線で戦う将軍達の意見も聞いた方が良いか…………」



 グラートバッハ上級大将は参謀長の意見を頭の中で吟味した。そして、その意見が今の最善手であると判断する。



「大将以上の指揮官を会議室に集めよ! 作戦会議を行う! 他の者は引き続き、作戦の立案に勤めてくれ!」



 グラートバッハ上級大将の指示を受けた士官達は、上級大将に一斉に敬礼し、各自の仕事を始めるのだった。

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