第140話 夜の王は聞いていた

「ところで、ミノちゃんの横にいるのは?」

「マイナールって国で召喚された時、一緒に来たんだよ。今考えてもヘンテコな国だったねー」

「召喚ねぇ……」


 血色の悪い顔を3人に向けると、興味深そうに眺めていた。寝起きで目つきも悪く、強烈な気配を漂わせているので、彼らには刺激が強すぎる。


 それぞれお辞儀しつつ挨拶するが、「は、はははは、はじめままましって!」「よよよろろろく!」まともに話せておらず、「…」とカオルに至っては声すら出ていない。


「ブルンザ王。お久しぶりです」

「んー。エルザか? 久しぶり!」

「エリンです! それよりも、気配を抑えた方がよろしいかと思いますが」


 ドラちゃんは、自分の体を眺めていくと、ポンと手を叩いて「なるほど」と呟く。直後に、今まで部屋中に漂っていた気配が無くなり、圧迫感が消失した。

 以前までは俺と同じ気を使ってるのかと思っていたが、今なら魔力だとわかる。かなり強くなっているし、もう以前の師匠を超えているんじゃ無いか?


「とりあえず、全員分の椅子と飲み物持ってきてくれ」

「ははぁ!」


 宰相が引っ込むと、間髪入れず従者達が往来し、アッと言う間にお茶会場が出来上った。


 従者の心配りが上手で、カオル達には癖の少ない紅茶、俺とエリンには花茶を出してきた。


「実さん達のと違うみたいですけど?」

「飲んでみたい?」

「気になります」


 すっかり調子を取り戻したアオイが、お茶に興味を示し始めた。その様子を楽しそうに見ていたドラちゃんが、従者に一声かけると、新しいポットとカップを持ってきた。


「せっかくだから、みんなも試し飲みしてみると良い」


 アオイ達は、恐る恐るカップに口をつけ少し口に含むと、カッと目を開く。

「んんん!」「にっが!」「うっ」反応はそれぞれだが、全員この苦さを味わってくれただろう。


「これもちょっと違うなぁ」

「まだ、味探ししているの?」

「ヒマな時にやっちゃうんだよね」


 不老不死という膨大な時間を使って、彼がやっているのは、生前に飲んだお茶の味を再現すること。

 そもそも彼は死後に味覚が変化しているから、完全な再現は難しい。現在の味覚でやろうとしていることに無理がある。

 カップを傾け一口啜ると、微妙に鉄の香りがする。


「昔も言ったけど、鉄入れるのやめようよ!」

「この方がおいしいんだって」

「せめて、俺らのには入れないようにしてくれよぉ」

「この味をミノちゃんと共有したい気持ち! わからないかなぁ?」


 そう思うならニンニク食えよ!俺が懐に手を入れると、両手で止めろとアピールしてくる。

 この特殊なお茶は、一応ダンピール達には評判が良いらしい。


「さて、本題に入ろうか? 聞きたいことがあるんじゃないのか?」


 今更キリッとした顔しても、一度抜けた空気は戻らんぞ?

 まぁ、聞きたいことはあったので、みんなと顔を見合わせつつ質問する。


「気になっていたことがあるんだ」

「何かな?」

「城の金ピカは趣味が悪い。どうしてやっちゃったんだ?」


 エリン以外の全員で止めに入ろうとするが、これだけは聞いておかなければいけない。


「止めないでくれ! こんな悪趣味の城なんて……マイナールも趣味悪かったな。他にないぞ!」

「ぷ! ぷっひゃっひゃ! ほら言われてるぞ? というかあの国と一緒レベルかよ」


 周りの従者達にも動揺が走っている。


「まぁ、何でかって言われると、わからない!」

「これは私から話しましょう」


 後ろに控えていた宰相が出てきて、話出す。


 この国の成り立ちは、ドラちゃんが目覚めた後、ここら近辺の村を保護したことに始まる。

 弱小の人族を魔物達から守っていくうちに、たてまつられるようになり、だんだん規模が大きくなって国へと成長していった。

 デカくなると増長する者達も出てくる。そんな者達が、城を豪華にしようと美しい物で作って行った結果。金ピカ城の出来上がりだ。

 増長していた奴は粛清してあるが、善意だった者も多く、拒絶しづらい状況らしい。


「寝室には手出しさせないようにしているが、悪意が無いから言いづらくてねぇ。でも、マイナールと似ているなら納得してくれるかもね」

「私も好きじゃ無いけど、あの国そんなに嫌われてるんですか?」

「君の名前は?」

「カオルです」


 カオルをしげしげと眺めると、一瞬こちらに目配せして、ニヤリと笑う。犬歯を尖らせすぎているので、唇に引っ掛かるまでがお約束だ。


「あの国も先日までは、そんなに悪くなかったんだけどね。20数年で変わったねー。何かに取り憑かれでもしたかな?」

「そうだったんですね」


 俺らは村八分状態だったから、城のことはよくわかってない。王弟様も聡明だと思ったが、王と王女には何も出来なかったんだろうか?

 その後も1人ずつ質問していく。


 アオイが聞きたかった周辺情報は、獣王国あたりとあまり変わらない。どの国も似たようなもので、軍事か商業か宗教か。どれかに偏りがあって、それが種族に現れている。

 軍事と宗教は少数種族でまとまり、商業は多種族で入り乱れる。ブルンザは一応商業中心を主張している。


 イツキの質問だが、今まで言えずにいたことをこぼしたという様子。


「元の場所に戻ることは」

「召喚だったね。どこからなのかな?」


 ポツポツと話し始め、時代の話に移った途端、ドラちゃんの眉間にシワが寄る。

 それでもイツキは話し続け、マイナールに残った生徒達は、魔王を倒せば戻れると信じていることを伝える。


「遠回しに言うのも悪いから、答えを先に言おう。ほぼ不可能だ」

「やっぱり……」

「ゼロでは無いと言っておくが、方法を知らない」


 その後、理由を答えていく。

 第一の問題が、過去に戻るというエネルギーをどうするか。

 次に問題なのは、肉体が耐えられないということ。

 仮に戻れたとして、時間がいつになるかわからない。

 最後の問題も悩ましい。


「君はどの過去に戻れると思うかな?」

「意味がわかりません。どのというのは?」

「ミノちゃんやエルザから聞いてないのか? 過去に2つの世界が融合したと」

「それらしい話は一応」


 ドラちゃんの見解では、仮に戻れた場合。時間もピッタリと全部が当てはまった。その時立ってる場所は、ハイエルフ達の世界に行っていないかということ。


「それはドラちゃんが考えたの?」

「私は興味無かったからね。全部ゴンが計算したことだよ。ゴンだよゴン!」


 思い出した。SKゴンだ。


「ゴンね。あいつのエネルギーまだ持ってるの?」

「まだまだ、あと3000年は使えるって言ってたよ」

「そんなに詰め込んでたっけ? それで、ゴンの答えだと戻れなかったの?」

「戻れないとは言ってなかったけど、融合されてない世界の話になったから、その先を聞くのは諦めたよ」


 別世界の話になったか。

 この話ぶりだと、面倒臭くなったな。

 アオイが気づいたような顔をしているので、声をかけてみた。


「あー、はい。僕は元々戻るつもり無いので良いんですけど……」

「教えてくれ! ダメならダメで教えてあげたい」

「イツキがそこまで言うなら」


 会話の中心となっている2人から、視線を逸らしてカオルを見る。ドラちゃんをジッと見つめ、笑顔を抑え込むような表情が、俺には羨望しているように思えた。

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