第137話 採取依頼2

 虎狩の後、3人はとうとう目的の場所を見つける。


「予想通りだったね!」

「アオイの予想が当たったな」

「こういう所は全然追いつかないわ」


 変装に力を入れ始めてから、アオイの記憶力が向上している。少しでもスキルに関わると補正がかかるのかもしれない。


「ペロちゃん。洞窟の中はどう?」

 シュルシュル。

「小型の動物がいる程度だって」


 カオルも魔物の扱いがうまくなり、意思疎通もスムーズになった。ピースに教えてもらったこともあって、魔物の知識は俺たちの中で一番だ。


 イツキは、現在エリンの指導に振り回されている。以上。


「ペロが入れる大きさで良かったね」

「えぇ。でも、こんなに道が広い洞窟もあるんですね」

「洞窟なんて入ったことないよ」


 3人は自然の洞窟だと思っているが、壁の様子を見ると掘削した後が見られる。モール族と友達になってなかったら、俺もわからなかったよ。ドワーフも掘削が上手いと聞いたので、彼らの仕事かもしれないな。

 壁をペタペタ触りながら眺めていると、みんなから遅いと怒られてしまった。


「ごめんごめん。すぐ行くよ」


 洞窟の中は、大人2人が並んで歩ける程度。カオルはペロにまたがっていられるので、高さもそれなりにある。

 5分ほど潜ったところで、目的の物も見つけられた。


「あった!」

「結構すぐ見つけられましたね」

「ちょっと拍子抜けです」


 いかにも簡単だと言いたそうな様子。難しいと言うほどの依頼でも無かったが、俺もこんなにすぐ見つかると思ってなかった。

 まだ奥に続いているが、ひとまず依頼を終わらせたいと言うので、街へ戻ることになった。


「探索とかしなくて良いのか? イツキなら、やりたいって言うと思ったけど」

「はい。初めての場所で無茶したく無かったので、イツキにも先に念を押していたんです」


 そこまで見越していたのか。海野さんと別れた後から、アオイのまとめ力が上昇しているな。


 帰りも弱い魔物は出てきたが、3人だけで対応しきってみせた。警戒等も全て任せていたので、俺とエリンの採取がはかどる。


「ノール見て見て! こんなに果物取れたよ!」


 エリンが布を開くと、山ブドウや柑橘類、俺も知らない種類のベリーがこぼれてくる。

 だけど俺も負けてないぞ。


「こっちもいっぱい取れたぞ!」


 移動中に作った蔦のカゴ。そこに山盛り乗せた山菜類が目に入らぬか!


「ほとんど毒じゃないか! 何これ? 食べるの!?」

「半分はくらげ達のお土産で、あとは調合と食用かな」


 弱毒は、毒抜きすると食える物もある。乾燥させて漢方にするものもあるな。


「うーん。こういうのはケープの方が得意なんだよね」

「ケープさんか。今は何してるのかな?」

「さぁ? 知り合いのところに戻るとか言ってたけど、議会から仕事頼まれてたしねぇ」


 エルフの集まりも結構面倒なのかな。


「あのぉ」

「どうした?」

「調合で思い出したんですけど」

「うんうん」

「実さん。ピースさんに調合ちゃんと教えました?」


 教えたことは教えた。それが基礎部分だけだから、満足出来たかは謎だけど…。スピカ国を出る時、ピースに確認すれば良かったんだけど、見つかりたく無かったし。


「その表情だと半端だったんでしょうね。ピースさん怒ってなければ良いけど」

「まぁ、どこかで会ったら聞いてみれば良いさ」

「実さんに? いつですか?」

「いつって…20年以内とか…」

「20年て! ピースさんには私から手紙出しておきます!」


 たかが20年くらいすぐだろう?エリンを見ても俺と同じく、なんでカオルが怒っているのかわかってない。


「ノールも気にするな。彼女がやってくれるんだから、任せたら良いじゃないか」

「そうだな。ところで、そのブドウ交換しないか?」

「そうだねー。これ位なら良いよ!」

「それは! パワーマッシュ4つは取りすぎだろ!」


 エリンはキノコ達を指輪のように挟んで楽しんでいる。


「たまには下級のキノコも良いよね。エルフの里じゃあまり出ないから、久々に食べたくなったよ」


 言い方の端々に悪意を感じる。というか、そもそも山ブドウ程度でパワーマッシュと交換というのがありえない。


「交渉は決裂だ!」

「だったら自力で採るだけだよ!」

「俺もブドウくらい採ってきてやるわ!」


 ◆


「どうだ!」

「こっちだって!」


 お互い布やカゴに、積み込めるだけ積み込んで、持ってくる。

 俺たちの間には、うず高く積まれた山菜や果物達が、今にも崩れそうになっていた。


「2人が動かないから夕方になっちゃいましたよ!」


 アオイの言葉で日が陰り始めていることに気がついた。


「エリンのせいだぞ」

「いや、ノールが悪い」

「なんだと?」

「文句あるのかい?」


「2人ともです! 今日の野営は2人で準備してくださいね!」


 ジッとアオイを見るが、知ったことではないと外方そっぽを向いている。


「わかったわかった」

「まぁ、今日は仕方ないか。私が場所を作ろう」

「じゃあ、俺が飯か」


 採ってきた山菜をぶち込んでも良いけど、今日は少しがんばってもてなすとしよう。

 畑の兄ちゃんから貰った小麦粉を取り出し、少しずつ水を入れて塊にしていく。


「こねこね。こねこね。こーねこね」


 ある程度の弾力になったら、小さくちぎって薄く伸ばす。

 羽虫共も寄ってきたので、手伝いをさせる。


「そうそう。もうちょっと薄くして。良いよ良いよ」


 木の棒で伸ばすと、小麦の皮が出来上がる。味付けしてある刻んだ野菜を包んで、簡易餃子の完成だ!


「あとは鍋にぶち込んで…。カオル!虎肉少しもらうよ」

「え? はい」


 脂身部分を少し貰って、鍋に入れたら良い香りがしてきた。軽く塩と香辛料を入れて、あとは最後に…。


「トッピングにニンニク入れますか?」


 3人とも唖然とした表情をしているが、しばらく待っているとイツキが意識を取り戻す。


「はっ! まさか! マシマシで!」

「マシマシいただきましたー!」


 おもむろに刻みニンニクを掴み、鍋に…


「待ってーーーーー! 私無し!」

「えっと、僕も無しで」


 えぇ!?右手に掴んだニンニクをどうしろと!本当に入れないのか?ニンニクだぞ?


「そんな信じられないという顔されても……」

「森では臭い出すなって言ったの実さんですよ?」


 ニンニクは臭いじゃないんだ!香りなんだよ!


「えっと、オレもやっぱりやめておこうかなー」

「ぷぷ。ノールも聞いたね! みんないらないってさー」


 全員いらないだと!?


「グルルルルルル!」

「あぁ。狼がきちゃいました」


 くそぉ。狼の癖にニンニクを睨みやがって。お前にもニンニクの良さを教えてやろう。


「秘技! ニンニク鼻栓!」

「グル!? きゃいんきゃいんきゃいん!」


 見ていた4人は、「うわぁ。あれは可哀想だわ」「犬系にニンニク詰め込むとか」「ひどい拷問を見た」「実さん、さすがにやりすぎだろ」とそれぞれ言いたい放題。


 自分のお椀に、ちびちびとニンニクを入れる作業が虚しい。

 しばらく作っていなかったが、改良型Mk−3ニンニクを作り始めよう。帰ったらメサと相談だな。

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