異なる世界の近代戦争記

1-22 遅すぎた対応

　中年の兵士と赤髪の兵士。彼等の大隊が第１大隊の下へと到着した時、無惨な惨状を目の当たりにした２人は、言葉を失った。

「なんて事だっ！」

「こいつは酷い……」

　２人は辺りを見渡して、何人か息があることに気付いた。

「生き残りがいるぞっ！ 総員、生き残りの救出をしろっ！」

　中年の兵士の指示を受け、兵士達は生き残った味方を救出、治療を行い、残存兵の確認を行った。

「連隊長とイストル中佐は？」

「ヴァランス大佐、イストル中佐、共に戦死。先程、死体が見付かりました」

「そうか……生き残った兵士の数は？」

「８９名です。その内３５名が重傷、１４名が軽傷、４０名は無傷です」

「なにぃっ！」

　赤髪の兵士の横で、中年の兵士は驚いた。

　しかしそれは、生き残りが８９名しかいないことではない。

　４０人もの兵士が戦いにも参加せず、只、味方が死んでいくのを指をくわえて見ていた、という事実の方に驚いていたのだ。

　そして、その驚きは憤りとなり、中年の兵士はその兵士達を非難した。

「チッ、なんと恥さらしな……４０人もの兵士が戦わずに味方がやられていくのを只、見ていただけとは……同じ共和国兵士として情けない！」

「少佐！」

　赤髪の兵士は中年の兵士の言葉を制止させるように声を上げた。

「そのような事を言うべきではない」

「何故だ？ 奴らは味方の死より、敵への恐怖を優先した腰抜けどもだ。非難して当然と思うが？」

「彼らも、好き好んで戦わなかったわけではなでしょう。目の前で仲間が次々と焼き殺されるのを見たら、恐怖を覚えて当然です」

「…………なるほど、わかった……気をつけるとしよう」

　中年の兵士は赤髪の兵士の言葉を理解はしたが、納得はしていなかった。

　赤髪の兵士もそのことに気付いていたが、納得させるまで話そうとは思わなかった。それ以上に、ある不安が赤髪の兵士を襲っていたからだ。

　赤髪の兵士は顎を摩（さす）り、考え込みながら辺りを見渡すと、頭を整理した。

「敵はおそらく、第１大隊と戦闘した後、味方を敵から離す為［シャイニング］を撃ち、その後、敵を一点に集めるために［ファイヤーレイン］を撃った。集まったところを［ファイヤーボム］で一網打尽にし、その後、残兵を掃討した。そういったところか……なかなか緻密な作戦だ……」

　赤髪の兵士は、敵を評価すると共に、自分の疑問を頭の中で整理した。

「やはり、おかしい……」

　そして、敵の行動の不可解さに気付いた。

「何故、敵は我々を攻撃しない。今が奇襲の好機だろう……味方を救出中の敵を襲うのは、武人として恥ずべき行為だからか？ いや、敵兵士を焼き殺すという判断を平然と行う奴だ、そんな理由ではない……」

　中年の兵士が赤髪の兵士の独り言を気にしている横で、彼は考え込み続けた。そして、自分が何に疑問を持ったのか明確になった。

「なぜ敵は［ファイヤーボム］を撃った？」

「貴官がさっき呟いていた通りではないか？」

「いや、［ファイヤーレイン］を撃った後、そのまま放置しておけば、燃え広がって全滅とはいかないが、第１大隊に大打撃を与える筈だ。脱出路があったとしても、４００人近くを脱出させるのは困難だ」

「確かにそうだな……」

「［ファイヤーボム］を撃たずとも、勝利した筈だ。なのに、何故わざわざ撃った？」

　赤髪の兵士は、また辺りを見渡し、考え込んだ。そして、気付いた。

「［ファイヤーボム］の爆風で火を消したのか？ ……何故消す？ 必要がなくなった…………そうかっ！」

　赤髪の兵士が敵の意図に気付いた時、それが遅すぎたことを告げる狼煙が上がった。